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第三十一章 初出場の準備 その1

31.1 初出場の準備 前編


 第一回戦第十五試合が終了した。


 アラトはビビっていた。ビビるのも当然だ。


 真っ黒いマネキンのえも言われぬ恐ろしさ、最恐と思しき能力は未知数、絶対に対峙したくない相手だ。


 初戦を目前に控え、昨晩はあれこれ考え事をしていた。アラトの第一回戦は第十六試合。全32枠による第一回戦なので最後の順番だ。つまり今朝の試合を含めれば、試合を自ら体験する前に15日連続で試合観戦だけしたことになる。しかも全て殺し合いの戦いだ。


 その事実を噛み締めて、アラトは自分がいかに現実逃避をしていたかよくわかった。アラトは能天気で楽観主義者、自分でもそう思う。だからといって死にたいわけじゃない。


 ついに明日、自分の順番が回ってくるのだ。いまだに実感が沸かないとか言っていられない。ここにきて、急に恐怖心が沸くのも至極当然のことなのだ。


「アラトさん、いよいよ明日ですね、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫……、だと思います」


 昨晩アラトが一生懸命考えていたこと、それは試合で命を懸けるにしては、アラトにとってあまりにもモチベーションが低すぎる、ということだ。


 大前提として、世界征服しちゃってるという会社の業務命令によって試合に参加せざるを得ない。かつ、会社に退職願を出すと契約違反で10億円の違約金というのが一つ目の足枷あしかせ


 逃げようにも隔離されたホテルに軟禁され、脱出はほぼ不可能というのが二つ目の足枷。おそらく異次元に存在するホテルっぽいし。


 試合中に『敗北宣言』で負けを認めれば試合を続行する必要はない。という死を回避する手立てが一応あるにはある。


 そして昨日、超絶美人アンドロイドの上司である先輩と約束した勝利時のご褒美キス。たいへん申し訳ございません。センチメンタルになっちゃって咄嗟とっさに提案した約束だったのですが、モチベーションとして低すぎです。


「ではアラトさん。早速、パワードジャケットを装着して慣れていきましょう。レーザー銃も使い慣れたほうがよろしいかと」


「わ、わかりました」


 僕たちが所属する会社『ギリコ・コーポレーション』——正確にはスーパー量子コンピュータ『GIRIKO』のことだが——が極秘開発したという戦闘兵器『パワードジャケット』は、数日前に試着して以来、ずっとアラトの部屋の隅っこに放置されている。その日を境に紆余曲折うよきょくせつあったものでして。


 義理子先輩にサポートしてもらいながら、全ての装備を装着していく。『パワードジャケット』はパワーアシスト付きの装甲服みたいなもので、電動で装着者の動作をパワフルに補助し、かつ肉体を保護してくれる。そういうものだ。


 頭にはハーフヘルメットとゴーグル。


 そして武器は、右手の甲側に装備する『精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃』と右肩に装備する『惑星破壊キャノン砲』の二つ。


 それと表面に『新人』と大きく白文字で印字された左手装備の大型シールド。分厚くてとても重い。間違いなく機動力を極端に落とす原因となっている。


 『新人』はアラトの本名である。同時に、オフィシャルな対戦表に記載されたアラトの出場者名は、ご丁寧にも『新入社員(試用期間中)』となっている。まぁ、ウソではない。


 『精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃』は、脳内でターゲットを指定して発射を指示すれば、誘導レーダー弾が勝手に狙ってヒットするというアラトのようなド素人にピッタリの代物。


 そして『惑星破壊キャノン砲』はまだテストすら済んでいない兵器で、どうやら惑星を破壊できるらしい。装備全体のバランスを崩すほど大きくて、パワードジャケットのパワーアシスト抜きには動けないほど重たい。非常に怪しい代物。


「えーと、先輩。明日はいったいどうやって戦えばいいんでしょうかね?」


 明日の対戦相手は、対戦表から『メイド』ということだけしか情報として得られていない。性別も身体の大きさも武器も攻撃方法も、何一つわかっていないのだからたちが悪い。


「はい。惑星破壊キャノンで塵と化します」


「ちょ、ちょっと待って! 簡単に言うけど、アレ、まだ一度も試してないよね。会場ごと僕も端微塵ぱみじんに消滅したら、第二回戦進出できないよ?」


「ご安心ください、アラト隊長。惑星が吹っ飛ばない程度に出力を調整しました」


「隊長呼ばわりはいいけどさ、ギリコの『ご安心ください』で、安心した試しがないんですが」


「もう、心配性ですね、アラトさんは」


「こういう命を懸けた試合で、安心もへったくれもないと思いますが」


「どうせ相手の戦力も戦術も把握できていないのですから、こちらも最大の武器で迎え撃つべきです」


「そうかもだけど、無理! 絶対無理!」


「では、隊長はいかにして戦うと?」


「そ、そうだね、まず降伏勧告がプランA、レーザー銃で屈服させるのがプランB、塵と化すのはプランCといったところで」


「なるほど、ではプランCで!」


 右手で『C』の形を作り、かわいくウインクするギリコ。


 ヌヌ、また新しい小悪魔技を学習したか。


「プランCは一番最後! てか、無しです!」


「そうですか。うまくいけばいいのですが」


「と、とにかく、レーザー銃の練習しよう!」


「ご一緒しますわ、アラトさん」



 ◆   ◆   ◆



 アラトとギリコは庭園まで足を運び、隅にある雑木林にやって来た。その奥に、捨てられたであろう大き目の石材が沢山転がっている。庭園の至るところに石材を加工して造られたオブジェが存在するので、その余りなのだろう。


「さぁ、アラト隊長! 問題あれば全てギリコ・コーポレーションが弁償いたしますので、思う存分破壊してください!」


「了解です!」


「それとですね、そのハンドレーザー銃は精神力を沢山消費します。今日のうちに慣れておきませんと、実戦で役に立たなくなってしまいます。しかも、疲れが明日残らないように、ほどほどの訓練で終わらせましょう」


「わ、わかった。ほどほどに訓練します」



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