23 王都の城門
それからいくつかの中途半端な町を通過した。
「やっと王都だぁ」
「だな」
王都に近づいてくるほど、街道も合流してきて、宿の街も大きくなっていく。
この辺では一面の麦畑が広がっていた。
だいぶ河口にも近いのだろう。
関東平野みたいに扇状地が広がっており、広大な平地があった。
ところどころに低い山があるのも面白い。
ゆったりと平野部を進む川沿いに道がある。
まだ季節は春なので、野菜を満載した馬車がまたしてもパカパカと俺たちを追い抜かしていく。
「今年は豊作だ」
「だねぇ」
これが秋になると、麦の穂を満載した馬車がたくさん通っていくのだろう。
秋には収穫祭もあるので、なかなかに賑わう。
「城壁見えるね」
「見えるな、でけえな」
「知ってるくせに」
「知識の上だけだよ」
「ふふふ」
まあとにかく、王都の城壁が春の麦畑の青い絨毯の上にずっと続いている。
あれが王都の城壁だというから、どんだけだか。
「門もいくつもあるみたいね」
「だな。この道まっすぐ進めば、つくのか」
「そだねぇ」
ちょっと嫌になってしまう。
というのも、すでに門の前の道には渋滞が見える。
ここから見えるんだから、相当だろう。
というか門のすぐ前には家屋も立ち並んでいて、門前町になっているのだ。
王都の門は日が沈むと閉じられる。
それに間に合わない人は門の前で待たされる。
当然のようにその人目当てに宿が出来て、商店ができて、とまあ町になるって話だった。
さて列の最後尾に並ぶ。
「王都飴だよ~甘いよ~」
「一つちょだい」
「はい、袋お一つでいいですか?」
「うん」
飴の入った袋を貰う。
二人とも一口食べる。
「甘いぃ」
「あぁ、これは麦芽糖だな」
「へぇ、砂糖じゃないんだ」
「うん」
麦から作った麦芽糖飴だった。
なるほど、こういう商売もあるのか。
こうやって待ってると暇だからな。
口元が寂しいといえば、まあそうだしね。
甘いものがあるかと思えば、ジャーキーを売っている露天商もいた。
列を順繰りと回り、売り歩いている。
なかなか商魂たくましい。
ただ無理強いはせず、関心がない人のところは素通りだ。
こういう誠実なところは好感が持てる。
まぁ長くやってるところは、それなりにまともなのだろう。
あくどい業者がはびこるよりは健全だ。
かーかーかー。
「あれ、鳥」
「いや、あれダークコンドルだもよん」
「げ、大丈夫なのか」
「まぁ降りてこなければ」
「ほーん」
三メートルはある魔鳥だ。
肉は美味いというが、けっこう強暴で、人も普通に襲う。
こうやって列なんて作ってて俺たちを「お肉」だと認識していなければいいが。
ばあああーん。
そうやって見ていたら、城壁の上から、ミサイルっぽいものが一機ダークコンドルへと飛んでいく。
「あ、ダークコンドルが逃げてくわ」
「本当だ」
さすがにミサイルは相手が悪いと踏んだのか、ダークコンドルは方向転換して飛び去って行った。
ミサイルか。あれ、魔道具なんだよな。
なんでも火魔法を連続的に吹き出す魔法で推力を出して、よくわからん方向制御の魔法も掛かっているらしい。
魔法科学の成功例の一つだ。
ただし人が乗れて宇宙にいけるロケットくらいの大型のものはない。
ちなみに結構お値段が高いので、あまり使われない。
使い捨てだしね。
国庫に響きそうだ。王様も頭を抱えてるかもしれないな。
「やったぞ」
「いいぞ」
「すげええー」
列の人たちから歓声が上がる。
まぁ俺たち、肉にされるかもしれなかったもんな。
みんな不安そうに上を眺めていたもの。
そうしてどうして、夕方、やっとのことで門にたどり着いた。
「えっと青年とエルフですね」
「そうです」
「商人……には見えないですね」
「えっと、物見遊山です、すみません」
「いえ、珍しいだけで、大丈夫ですよ」
ここでも通行税はないらしい。
商人が商品を輸送している場合はお金を取ることになっているが、一般人が小遣い程度の売り買いは目をつぶられているので、問題ないそうだ。
まあいちいち細かい税金とってもしょうがないしね。
でかい城門を二人で見上げながら通る。
「おぉぉ、ここが王都の中」
「すごい、ずらっと商店」
「知っていたとはいえ、見るのと聞くのじゃ違うな」
「そうだね~~すご~~い」
「あはは」
二人で北門前広場の露店街を眺めるのだった。




