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2 町にいこう

 95歳。身体は15歳。

 今日も元気いっぱい、夢いっぱい。


 お使いなどで町に行ったことは、昔もよくあった。

 しかしここ15年くらいだったか、忘れてしまった。ずっと行ってないから、もうある意味新鮮だ。


 町までは、徒歩で移動だ。

 商人などが村に来ることもあるが、思い立ったときには居なかったので、待っていると、いつ来るかわからない。


 若い身体にうれしく思う。


 街道は途中まで一本道で、隣町と町の間で三方向が合流している。


「えっと、近い大きい町は右だったな、たしか」


 ちゃんと看板もあるが非常に古く、前に見たときは読めたんだが。

 今は、朽ち果てている。


「こりゃまずいな……町で衛兵に伝言を頼むか」


 長老らしいことを、ちょろっとしてもバチは当たらんだろう。

 看板なんて、普段来る連中は、もう知っている道なので、なんとも思わないのだろう。

 しかし、新規で来てくれる冒険者とか、商人とかが困るのは、目に見えている。


 そこまで閉鎖的な村ではないんだけどな、こういう細かい配慮までは難しい。


 トコトコと歩いて三日、ようやくのことで町が見えてくる。


 ナレリーナの町だ。

 80年前はいかにも田舎の町という感じだったのだが、15年前の前回来たときには、二級地方都市になってから長く、生意気なことに貫禄が出てきていた。

 80年という歴史は、決して短くはないのだ。

 良質な普及品のポーションを多く生産しているとして、周辺の地域ではそこそこ有名であるらしい。知らんけど。


 城壁は土と木だった。

 まあまあ立派だけど、石造りには敵わないと思う。

 15年前に見た城壁は石造りだったのだが、今は違う。

 衰退した、と思うのは早計だった。


 前より一回り大きくなっていたのだ。

 つまり石造りの城壁は内側にあり、土の壁は外壁なのだろう。



 ナレリーナの町にはしっかりした門があった。

 門の周辺だけ石で出来ている。


 門の外には、食事などの屋台が何軒か出ていて、門の中に入らない人たちが今も美味しそうに食べているのが見えた。


「美味そうだな」


 もちろん門の中も、いい店はいくらでもあるだろう。

 だがこの目の前の甘辛タレのモウモウ牛の串焼きは、とてもいい匂いがする。


「おっちゃん、三つくれ」

「あいよ」

「ってお前、グラン・ヤーキスの長男坊だろ、たしかター坊、タークスだったか。顔変わらんな」

「お兄さん、たしかに俺はタークスだけど、俺より若いのに何で」

「ははは、アラン・スコットって知らない?」

「知ってるよ、ベルード村の長老の。親父が世話になったっていう」

「そそ、まあ、そういうことだよ」

「なんだか、さっぱりわからんな。はいよ、串焼き三つお待ち」


 直接会ったことのない人は、だいたい俺が95歳だとか、誰も信じない。

 だから、いつしか長老が若いという話は、タブーではないが、話さなくなった。

 ということでこの子も知らんらしい。


「親父さんは、ベルード村出身だからな、よく知ってる。俺に懐いた数少ない人でさ。それで一番はじめに城門の外で商売をした人のはずだよ。領主に許可取るときに顔出したから、覚えてる」

「おい、あんた、マジで親父のこと知ってるのか……その話は聞いたことがあるが、俺が生まれるより、前だぞ、たしか」

「だから、俺がアラン・スコットだよ」

「ま、マジなんだな、こりゃすげえ。そういや、長老は若いって言ってた気がしないでもないが、そういう意味だとは、思わねえよ、普通」

「あはは、だろうな」


 ナレリーナの城門前は街道沿いなので、いつも列が伸びて結構待たされる。

 俺も若い頃は、よく空きっ腹のまま待たされた。

 商売がしたいという、グランが俺にいい商売がないか相談したのが始まりだった。

 それで城門前で肉を焼いて売れというふうに助言したのだ。

 しかしグランが衛兵に聞いてみるも許可が下りず、領主と顔見知りの俺がアポを取り、話を付けたんだったか。


「じゃあ、俺、町の中に用があるというか、観光なんで」

「おいっす。長老さん、さようなら。まいどあり」


 門を通ろうとする。

 当然、門番が居て、身分証を見せた。


「ほい、よろしく」

「なんか領主様発行の身分証なんだけど、見たことがないサインで」


 若い衛兵が身分証の木の板を見て、困惑している。


「これは前領主のだな、今時珍しい」


「なるほど。これがですか」


 身分証を見せると、年齢を含め四度見された。

 しかし俺の身分証は前領主発行のやんごとないやつで、裏に『ジョブにより容姿常に若し』と但し書きがあるのだ。


「よし、通ってよし」


 今の衛兵に知り合いはいない。こういう下っ端の職場は古参兵は少ないのだった。

 居ないこともないんだけど、裏とか書類仕事とか忙しいのだろう。



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