狙撃の天稟
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
巩岱…………細作。介象に仕える。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
娄乾…………萬軍八極のひとりと思しき富豪。
蚩尤…………邪神。
九尾狐…………白い毛並み。探索、索敵が得意な妖し。
金烏…………黄金に輝く烏のような妖し。探索、索敵が得意。
介象はその弓で、びゅっと矢を放った。
「むむ……?」
その矢は地に突き立つと、狙い定めた鳥は驚いたように空へ飛び去ってしまった。
しっかり獲物に狙いを定めても、幾度も仕留め損なっている。介象は、その度に皮肉な笑みを浮かべ頭を掻いていた。
介象にとって、弓術は不得手ではなかったが、際立って得意という訳でもなかった。
「またもや豪快に外しとるのう」
丘坤の肩に乗った霊亀姿の元緒が、せせら笑っている。
それに反し、真剣な眼差しで介象の挙動に注視していたのは、丘坤だった。
面目なさそうに元緒と丘坤の許へ戻って来る介象に、丘坤は柔らかな微笑を湛えた。
「介象さま」
「ん?」
「古来より弓という武器は、戦況を大きく覆すことがございます」
「…………」
丘坤は、八芒星の痣を見せるように右手を差し出して介象の弓を催促した。介象より弓を手渡された丘坤は、背にした箭嚢から一矢抜き取りながら、ずいと踏み出した。
すぐさま何かを察した元緒は、丘坤から介象の肩にひょいと飛び移った。
丘坤は弓に矢を番えると、空を旋回している一羽の鳥に狙いを定めた。
「介象さま、まずは必中を意識するのです。放った矢が狙い定めた獲物を貫く場面を頭の中に描く。そして、矢に気を乗せる……」
丘坤から湧いた気が、膜のように全身を覆っているやに見えた。
きりきりと弓が撓っている。
「それらが定まるとき、矢を放つ瞬間は自ずと躰が反応します」
気が乗った矢が、びゅうっと放たれた。その矢は空を斬り、宙を舞う鳥に吸い込まれるように走った。
「――――⁉」
空を旋回していた鳥が、矢に穿たれ地に落ちた。
唖然としたのは、介象と元緒だった。
振り返った丘坤は、にこと微笑んだ。




