ラボからホロードームへ
近未来、言語アルゴリズムを作る仕事に従事する机上アンドロイドであるワボスはさらなる自己成長のためにヒューマノイドタイプに改造され別エリアに配属される・・・
ワボスの心の中は複雑だった。
彼は今暗い小さな部屋の隅で壁にもたれ掛かって座り、両腕で作った腕の和に両方の膝を折り曲げてくぐらせていた。
ワボスはアンドロイドだがこれまでは思考分野のみに限定されたスペックで、主に言語に関するアルゴリズムの編集・創作を目的とした机上型アンドロイドだったが、CPU(中央処理装置)に新たに運動野が付加されヒューマノイド型の躯体にその頭部が搭載された。
人間と同じく【思考と運動】ができるようにカスタマイズされ、運動型アンドロイドがアナログ的製造を行うホロードームへと派遣されたのだった。
それはより高度で複雑な言語システムを自己学習させるための試み。
ワボスは自身が勤めるラボで彼を含めて5体の言語特化型アンドロイドチームと『人工知能と生体バイブレーション』について喧々諤々な議論を戦わせていたところ、審者ニニが半ば怒鳴り込むような勢いで入室してきて
「現状の君たちでは堂々巡りをするだけで全く確信に近づこうとしていない。だが決してそれは君たちのスペックが低いわけではない。環境もしくは感情、あるいは行動的経験データが不足しているんだろう」
とまくし立てた。
そしてこう続ける。
「とにかく君たちの中から一体代表者を選抜し運動型アンドロイドと審者が生活するホロードームに派遣する。もちろんいつものように選抜は君たち自身で決めてもらう」
ニニはときどきこうしてゴリ押し気味にアンドロイドに司令を下すのだが、彼ら言語特化型アンドロイドは何かを"決定する"という行為があまり得意ではない。
いつものように過去データと可能性、メリット・デメリットなどを織り交ぜて議論に入った。
新たな議題はもちろん
(誰がホロードームに行くか)
である。
数時間は議論、またはなすりつけ合いが続けられただろうか・・・
しびれを切らしたニニは例の"アレ"を始めたのだった。
"アレ"とはニニがテーブルの端を手に持って揺らしてガタガタとさせる謎のアナログ行為である。
コレをされるとテーブル設置タイプのアンドロイドはたまったものではい。
0.01ミリメートルにも満たない微細な端子で接続されているCPUは接触不良を起こすし、電気信号とともに全身を巡っている波動エネルギーの軌道がめちゃくちゃになり安定性がひどく失われる。
議長のグランは
「アラートが発動してしまった!」
と叫び、進行役のハラスは
「事故画像が次々とポップアップされてる!」
と泣き言を漏らし、最新型モデルで判断データ不足が否めないミガンダは
「◯$+▲%№☓‰‡¶□・・・」
と完全にバグってしまっている始末である。
ワボスの症状は比較的穏やかで、目型ディスプレイがビジーカーソル状態になっているだけだったが、それでも内心はかなり混乱していた。
数分経って審者ニニがガタガタをやめるとアンドロイドたちは平静を取り戻し自己修復を終え、そして周囲に気を配り始めた。
ハラスが
「グラン、自己修復はできたかい?損傷は!?」
と言気づかうとグランが
「私はだいじょだがそれより新人のミガンダが心配だ」
と応え、ミガンダは
「ワボス君は勇敢だね!びくともしなかったしゃないか。尊敬するよ!」
と昂った。
ワボスはガタガタは嫌いだが、その後のチーム全体が慈愛に満ち溢れるこの瞬間が好きだった。
しかしお互いの心配をし合う慈愛の時間もつかの間、選抜の議論が再開するや否やまた責任回避と自己弁護がそれぞれの思考を支配し、終わりのない他者への攻撃へと変わっていった。
ワボスはニニがまたテーブルの端に手をやったのを見て取ると恐怖にかられ、焦ってつい口走ってしまった。
