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24 王都の夜

 さてもう夕方なので今日の宿を探そう。


「探そうったって、まあ知ってるけど」

「当てがあるの?」

「うん、北門前通りにある、『マルスのお昼寝時』ってお店。旅商人にわりと人気らしい」

「へぇ」


 俺は田舎町で情報収集をしたからね。

 もちろん王都のおすすめの宿の情報も知っている。

 ただ少し心配なのは、情報自体がたぶん十年くらい前の事だと思う。

 今もやってるといいが。


「ここじゃない?」

「お、そうだな」

「なんか、ちょっと古びた感じでいい感じ」

「だな」


 ほどよく老舗感がある。

 まあ俺の情報網では、ナウでヤングな新しいお店ということはない。

 ドアをくぐり、横のカウンターで部屋を取る。

 ただし、身分証の提示は求められた。王都ではセキュリティーがちょっと高いらしい。

 内容は特に詮索されることもなかった。

 俺は偽の身分証だからちょっとヒヤヒヤしたけど。名前は本名だからいいんだ。

 田舎町では身分証まで見なかったりする。


「安いわりにいい感じじゃない」

「そうだな」

「ふふふ、ホテルみたい、すごい」

「これでも民宿だぜ。王都はみんなこんな感じにコジャレてるらしいよ」

「ふーん」


 壁にもしっかり壁紙が貼られていて、土や木が丸出しでもない。

 木目ならそれはそれで綺麗だったりはするけど。

 ベッドもふかふかだ。


「わーい、ベッドベッド」

「無邪気なことで」

「いいじゃないの」

「まあいいけど」


 王都の夜ご飯は魚だった。

 ここでは肉より魚のほうが安いので、多く食べられる。

 ムニエルだね。

 それからグラタン、スープ、パンといった感じ。

 少量のサラダ。


 葉っぱはちょっと不足しがちで量が少ない。

 これは田舎の方が野菜が多かったりするので、都会価格なのだろう。


「ワインはいかがしますか?」

「あ、自分で出すよ。エッセンシャイン1640」


 俺が白ワインのビンを取り出すと、ソムリエのおじいちゃんが目を剥く。


「そ、それは伝説のエッセンシャイン1640ではないですか、まだ飲めるのですか?」

「俺のアイテムボックスは特製なんで、大丈夫ですよ」

「素晴らしいです」


 せっかく王都へきた記念だ。こういう時はとっておきを出そう。


「といってもマルバード1623ほどじゃない」

「もしかしてマルバード1623までお持ちで?」

「まあ、一応」

「おおおぉ、すごいです」


 ちなみに今は聖東暦1676年なので、マルバードは53年前、エッセンシャインは36年前のものだ。

 マルバードは当時豊作でかなりの数が出たが名品とされた。そのため知名度も高く、年々値段が上がって今では値段が付けられない。

 というかもうほぼ現存していない。

 エッセインシャインはそれより知名度が劣るので、値段はそこそこだが、名ワインの一つだった。当たり年だったのだ。

 エッセインシャインは白ワインで長期保存向きではない銘柄なのだけど、俺のアイテムボックスは時間経過がないので、問題ない。

 本来ならそろそろワインの寿命だ。


「乾杯!」


 ソムリエのおじいさんにも一口あげる。


「す、素晴らしいです」


 この白ワインはほどよく白身魚のムニエルに合った。

 ご飯も満足したし、部屋へと戻る。


「野営よりはいいな」

「そりゃそうよ、おやすみなさい、アラリン」

「おやすみ、テリア」


 こうして王都の夜は更けていった。


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