萬軍八極の捌
登場人物
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
巩岱…………細作。介象に仕える。
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
蚩尤…………邪神。
立ち止まった介象に、その騎馬が寄せて来た。
眉は秀で、唇は紅く、聡明そうな瞳だった。馬上の娘子は、介象の前で駒を止めると、下馬して拝跪した。
すると――。
拝跪した娘子の肩越しに、すうっと、獅子のような頭が宙に出現した。
介象の背後から感じられる視線が消えていた。
「ほう。狻猊とは、久方振りにお眼に掛かるのう。視線の主は、此奴であったか」
云ったのは、介象の肩に鎮座した霊亀の姿の元緒だった。
娘子は、爽やかな微笑を湛えた。
「御無礼をお許しくださいませ。極主さまを探し当てるため、狻猊を遣っておりました」
一礼を施した娘子は、美質の顔から笑みを消すと、真摯な眼差しで告げた。
「私は、萬軍八極の末裔、丘坤と申します」
頭だけ宙に浮いていたような狻猊の姿が、すうっと消えていた。
「…………?」
「ば、萬軍八極じゃと――⁉」
訝しむ介象を他所に、顔色を変えたのは元緒だった。
その元緒は、徐に丘坤の右手首に視線を移した。
それを察した丘坤は、袖を捲くって八芒星の痣がよく見えるよう右腕を差し出した。
丘坤の痣をまじまじと見遣った元緒は、息を飲んで続けた。
「右腕に八芒星……。萬軍八極のひとりに相違なかろうが、お主が現れたということは……」
銅鑼のような声音を放った霊亀の元緒に、丘坤は臆することなく頷首してみせた。
「ここへの途次、魯の都、曲阜は、得体の知れない者どもの巣窟と化したと耳にしました。その脅威は、日増しに大きくなりましょう」
「蚩尤が目覚めたと申すか――⁉」
声を大きくした元緒に、丘坤はこくりと頷いた。はっとしたような元緒は、唸るように呟いた。
「近頃の地震は、蚩尤の仕業であったか……」
狼狽えたような元緒の様子に、合点のいかない介象が怪訝な顔を向けた。