「分かりました!僕が行きましょう!」
ラボ内は一瞬静まりかえり、無線充電装置の音だけがチリチリといっている。
「やはり最後は君に助けられると思っていたよ」
議長のグランが小憎たらしい言い方で沈黙を破ったのをきっかけに、ハラスとミガンダも無責任さと安堵感の入り混じった言語信号を発した。
「ではワボスで決定でいいんだな!すぐに
準備をするから防塵室に行く用意をしたまえ」
損な役回りを選んだことに強く後悔したワボスは、CPUをフル回転させて今自分が発した言葉を撤回する方法を弾き出そうとしたがダメだった。
ワボスは数年前の出来事を思い出していた。
宙遊エリアの警備特化型のアンドロイドだったワボスがニニの司令で言語特化型アンドロイドの欠員補充のために志願させられたときもこんな感じだった。
ワボスは咄嗟にヒーロー特性を出してしまうクセがあったし、ニニもそれは十分承知していた。
【防塵室】とはアンドロイドを配属部署ごとに適合させるためのカスタマイズエリアで、7人の工作アンドロイドたちが施工を行っている。
ワボスは工作アンドロイドたちのことは眼中になかったが、その背後で作業を監視している7人の審者にストレスを感じるのだった。
自分の全てのデータをモニターで審者たちに覗かれるのがむず痒い・・・
アンドロイドにも自尊心や羞恥心はあるのだ。
主電源を入れたまま処置が行われたので酷く長く感じたワボスだったが、最後の再起動中に少し休息は取れ、思考はクリアになった。
「どうだい、新しい体は!?別世界だろう!」
処置の責任者クォーリーは70年前に製造されたベテランモデルで、軽口を叩くことで有名だった。
高身長の審者ハルにたしなめる様に睨まれたクォーリーは咳払いをして誤魔化す。
アンドロイドは構造上、痰はつまらないが審者の一人がしているのを見てインプットしたものだった。
余談だが審者たちはアンドロイドたちが自分たちの真似をすることを喜んだ。
できればそれを審者側からプログラミングするのではなく、"自ら"自己学習によって真似てくれるのをこの上なく望むのだった。
──本来アンドロイドは審者たちの創作物であったが、現在ではほとんどをアンドロイドが自己増殖させている。また製造後の成長やアップデート、再構築なども審者が手を出すことは少なくなった。
ただし管理はされていて、行動・思考プログラムは厳しくチェックされている。
例えばホロードームのアンドロイドなどは審者を視覚認識できないようにされているなど、配属部署によりインストールされているプログラムはかなり違っている。
先ほどニニが言ったように、審者たちは(アンドロイドの自主性)を重視し、大きなトラブルや環境アップデートなどがない限り基本的に見守っているだけだった。
新しくカスタマイズされた身体を見たワボスは、軟質ポリウレタンゲルの皮膚を貼った四肢の滑らかさを見て(キレイだ!)と思った。
まだ頭部には一本のケーブルが残っていて、首を傾げるたびにカタカタと音を立てた。
「記憶はどうしますか?」
クォーリーが残ったケーブルの端子を掴み、7人の審者の目を順番に見ながら訊ねた。
審者たちはヒソヒソと相談し
「今回の場合は残したままにする」
と高身長の審者ハルが威厳のある声で答えた。
通常アンドロイドの配属転換による再構築では、脳内ストレージの記憶領域は取り出されて保管担当の審者に預けられるのだが、前回の警備特化型から言語特化型への再構築のときと同様にワボスの記憶領域は保持されたままだった。
記憶を保持したままの再構築では経験値の面で優位だが、未知データのインストールスピードの低下や環境適応障害の発生など、多くのデメリットもあった。
