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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第2章 礼星
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同志の糸口

登場人物

介象かいしょう…………方士。干将かんしょう莫邪ばくや眉間尺みけんしゃくの三剣をびる。

元緒げんしょ…………方士。介象の師であり、初代の介象。

巩岱きょうたい…………細作しのびのもの。介象に仕える。

丘坤きゅうこん…………美質な弓の名手。あやかしの狻猊さんげいしもべに持つ。萬軍八極ばんぐんはっきょくのひとり。

娄乾ろうかん…………萬軍八極のひとりとおぼしき富豪。


蚩尤しゆう…………邪神。


九尾狐きゅうびこ…………白い毛並み。探索、索敵が得意な妖し。

金烏きんう…………黄金に輝く烏のような妖し。探索、索敵が得意。

「その地では、数千もの私兵を有している富豪がいると耳にしました」

 丘坤きゅうこんは、冴えた眼差まなざしを介象かいしょう元緒げんしょに向けて続けた。

「その富豪の右腕には、痣があるとも聞いております」

「……其奴そやつの名は?」

 介象の肩から元緒が尋ねた。

娄乾ろうかん――」

 丘坤は、期待を込めた眼差しを元緒に送った。

「どうなのだ、元緒よ?」

 介象は、元緒の答えを促した。

しもべあやかしは、虎憑耳こひょうじ。我が徒弟とていは一番目、その子孫に相違あるまい」

「よし。まずは、すうを目指そう」

 そう云った介象は、懐中ふところから木札を二枚取り出すと、息をふっと吹き掛けた。

 すると――。

 一枚は白い毛並みの九尾狐きゅうびこに、もう一枚は黄金に輝くからす金烏きんうに変じた。

 突如出現した見たことのない妖しに、丘坤は眼をいて口許を手で覆った。

曲阜きょくふの状況が知りたい。探ってくれ」

 介象の指示に、九尾狐は跳ねるように駈け出し、金烏は空高く舞い上がった。

「……二体同時に……それも、別々の妖しをれるものなのですね……」

 驚愕きょうがくした様相の丘坤が、感嘆の声を漏らしていた。

「油断するなよ、介象。蚩尤しゆうが先手を打ち、刺客しかくを放ってくるやもしれぬ」

「わかっている、元緒。さあ、往こう。娄乾の許へ」

「はい!」

 勇んだ介象に応じたように、丘坤が元気良く立ち上がった。

 近くで草をんでいた葦毛あしげの駒が、一度嘶いちどいなないた。


 空を旋回していた一羽の鳥が地に降り立つと、介象は弓に矢をつがえ、それに狙いを定めた。

 どこからか見付けてきた木を細長く削り、その両端に弦を張った。加えて、細い棒状にした数本の木の先端に、鋭く研いだ石を付けていた。

 あっという間に完成していた。陬へ向かう途次、休憩の退屈凌たいくつしのぎで丘坤が介象のためにこしらえた弓矢だった。

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