新たなる僕
登場人物
計蒙…………龍頭人身の妖し。剣の手練者。
大鶚…………尼丘山に住まう怪鳥の妖し。
「今だ」
偉丈夫の声音に、三体の計蒙が大鶚を眼掛けて虚空高く跳ね飛んだ。背より剣を引き抜いた三体は、斬り伏せようと得物を振り上げた。
「ギャ、ギャッ」
瞬間、たじろいだ大鶚は、虎のような爪を計蒙たちに向けながら、さっと、更に上空へ身を移し、間合いを取った。
切っ先すら届かず、黒い影は着地していた。大鶚が姿を捉えたのは三体の計蒙だった。
刹那――。
大鶚の首を掠めるように、天から降ってきた青い閃光と、もうひとつの黒い影がその眼に映った。
「汝、我が僕とならん――」
黒い影は、地へ吸い込まれるように落下して往ったのである。
「ギャ、ギ――」
大鶚の鳴き声が途中で止まった。止まったかと思えばその首は胴から離れ、真っ逆さまに地へと向かった。
虚空で羽搏く大鶚の胴は、失った首から血の雨を降らせると、木々を薙ぎ倒す轟音と共に力なく地に落ちた。濛濛とした砂塵が舞い上がる。
「好い好い」
蓑笠の下に浮いた不敵な笑みが、満足げなそれに転じた。無惨にも横たわった大鶚の遺骸、その上に佇む偉丈夫へと眼を遣った。
三体の計蒙も大鶚の屍骸の上に軽々と跳躍すると、偉丈夫の許へ身を寄せた。
「御苦労だったな」
漣然とした光を放っている。漆黒の襤褸を纏った偉丈夫は、手にしていた青鋼剣を鞘に収めた。
ふっと、三体の計蒙の姿が薄くなって消え、木札となって落ちた。
それを拾い上げた偉丈夫は、懐中へ仕舞い込むと、新たな木札を取り出した。
すると――。
大鶚の遺骸も薄くなり、その木札に吸い込まれるように消え入ったのである。