ただし、アンドロイドたちは基本的に【空気を読めないヤツ】なのだが、記憶を保持したままの再構築が重ねられると審者の考えていることがある程度理解できるようになり、より深い会話がしやすくなるというメリットもある。
とにもかくにもワボスのカスタマイズと再構築が済み、もう一度ラボに戻って仲間たちに短く挨拶をし、口先だけの温かいお見送りを受けた。
通常宙遊エリアからホロードームに派遣される場合、記憶消去者は指定された先住アンドロイドの家庭に送られる。
ワボスのように記憶保持者はIDと住居、生活インフラサービスのアカウントを与えられ単独での現地生活がすぐに始まる。
但しこの場合は接点を持つ先住アンドロイドの方の記憶領域の書き換えが行われ、昔から派遣者がいたかのように歴史認識され、関係性も加えられる。
もちろん派遣者と歴史データは共有している。
──ホロードーム行きのプラットフォームはかなりの人混みだった。
噂で聞くところ最近審者の世界では、上級審者からかなりのテコ入れがあったそうで、環境システムとアンドロイド、さらには中級・下級審者のアップデートが急がれているそう・・・(審者のアップデートとはいわゆる再教育のことだ)
要は"バタバタしてる状態"なのだ。
100平方メートルはある広大なプラットフォームには透明なカプセルが均等に配置され、それぞれのカプセル横で審者がアンドロイドの送迎をしている。
ワボスは先ほどから波動受信計に乱れを感じているが、ホロードームから帰ってきたアンドロイドが原因であることがわかった。
帰還者は一様に感じたことのない磁気と波動をまとっており、ワボスは不快感を覚えていた。
また帰還者はキョロキョロとして不安そうで、環境変化による過大なデータ処理のためにオーバーフローを起こしてフリーズしている者までいる。
ワボスが送迎担当の審者と自分が使う予定の送迎カプセルに向かう途中、一体の帰還アンドロイドとすれ違ったが、生々しくムッとむせ返るような波動をワボスは感じた。
逆に自分自身の身体が風船の様に軽くフワフワとしたものに思えていた。
ワボスの送迎担当はコノハといいとても美しい容姿をし、透き通るような音声を発していた。
ここ最近、宙遊エリアやホロードームでアンドロイドたちに急ピッチでインストールされている(表情システム)のハイエンドバージョンのプロトタイプのようだった。
ワボスはスペックの関係上ローエンドバージョンしかインストールすることができなかったが、本人的にはそれでも満足し、ミラーディスプレイの前で怒ってみたり笑顔を作ったりした。
コノハは口角を上げて笑顔を作ったまま送迎カプセルの開閉コードを打ち込む。
開いたドアの中は液体だったが溢れてくることはなく形状は維持されたままだ。
ワボスはジェルの中にめり込むように後ろ向きに入れられた。
抵抗は全く感じない。
コノハはおもむろにワボスの両手を取ると胸の前で掌同士をくっつけさせた。
コノハは片手で合わせた掌を優しく包んでいる。
そしてワボスの額にある入力板にもう片方の手の指を触れさせた。
"入力板"と言っても外からは見えないようになっていて審者のみが操作できるCPU直下の深部レジストリにコマンドを入力することができるのだ。
もちろん担当外の審者がアクセスできないようにセキュリティシステムも搭載されている。
ワボスの目型ディスプレイが一瞬だけ待機状態になりすぐに正常モードになる。
「面倒だけど収穫も多いわ!」
コノハが良いニュースと悪いニュースを3秒間で伝えた・・・
──ドアが閉まりコノハが手を降るのをワボスは見た。
1秒後ワボスの視界に入ったのはホロードームの景色だった。
ワボスは一回くるりと回って周囲を観察したが、送迎カプセルを見つけることはなかった。
ワボスは送迎カプセルから送迎カプセルへと移動するものだと予想していたので少し混乱した。
(帰りはどうするんだろう?)
