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背負わされた十字架

作者: 小雨川蛙

 

 酷い場所だった。

 若者が老人に暴力を振るわれる世界だった。


「お前、生意気なんだよ!」


 そう言って殴られる。

 笑いながら流そうとすると噛みつかれる。


「馬鹿! 生きてる価値なんてねえ!」


 毎日のように続く。

 故に相談をした。

 私の上長に。


 すると上長はヘラヘラと笑って答えた。


「それを我慢するのが仕事だよ」


 故に耐え続けた。

 一年以上。


 ある日、限界が来た。

 私の怒りは反射的に『仕返し』という形で老人を傷つけてしまった。


 上長はそれを確認した。

 そして処罰を下した。


「二度とこんなことをするな」


 よって、私の罪は消えた。

 いや、覆い隠された。


 発覚しようがなかった。

 何せ、上長は隠して、私は語らず、そして老人は訴えない。



 何故なら。


「あの人、もう妻の私の顔さえ分からないの」


 老人は認知症だったから。

 老人の妻は穏やかな人だった。

 暴力を振るわれながらも献身的に介護をする私を気に入ってくれていた。

 彼が私を殴る度に何度も何度も謝罪をしてくれた。


 きっと。

 服に覆い隠されていた傷に気づいていただろうと私は思った。



 老人は二年後に亡くなった。

 老人の妻は私にだけ言った。


「本当にご迷惑をおかけしました」


 きっと。

 その言葉に裏はないと思った。


 だけど、その言葉が未だに私の背を重くする。

 重くし続ける。


 それが救いなのだろうと思わずにはいられなかった。

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