手練者八人
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
巩岱…………細作。介象に仕える。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
蚩尤…………邪神。
「含光、承影、宵練の三剣はどうしたというのだ? そう安々と解かれる封印ではない。三剣がなくば、再び蚩尤を封印することは難儀じゃ」
「…………」
黙した介象を見遣ると、丘坤は澄んだ声音を発した。
「我が丘家は、蚩尤の復活に備え、方術に磨きを掛け、代々後世に伝えて参りました。蚩尤により世が混沌に陥る前に、介象さまに付き従い、身命を賭してそれを防ぐのが我が宿命。三剣がなくとも萬軍八極さえ集えば、再び蚩尤を封印することができましょう」
「丘家か。我が八番目の徒弟の末裔、丘坤よ、よくぞ申した。それにしても、八番目の徒弟は厳つい丈夫じゃったが、時を経てこれほどの別嬪が生じようとは、これも人というものの妙じゃな」
丘坤は、にこりと微笑んだ。
「待て」
力強い声を放ったのは、介象だった。
即座に丘坤から笑みが消えると、その視線は介象に注がれた。
「当世の介象は、俺だ」
「ほう。大きく出たな。対手は手強いぞよ、介象」
耳元で云った元緒を他所に、介象は丘坤の手に注目した。
掌には、幾つもの肉刺ができていた。どれも、堅くなって破れることを繰り返したようなそれだった。
「よほど鍛錬したと見える。お主のような手練者が八人もいるのは心強いな」
介象は、丘坤に眼を細めると続けた。
「だが、残りの七人を探し当てたところで、蚩尤に太刀打ちできるのか? 聞けば、古の戦は軍勢を用いたようだが……?」
「いかにも」
元緒が意気揚々と応じた。
「何か策はあるのか?」
「ない‼」
質した介象に、元緒は更に声高になって返した。
「ここより南に陬という城郭がございます」
語り出した丘坤に、介象と元緒が視線を遣った。