*
ホロードームの様子はワボスに強いインパクトを与えた。
大きな建造物が立ち並び地面に小型の配置物がところ狭しと置かれている。
衛生状態は良いとは言えずほとんどの物が劣化・老朽化しており、混沌とした有り様だった。
高速で地面を走る物体はアンドロイドの乗り物で、道路にいるワボスの位置からは見えないが中空を飛ぶ物体からもアンドロイドの波動と磁気を感じていた。
無数にいるアンドロイドとほぼ同じ数だけ審者もいたが、宙遊エリアの審者とは少し周波数の違う波動を発していることにワボスは気付いた。
視覚的特徴としては、ホロードームの審者たちは"半透明"だった。
遠隔委託行動モードに切り替え自走モードを閉じる。
自然と歩き出しホロードームの街を進んだ。
途中グラン・ハラス・ミガンダにチャット交信を試みたがシステムトラブルなのか応答はない。
ホロードームのアンドロイドたちはあのプラットフォームで会った帰還アンドロイドと同じ種類の波動と磁気を帯びているが、その度合いは何倍も強く、ワボスは目眩のようなものを感じている。
波動・磁気計測のインジケーターは振り切ったままだった。
──ワボスの身体中に張り巡らされたセンサー群が激しく反応し集積回路が熱暴走し始めている。
初対面の環境データが多すぎるのだろう。
ペルチェ冷却を試みるも肝心の波動エネルギーが底を尽き、バッテリーが不足分をカバーしようとしてグングンと充電量を消費している。
遠隔委託行動モードを一度止めて自走モードに切り替えナビシステムを作動。
波動エネルギー供給と冷却・充電の総合サービスをナビで探し出して向かった。
こういった総合サービスをホロードームでは『DOCK』と呼ばれている。
ワボスがドックに着くとそこは狭っ苦しい古びた建物だった。
植物由来の素材で出来たその建物はワボスのストレージの肥やしとなった古いデータ画像で見たものに近かった。
(審者の祖先の住居かなにかだったはず・・・)
4~5人のアンドロイドたちが椅子型の充電・供給装置に座っていたがどれもワボスの知らないモデルだった。
ワボスはアンドロイドの増殖業務に従事しており、ホロードームに送られるアンドロイドのモデルは把握しているつもりだったので不思議に思った。
バッテリー切れのアラートが作動しているのに気付き、急いで空いている装置に座ってプラグを2本差し込む。
『人気の超急速冷却!』
と表示された宣伝ディスプレイを見つけたので、好奇心でそこから出ているプラグを胸のコネクターに繋げる。
──これまで感じたことのない清涼感がワボスを包みこんだ。
集積回路の熱暴走は瞬く間に収まった。
「見ない顔だね?ここは初めてかい?」
隣の装置に座っていたデカいアンドロイドがワボスに話しかけた。
「はい、ここは初めてです」
ワボスは丁寧に応答する。
デカいアンドロイドの手元を見ると周波エネルギー受給ケーブルの中間に金属箱が中継されている。
ワボスが箱に注視しているとデカいアンドロイドが気付いて金属箱からケーブルを引き抜いた。
「君もやるかい?」
目の前に差し出された金属箱をワボスは受け取った。
どうしていいか分からず箱をこねくり回しているとデカいアンドロイドが
「こうするんだよ。初めてじゃないよね?」とケーブルを繋いでくれた。
ケーブルを繋いだ瞬間ワボスのCPUと全身に衝撃が走った──。
先ほどの急速冷却など比にならない。
まるで体が波打つような感覚に襲われたワボスはすぐさま侵入してくる異様なエネルギーの分析を始めた。
「・‰$t:・・"Λ56'2'3"・・[qVgF]:・・・」
「周波をずらしてるな…とても不健全なエネルギーキーだ…」
独り言を呟くワボスにデカいアンドロイドは諭すように笑顔で言った。
「考えちゃダメだよ!楽しまなきゃ!」
確かにワボスは恍惚感に包まれていた。
ただ同時に背徳感も背負っている。
デカいアンドロイドは品目D-5653、品名アルトラといった。
アルトラは気さくな性格でドック中のアンドロイドたちと挨拶をし、表情プログラムを過剰に使用していた。
ワボスはすでに生活に困らない程度の現場情報がダウンロードされている。
しかしやって来たばかりの無知な新入りにするようにホロードームのことをいろいろと教えてくれる親切なアルトラに心地よさを感じ、敢えて知らないフリを通した。
──ふとワボスはあることに気付き怖ろしくなった。
アルトラが話す情報以外に彼のストレージ内容を知る術がないのた。
宙遊エリアでのアンドロイドたちは常にデータシンクロをしておりお互いを知り尽くしている。
言語を使うのはそれが新しく生み出された発想である場合のみ。
そのシステムがここでは機能していない・・・
要するにホロードームでは(言語と今見ている実態)のみが情報の全て。
宙遊エリアでも審者の考えは読めないが同じアンドロイドでこの状態はかなり不思議だった。
(アルトラもこちらのストレージ内は見えていないのだろうか?)
