築造の妖し
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
巩岱…………細作。介象に仕える。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
娄乾…………萬軍八極のひとりと思しき富豪。
蚩尤…………邪神。
九尾狐…………白い毛並み。探索、索敵が得意な妖し。
金烏…………黄金に輝く烏のような妖し。探索、索敵が得意。
彭侯…………木の精と呼ばれる妖し。寝床を作る業に長ける。
尾のない犬のような躰は、光沢を放った黒い毛に覆われている。よく見れば、人の顔に獅子のような鬣を備えているが、顔に掛からぬよう額の上で結っている。
現れたのは、木の精とも呼ばれる妖し、彭侯だった。
「すまぬ、彭侯。今日も頼む」
こくりと頷いた彭侯は、近くの雑木林に向かった。登った木立から無数の糸を引き出すと、それを編み込むようにして、忽ちのうちに屋根を備えた寝床を作った。
林立した木立の状況により、個別の寝床を拵えることもあれば、大きな部屋のようにして、内部を仕切る壁を作ることもあった。これで夜露に濡れることも、害虫に襲われることもないばかりか、安眠による体力の回復と私的空間が担保される。
これを一際喜んだのは、丘坤だった。
「いつも有り難う、彭侯。これでゆっくり休めるわ。明日も先に進める」
作業を終えた彭侯に、丘坤はにこやかな笑みで礼を云った。
それに彭侯は、照れたような素振りで応じた。
弓の使い方に眼覚めた介象の活躍もあり、糧食には困らなかった。
獲物の野鳥や野兎の肉、木の実や山菜、運が良ければ、行商人から餅なども手に入れることができた。それらを焚火で炙って糧食とすることが多かった。
雨天のときは、焚火に蝟集する介象らの頭上を覆うように、彭侯に屋根を張って貰った。
彭侯は、作業を終えるとすぐに消えてしまうこともあれば、糧食を貰い、腹を満たしてから消えることもあった。
焚火に照らされた影が長く伸びている。既に陽は落ち、食事を摂って寝床に就くばかりだった。
「陬まではもう少しです。あとは、娄乾という人物が、萬軍八極であることを自覚していれば良いのですが……」
丘坤は、食べ終えた鳥の骨を焚火に放った。炎がパチリと音を立てた。隣に座り、鳥肉を頬張る彭侯の頭を撫でていた。
丘坤の対面に胡座した介象が、はっとして返した。
「なるほど。丘家のように萬軍八極の役割と技を伝承しておれば良いが、長い時を経る間に、それが途絶えていることも考えられるか……」
「そのときは……萬軍八極が揃わずとも……蚩尤に立ち向かうしかないであろうのう」
葉で作った小皿に注がれていたのは、行商人から買い取った酒だった。それを舐めるように嗜んでいた霊亀姿の元緒が云った。




