第三十三章 アラトの謝罪
第一回戦第十六試合終了後、アラトは自室で土下座していた。 かれこれ1時間近くになるだろうか。
当然のことかもしれない。アラトは自ら敗北宣言をして敗退者となったのだから。しかも、戦闘はいっさい行われていない。
ギリコは史上最恐鬼嫁のごとく剣幕な表情で両組みし、アラトが部屋に帰ってくるのを待ち構えていた。そして今に至る。
「たいへん、もぉーし訳、ございません!」
それがギリコの前に滑り込むように土下座しながら発した、アラトの第一声だった。噛み締めるようにゆっくりと大きな声で謝罪した。
その時の、アラトが全身全霊で実行した走り幅跳び四メートルからの超高速大ジャンプ土下座のテクニックは、オリンピック金メダル級の高得点だった。
ギリコは自分からまったくしゃべらず、アラトの弁明を聞いている。表情ひとつ変えず。
アラトの弁明もいっさい明確な説明になっていない。なぜなら、アラト自身、我が身に起きた事象、自ら退場してしまったその行為に納得していないからだ。
アラトはただただガムシャラに、自ら退場するに至った経緯について自分の意志ではないと釈明している。おおよそ1時間ばかり。
ようやく、口を開くギリコ。
「まったく理解いたしかねます。なぜ、このようなことになったのか」
アラトは、そぉ~っと、頭を上げ、ギリコをチラ見する。
「これはもう、契約違反に該当すると判断してもいいのですよ、アラトさん!」
「ははぁ~、そ、それだけはご容赦をぉぉぉ~、何卒ぉ~、何卒ぉ~」
アラトは土下座の姿勢に疲れてきたが、そうも言っていられない。
ギリコは、一度深い溜息を吐いた。
何かを悟ったかのように怒りの表情が和らぐと、それまで発散していた激怒オーラが静まったようだ。
ようやっと、アラトをお仕置きから解放する。
「もう、いいです。アラトさん」
「はい、すみません」
土下座の姿勢を解き、上半身を起こすアラト。正座は続ける。
ギリコは、もう一度溜息を漏らすと、一つの考えを語り出した。
「おそらくですが、あのネコ耳メイドには、目の前の相手をマインドコントロールする能力があるのでしょう。もし正しければ、相手がどんなに強力な武器を装備していても、常に勝つことができる一種のチート能力です。
例えば、第一回戦で勝利したインヴィンシブル・スターのような無敵の超人相手でも、マインドコントロールできるのであれば必ず勝てます。これは盲点でもあり、最強の能力かもしれません」
「それじゃ、義理子先輩が昔語った『おパンツ作戦』も、あながち冗談ではなかったってことに……」
「はい、そのとおりです。その場合、心を読む能力、マインドリーダーである可能性もあります」
「えっ……」
「アラトさんがあのかわいらしい少女の目の前で、胸の大きさをジロジロじっくり舐め回すように観察したり、どんなおパンツをはいているのか妄想を膨らませて、エロ魂を存分に発揮していたとしたら、それはもう救いようのないほど嫌われていることでしょう。二度と顔も見たくないほどケチョンケチョンです」
「……」
「あら、あら、アラトさん、どうされました? まるでゾンビに襲われたみたいに顔が真っ青ですよ? 何か不都合でもありましたか?」
アラトは銅像のように硬直し無口になった。
「途轍もなく強力な能力ですが、機械には効力がないという弱点があります。
それから、洗脳対象が一定の距離以内に存在しないと効果を得られないという可能性も高いです。一瞬でマインドコントロールできるとは考え難いですから、ある程度の時間を要するでしょう。また、相手の身体に接触するかしないかで洗脳速度の違いがあると考えられます。
あら、あら、アラトさん、目が泳ぎまくりですが大丈夫ですか?」
アラトはなんとか錯乱ぶりをごまかそうとした。
「そ、そ、そうか、だからあのピクニックバスケット持って、相手を油断させ、時間稼ぎしているんだ。マインドコントロールを完了させるまで時間を要するんだろうね。つ、つじつまが合う。うんうん、そうだそうだ……」
「立ち直りが早いですね、アラトさん。おそらくそのとおりでしょう」
「アハハハハハ……、IQ3も捨てたもんじゃないね」
「それならば攻略は簡単。アンドロイドのわたくしであれば勝てます。もちろん組み合わせが違いますので、いかんともしがたいですが。
ともあれ、アラトさんの敗北宣言は、彼女の洗脳によるものでしょう」
「じゃ、許して……」
くれるのぉ~、と立ち上がり、ギリコに飛びつこうとしたアラトだが、足がしびれまくっていたので、絵に描いたように転倒し、顔面を床に打ちつけた。
カエルのごとく床に寝転んだまま顔を上げると、真っ赤になった鼻から鼻血が垂れる。
「アラトさん、大丈夫ですか」
「鼻が痛いよう~、ギリコ、許してぇぇぇ」
強く鼻を打ちつけた痛みで涙を滲ませながら、許しを請うアラト。ハンカチを渡そうと目の前でしゃがんだギリコにしがみつく。
「もう、甘えてる場合じゃないです、アラトさん」
「ゴメンよ~」
「仕方ないです。最後の手段を使いましょう」
ギリコが正座したので、ギリコの膝枕に頭を乗せ、上向きで寝転がるアラト。ギリコからハンカチを受け取り、鼻を押さえて痛みに堪えていた。
ギリコのセリフを聞き漏らして……
【作者より御礼】
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