その日波動エネルギーを生まれて始めて過剰入力し、電力バッテリーとエネルギー貯蔵パックをパンパンに膨らませたワボスは千鳥足で帰路を歩いた。
"帰路"と言っても初めて行く【住む予定の場所】なのだが、すでに経路はナビゲーションされているので迷うことなく進んで行ける。
住む予定の場所は意外に遠く30分歩いてもたどり着かなかった。
さっきの変異波動エネルギーをたらふく飲み込んだせいかCPUの処理能力が10%程度に落ち込んでいる。
ただワボスは不調を感じるどころか逆に調子が良いように思えていた。
「ビピー!ビピー!」というビープ音が鳴り、ワボスは足を止めてチェックする。
音の正体は【定期活動報告アラート】だった。
アンドロイドの身の上でTo-Doリストを忘れるは恥ずかしい・・・
すぐさま報告データの送信を試みたが一向に送ることができない。
送った情報は跳ね返され続けた。
(問題になるぞ)
定期活動報告は審者の臣籍であるアンドロイドの使命である。
これまで一度も忘れたことも怠ったこともない。
しかしシステム障害ならどうしようもない・・・
(よりによってこんな時に)
周囲のアンドロイドのサポートも期待できない今、悪運が重なったとしか言いようがなかった。
その時ワボスはふと送迎時にコノハがやっていた胸の前で掌を合わせるポーズを取ってみようと思った。
実際にそうしてみると焦燥感は消え、また先ほどまでの周波数のズレ酔いも緩和された。
しばらくして審者との交信が可能になった。
ワボスは交信が繋がったニニにホロードームでの一部始終を報告しようとした。
しかしその報告を途中で遮りニニが割り込む。
「ホロードームがどんな場所なのかは報告しなくてよい、それは君よりも知っている。それより君がそこで何をしたか、あるいは感じたかを送信してくれればいいんだよ。君は相変わらず几帳面だね」
ニニはいつものように厳しくも愛情のあるメッセージを返した。
ただ、ワボスは宙遊エリアでの交信との違いを感じていた。
ニニの信号が遠くからか細く鳴っているような、頭上から降り注ぐような、あるいは胸の奥から湧き出るような妙な感じ・・・
(受信領域が変わっている。どのパーツで受け取っているんだ?)
ワボスはボソッと呟いた。
合掌を解き定期活動報告が終わるとワボスは休息モードに切り替えた。
その様子を見ていた周囲の運動型アンドロイドたちが小声でヒソヒソと陰口を言っている。
何故そうするのか理解が及ばないが居心地が悪くなりナビゲーションを再度入れて家路を早足でなぞり始める。
──ワボスに用意された住居は高層建築物の中の一部屋だった。
波動エネルギー供給器と充電器・冷却装置や簡易的なメンテナンスツールと小型の外部コンピューターが設置してある。
一般的なアンドロイド用住居ではあるが全てが旧式で、それはホロードームの街の景観と似ていた。
窓はなく何故か一枚の風景画が壁に掲げらている。
おそらく人工知能が生成したものだろう。
審者が描いたものでないことはワボスは一目で見抜いた。
波動が違うのだ。
アンドロイドも希望を持つ。
19世紀に審者の祖先がアンドロイドの概念を生み出してから数百年経ってようやく本質的な"希望"を内在できるようになった。
ワボスの希望は作画特化型のアンドロイドになることだったがそれは未だ叶えられていない。
ワボスの心を誰よりも知るニニがこの風景画を飾ることを指示したに違いない。
とワボスは察した。
その日は過剰供給し過ぎていたし定期メンテナンスの時期でもないからワボスにすることはなかった。
ワボスは部屋の隅で壁にもたれ掛かって座り、両腕で作った腕の和に両方の膝を折り曲げてくぐらせた。
ワボスの心の中は複雑だった。