同志の糸口
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
巩岱…………細作。介象に仕える。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
娄乾…………萬軍八極のひとりと思しき富豪。
蚩尤…………邪神。
九尾狐…………白い毛並み。探索、索敵が得意な妖し。
金烏…………黄金に輝く烏のような妖し。探索、索敵が得意。
「その地では、数千もの私兵を有している富豪がいると耳にしました」
丘坤は、冴えた眼差しを介象と元緒に向けて続けた。
「その富豪の右腕には、痣があるとも聞いております」
「……其奴の名は?」
介象の肩から元緒が尋ねた。
「娄乾――」
丘坤は、期待を込めた眼差しを元緒に送った。
「どうなのだ、元緒よ?」
介象は、元緒の答えを促した。
「僕の妖しは、虎憑耳。我が徒弟は一番目、その子孫に相違あるまい」
「よし。まずは、陬を目指そう」
そう云った介象は、懐中から木札を二枚取り出すと、息をふっと吹き掛けた。
すると――。
一枚は白い毛並みの九尾狐に、もう一枚は黄金に輝く烏、金烏に変じた。
突如出現した見たことのない妖しに、丘坤は眼を剥いて口許を手で覆った。
「曲阜の状況が知りたい。探ってくれ」
介象の指示に、九尾狐は跳ねるように駈け出し、金烏は空高く舞い上がった。
「……二体同時に……それも、別々の妖しを繰れるものなのですね……」
驚愕した様相の丘坤が、感嘆の声を漏らしていた。
「油断するなよ、介象。蚩尤が先手を打ち、刺客を放ってくるやもしれぬ」
「わかっている、元緒。さあ、往こう。娄乾の許へ」
「はい!」
勇んだ介象に応じたように、丘坤が元気良く立ち上がった。
近くで草を食んでいた葦毛の駒が、一度嘶いた。
空を旋回していた一羽の鳥が地に降り立つと、介象は弓に矢を番え、それに狙いを定めた。
どこからか見付けてきた木を細長く削り、その両端に弦を張った。加えて、細い棒状にした数本の木の先端に、鋭く研いだ石を付けていた。
あっという間に完成していた。陬へ向かう途次、休憩の退屈凌ぎで丘坤が介象のために拵えた弓矢だった。




