舞う血飛沫
登場人物
昭公…………魯国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
王子喬…………冥界より派遣された方士。
蚩尤…………邪神。
讙…………狸に似た隻眼の妖し。
鐸飛…………怪鳥の妖し。人面で一足。
飛廉…………風を自在に操る妖し。
よく見れば奇妙な出で立ちをしている。
青い躰に豹のような斑紋と蛇の尾があった。頭には二本の牛のような角が生え、頭髪は細かく縮れ、太い眉は昂がり、口許からは虎のような牙が生えているのがわかる。指にも虎のような鋭い爪を備え、両の手首と足首に金輪を付けていた。不可解なことに、膨らんだ白い布袋の口を握るようにして担いでいる。
「――――⁉」
新たな得体の知れない者の出現に、魯の重臣たちは再び言葉を失った。
「飛廉だ。貴様らが仕えるべきは誰人なのか、此奴が解らせてくれる」
蚩尤は不敵に顔を歪めると、徐に玉座へ腰を下ろし、その足を組んで頬杖を突いた。
その時だった。
飛廉は、頬を膨らませると、ふっと息を吐いた。
ひとりの重臣の頭が弾けると、血飛沫を上げ、その身は後方へ投げ出された。
「ヒイイ――‼」
驚愕の声を上げながら、頭を抱えて身を伏せたのは三公の季平だった。
「ば、化け物か――⁉」
「この世の者ではないのか――⁉」
季平に続いて、同じようにしたのは、これも三公の叔孫豹と孟献だった。
それにも構わず、飛廉は矢継ぎ早に口から息弾を放った。
次々と頭を割られた重臣たちの血飛沫により、玉座の間は忽ち血の海と化した。
「え、閲兵どもは何をしておる――⁉」
頭を抱えた叔孫豹が、声を顫わせながら孟献に尋ねた。
「ま、間もなく現れるはずじゃ‼」
孟献は、頭が破裂した重臣の躰が斃れ伏すのに眼を背けながら応じた。
玉座から眼前の惨状を満足げに見遣っていたのは、蚩尤だった。
「やはり、私利私欲に塗れた者らの魂は不味いものだな」
玉座の間を見渡した蚩尤は、頭を抱えて伏した三公を、身を呈して守護しているひとりの臣を認めた。
「ほう。良い度胸をしている」
蚩尤がその者の背に視線を走らせたときだった。
季平、叔孫豹、孟献の身に覆い被さるようにして護っていた者が振り返った。屹っと、蚩尤に睨みを利かせた。




