表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第3章 義星
33/187

槍術の藺家

登場人物

藺石りんせき…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。

藺授りんじゅ…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。

藺離りんり…………藺家の次子。槍の手練者てだれ。道徳的な思想を持つ。

 紀元前五二〇年、斉国せいこく臨淄りんし――。

 手にした槍の穂先は、どれも穂鞘に包まれていた。

 先ほどまで共闘していた者が、一瞬で敵になる。

 広大なやしきの庭で繰り広げられていたのは、槍を得物にした者たちの乱戦だった。

 寄り付く者が瞬時に打ち据えられている。

 中でも、腕の際立つ者が八人いた。その八人は、兄弟だった。母が同じ者もいれば、違う者もいた。だが、父はどれも同じだった。

 眉間にのみで彫ったようなしわを寄せている。四十も半ばに達した頃の丈夫じょうぶである。高台で腕組みし、鋭い眼光で混戦を検分していたのは、八兄弟の父親、藺石りんせきだった。

 その藺石の家柄は裕福だった。それもそのはず、斉国に請われ、兵たちに槍術を指南する立場にあった。加えて、百人ほどの徒弟とていを囲ってもいた。

 広大な邸の庭では、八兄弟と徒弟たちが、いつも切磋琢磨せっさたくまして槍の腕を磨いている。

 槍術の藺家――。

 年齢など関係ない。ちまたでそう呼ばれる藺家の一門では、当然、槍術が全てだった。槍術に巧みな者から序列が付けられている。

 当主である藺石は、まさに烈火の如き槍術の持ち主だった。槍風はほむらほとばしり、槍突には炎が渦巻いた。奇妙にも右手首の内側には、八芒星はちぼうせいの痣があった。

 藺石の血を受け継ぐ八人の兄弟たちは、長子がよわい二十一、末子が齢十三だった。槍術では、どの徒弟たちも八兄弟には歯が立たなかった。八兄弟の中でも、長兄の藺授りんじゅと次兄の藺離りんりが繰り出す槍術には、眼を見張るものがあった。しかし、ひとつ年長の藺授に、藺離は一度も勝ったことがなかった。

 百人ほどの徒弟たちが、皆、うめき声を上げながら倒れている。

 立っているのは、またもや兄弟の八人だった。兄弟たちは、皆、藺石から萬軍八極ばんぐんはっきょくのことを聞かされていた。強い者の右手首には、八芒星が表れると信じている。その八芒星が表れた者が、次代の当主ということだった。

 藺石の八芒星は、日増しに薄くなっているように見えた。その藺石も、八人の誰人だれかから八芒星が表れることを待ち遠しく思っているようだった。

 長兄の藺授は、年下の弟たちに容赦なかった。猛然と打ち掛かっては、地に膝を突かせた。

 片や次兄の藺離は、勢い良く打ち掛かってくる弟たちの槍を叩き落し、穂鞘ほざやで覆われた穂先で腹を突いていた。父の藺石、兄の藺授に比すれば、烈火の如き槍術には遠く及ばないように映った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