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第二十六章 妖怪VS妖狐 その5

26.10 妖怪VS妖狐 試合模様その五 妖狐側


 数分前の妖狐は、ビルの屋上にいた。


「あたしのドジ……」


 妖狐は呪符魔術を封印され、つい弓を使うことは無いと勘違いしていた。


 いつも使う矢は、呪符魔術によって生成した攻撃系の矢ばかり。護符神術によって矢を生成する機会がほぼないために、ついついそう思い込んでいた。


 しかし、影妖怪との戦闘で太陽光の照射がかなり有効であるとわかり、矢として使用することに気づいたのだ。


 ドジっ娘の本領発揮というところか。


 作戦は大成功だった。


 輪宝をおとりとして隔離した部屋に誘い込み、周囲から太陽光で照らすギミックを制作した。部屋のドアだけは自分で閉める必要があったが、それでも、俊足で屋上に舞い戻ったのだ。


 トラップが発動し影妖怪1体目を見事排除。


 屋上に戻るとすぐに弓を構えた。護符を使い太陽光を照射する矢を8本生成、2体目の影妖怪を狙い撃つ。妖狐は弓の名手、8本の矢を同時にまとめて放つことなど造作もない。


 そして後方支援役の影妖怪を的にするのはたやすかった。足がいつも止まっているのだから。


 これで影妖怪2体目を滅した。


 そして、前衛を担う影妖怪がもっともやっかいで、かつ、もっとも怪しい存在なのだ。


 彼だけが独鈷杵とっこしょでバリアを張って身を守っている。影の肉体に実体が無いにもかかわらず。それは理屈としておかしい、矛盾する。


 必ず本体がどこかに存在し影を操っているはず、それこそが弱点なのだ。


 囮の幻影妖狐を襲わせ、さらに幻影妖狐で囲い込む作戦。最後は自ら弓矢を放ちトドメを刺した。


 最後の影妖怪を太陽光が包み込み、宝戟ほうげきが倒れ日輪が大地に転がった。そして肉体が完全に消えた、と思った。


 眩しい閃光が収まると、空中に発光するガラス玉のようなものが浮かんでいる。テニスボール大だろうか。


 妖狐の推理は的中していたのだ。


 突如、妖狐の脳裏に直接語りかける声が聞こえてきた。テレパシーだ。


『妖狐殿、わたしの完敗だ。お察しのとおり、今、目の前に浮遊している玉がわたしの魂であり本体なのだ』


 妖狐は無言で首肯した。


『影の肉体は六つの退魔法具を操るために可視化しているが、そもそも実体ではない。この魂の玉だけが実体で、これを破壊されるとわたしは死ぬ。影の肉体内に隠し、身を守っているのだ。

 しかし、妖術と呪術を封じられてなお、わたしを倒すとは恐れ入った』


「あなたも手強かった……」


『そう言ってもらえると助かるよ……。

 実のところ、わたしはもともと人間だった。しかし、退魔士として強くなるために自ら影妖怪になる道を選んだのだ。

 そして妖狐殿、あなたも妖怪でありながら退魔士として活躍しているとお見受けした。できれば、いつしかあなたと一緒に妖怪退治に出向きたいと、わたしは切に願う。どうだろうか』


「おもしろそう……」


『ちなみにだが、わたしの肉体は20日ほどで元に戻るので心配ご無用。

 さぁ、あなたの完全勝利だ。ぜひ、第二回戦も勝ち進んでほしい』


「ありがとう……」


 妖狐はフゥー、と息を吐き出し笑顔を作った。大苦戦を乗り越え勝利できたことを心の底から安堵し喜んだ。


 九尾のよう子こと九妖妃、第二回戦進出!



 §   §   §



26.11 影妖怪アシュカ


 影妖怪アシュカは、並行世界の地球に存在する妖怪にして退魔士でもある。そして、元は人間だった。


 彼の家系は先祖代々受け継がれる退魔士の一族であり、インドにある寺院で生まれ育った。幼少期から退魔士としての訓練を受け、その才能が開花する。


 10歳代の頃から退魔士になり、人間界に巣くう悪質な妖怪を退治してきた。その活躍ぶりは退魔士界の中でも群を抜く強者として高く評価されていた。


 彼が30歳になる頃、同じ退魔士仲間の女性と結婚し、子宝にも恵まれた。そんな順風満帆じゅんぷうまんぱんだった彼の人生に大きな転機が訪れる。ある妖怪に家族全員の命が奪われてしまったのだ。


 その妖怪に襲撃された際、退魔士であった両親も妻も戦ったが敗れて殺されてしまった。まだ幼かった一人息子も無残に殺された。彼自身も戦って瀕死の重傷を負ったが、かろうじて生き延びることができた。


 家族の仇敵きゅうてきとなった妖怪は、途轍とてつもない強さだったのだ。


 それから彼の生きる目的は完全に変わってしまった。妖怪退治から家族の仇討あだうちになったのだ。


 しかし直接対峙した身として、自分の能力だけでは仇敵の妖怪を倒せないと十分理解していた。


 そして彼は決断した。退魔士界最高位の秘伝『影妖怪変化の秘法』という秘術を我が身に施すと。


 しかし精神と肉体に凄まじい苦痛が襲うという秘術の成功例は、退魔士界の数百年に及ぶ長い歴史の中で、たった1度しかないと伝えられている。彼はそのことも十分理解していた。


 そして10年の歳月をかけて己の精神と肉体を極限まで鍛えあげ、ついには苦痛に耐えうる身となり秘術を成功させたのだ。


 彼は人間としての記憶を維持したまま影妖怪となり、自らを『アシュカ』と名乗った。


 阿修羅像を彷彿ほうふつさせる6本腕の影妖怪には、古来より神器としてまつられている六つの退魔法具を所持する資格も与えられる。


 事実上の世界最強退魔士となった彼は、ついに仇敵となる妖怪を討ち果たすことができたのだ。


 彼はこの大会の出場において、亡き家族に思いをせた。


 たとえ我が身が元の人間に戻ることがなかろうとも、それでいい。


 家族が殺される前に戻り、仇敵の妖怪を殺すことができれば、あるいはせめて、幼くしてその人生の幕を閉じた一人息子だけでも助けることができれば、どれだけ嬉しいことかと。



【ポイント評価のお願い】

 数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。

 誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。

 どうも有難うございました。


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