勇の幼馴染
登場人物
昭公…………魯国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
王子喬…………冥界より派遣された方士。
蚩尤…………邪神。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
裴巽…………魯国の若き将校。
讙…………狸に似た隻眼の妖し。
鐸飛…………怪鳥の妖し。人面で一足。
飛廉…………風を自在に操る妖し。
刹那、摚っと、玉座の間に押し寄せたのは、武具で身固めした五十人ほどの閲兵たちだった。
「な、何が起きているというのだ……?」
玉座の間の惨状を前に、先頭に立った閲兵の長は忽ち眼を剥いた。
頬を膨らませた飛廉の息弾が走る。
閲兵の長の頭が血煙を上げて弾けると、その身は仰け反るように斃れた。
「何をしておるか‼ さっさと玉座に在る者と青い大男を討ち取れい‼」
声を荒らげたのは、頭を抱えながら身を起こした季平だった。それだけ云い放った季平は、さっと再び身を屈めた。
「往け‼」
号令を発した若い将校に、五十ほどの兵たちが飛廉に刃を向け殺到する。
「季平さま、叔孫豹さま、孟献さま、今のうちに兵どもの後ろへお下がりください! 何があっても、私がお護り致します!」
朝服を纏っている。文官にしておくには惜しいほどの巨漢だった。三公には飛耳長目の才ありと評され、次代を期待される而立の頃の若き文官だった。
「頼りになるのは、お主くらいのものだ、陽虎」
そう云った季平は、陽虎に誘われるようにして、叔孫豹と孟献と共に兵たちの後方へその身を移した。
飛廉は、迫り来る閲兵たちに虎爪を立て、勢いよく虚空へ振り下ろした。
舞爪――。宙を走る虎爪の斬撃に、閲兵たちの身は次々に斬り裂かれている。兵の身を斬った舞爪は、弾かれたように次の兵に向かって飛び、その身を斬っていた。
次々と舞爪を繰り出す飛廉の前に、兵の垣根を掻き分け、躍り出たひとりの勇ましい兵がいた。双眼は烱烱として鋭い。身に迫る舞爪を得物の戟で弾き返している。
その姿を認めた飛廉は、ふっと息弾を放った。
勇兵は、息弾すら身を翻して躱すと、同時に戟を振り上げ、疾風の如く飛廉に迫った。
「ほう。少しは骨のある奴がいたか。霊気の才も備えている」
肩肘を突いた蚩尤は、六つの眼を勇猛果敢な兵に向け北叟笑んだ。
「裴巽か――⁉ ここは、奴の武略に頼るほかないか……」
兵たちの後方に下がった陽虎は、脅える三公の盾になりながら、飛廉に挑む裴巽の背に眼を遣った。
裴巽は、宮廷に仕える将校のひとりだった。その武略は兵たちの中でも群を抜き、文官の陽虎とは幼馴染の旧知だった。




