第二十六章 妖怪VS妖狐 その4
26.7 妖怪VS妖狐 試合模様その三 妖狐側
なんとか影妖怪の追跡を撒いた妖狐。廃墟ビル内の一室に逃げ込んでいる。
「んっ!」
右肩に突き刺さった三鈷剣を抜きつつ、痛みを堪える妖狐。護符を右肩と全身の傷口に当て、治癒魔法を施す。
「これで、なんとか戦える……」
妖狐は大逆転の道筋を考える。
「いろいろわかった……。あいつはトロい……、格闘はイマイチ……、なんとか凌げる」
妖狐は思考しながら、窓から入ってくる光で自分の影が存在するか確認してみた。
「影ができない……、あたしの影はまだ敵になったまま。どっちにしても、このままは完全に不利……。あの錫杖をなんとかしたい……」
ふと、敵の接近に気づく妖狐。警報装置として周囲に貼り付けていた護符が反応を示したのだ。
「おかしい……、見つかるのが早すぎる……」
黒影妖狐がドアを蹴破り、部屋に乱入してきた。罠として設置していた太陽光の護符が眩しく光る。黒影妖狐が硬直した隙に、またもや逃げ出す妖狐。
「あたしの影は、あたしの居場所がわかる。逃げても無駄……。よくわかった」
治癒魔法でほぼ全快となった妖狐。逃亡しながら戦略も練りやすくなった。
「あいつは肉体が存在しない。斬ることもできない。でも独鈷杵でバリアを張って我が身を守っている……。どこかに弱点があるはず……」
妖狐は5階建ての一番高い廃墟ビルを目指し、屋上へと上がってきた。
「ここで迎え撃つ……。よう子ファイティン!」
屋上にある貯水タンクの上、闘技場内で一番高い場所。つまり影がほとんどなく、影妖怪Bによる影を利用した三鈷剣のワープ投擲が狙いにくい。貯水タンク自体が作り出す影は真下にあり、そこから狙うこともできない。
しばらくすると、黒影妖狐が屋上に現れた。遅れて影妖怪3体も浮遊しながら屋上に姿を見せる。相変わらず、影妖怪ABCの前衛、中衛、後衛ポジションは変わらない。
「あたしの分身、お願い、ファイティン!」
事前に配置していた護符が一斉に幻影妖狐に変化し、9体出現した。
影妖怪Aが宝戟で幻影妖狐を突く。真正面から刺突を受ける幻影妖狐。その身が護符に戻ると同時に、罠として仕掛けておいた別の護符が太陽光をカッと発する。怯む影妖怪A。
幻影妖狐が倒されると、同時に太陽光が照射される仕組みだ。しかも、最大9体まで操作可能な幻影妖狐は、1体減ると、新たに別の幻影妖狐が1体増えるように細工している。
影妖怪Aも影妖怪Bも攻撃する都度、太陽光の反撃を受け翻弄されている。
それでも妖狐本体の居場所を察知できる黒影妖狐が、貯水タンク上の妖狐本体に向け正面から突進してきた。
両手の独鈷杵を振りかざす黒影妖狐。妖狐本体の正面に幻影妖狐1体が突如割って入る。独鈷杵でその幻影妖狐を切り刻むと太陽光が照射され、黒影妖狐は硬直した。
「はぁ!」
妖狐の狙いは影妖怪Cだった。もっとも後方に位置する影妖怪Cに向け、俊足で駆け寄る妖狐。そのタイミングに合わせ、影妖怪Cの左側から1体の幻影妖狐が突進する。中右腕に持つ影妖怪Cの錫杖を狙って、手を伸ばす幻影妖狐。
錫杖を奪取されないように身体をひねって守る影妖怪C。
その隙に闘技場の天井に向けて跳躍した妖狐が、空中で逆立ち気味に身体を半回転させ、天井に着地、両膝を曲げつつ天井を跳躍台のように使い真下に向け加速させる。
猛スピードで影妖怪Cに迫り、上右腕に持つ輪宝を奪い取った。
「やったぁ!」
そのままビルを駆け下り、独りで地上へと降り立つ妖狐。間髪入れず、ビル内に姿を消す。
そもそも実体の無い幻影妖狐は、物体を握って掴み取ることはできない。まんまと影妖怪をだましたのだ。
「これが、あたしの影を操ってるはず……」
幻影妖狐の視界を共有できる妖狐は、屋上で戦っているはずの幻影妖狐が全滅していることを確認した。
しばらく逃避行動をしたのち、照明の下で自分自身の影が戻っているのを確認、敵戦力を一つ削り取ることに成功し、安堵の溜息を漏らす。
「よう子グッジョブ!」
§ § §
26.8 妖怪VS妖狐 観戦模様その三 アラトの部屋
「うぉぉぉー、やったね、よう子ちゃわーん! 大好きぃー!」
§ § §
26.9 妖怪VS妖狐 試合模様その四 影妖怪側
影妖怪はまんまと輪宝を奪われ憤慨していた。
いや、これだけ有利な状況を作り出しておきながら、なかなか勝利に導けない自分自身に対して苛立ちを覚えていた。
影妖怪は自身の過去を振り返る。
影妖怪はもともと人間の退魔士だった。退魔士界の中でも上位の実力を持ち、正義感にあふれ、周囲から信頼される男だった。
しかしある日、途轍もなく強い妖怪に両親と妻子を殺されてしまう。復讐心は続いた。仇討ちを諦めなかった。強すぎるその妖怪を倒すために、彼は自ら影妖怪になることを選んだ。
そして長きに渡る幾多の試練を乗り越え、ついに仇の妖怪を倒すことができた。彼はそれから自身をアシュカと名乗り、退魔士として活躍し続けている。
彼にも戦士としての矜持があるのだ。
輪宝の存在場所を感知できる影妖怪は、輪宝を奪還するため妖狐を追う。
廃墟ビル内のある部屋に輪宝があると察知した影妖怪。しかし油断は許されない。妖狐はなかなかの策士だ。
月輪を手にする影妖怪Bが単独でその部屋の入口に立つ。
四つの手には三鈷剣が握られている。影魔術のワープ戦法を使えば、影の多い室内で有利に戦えるのだ。
影妖怪Bが部屋に入った。
真正面に妖狐が背を向けてしゃがんでいる。即座に三鈷剣を4方向に投擲、ワープ戦法を利用し前後左右から同時に飛来する軌道。妖狐は避けようがない。四つの三鈷剣が妖狐に突き刺さった。
一方、影妖怪Cは錫杖を手にし、影妖怪Bが入った部屋を外から監視していた。
影妖怪Bが部屋に入った直後、廊下に妖狐が突如現れ、部屋のドアを蹴るように閉めた。すぐさま姿を消す妖狐。影妖怪Bを中に閉じ込めたつもりなのか。
影妖怪Aは物陰に身を潜ませ、遠くから影妖怪Cを見守っている。妖狐が影妖怪Cを襲うものなら、逆にその背後から急襲しようと画策しているのだ。
案の定、ビル陰に姿を現した妖狐。影妖怪Cを背後から襲わんと狙っている。
敵の裏をかいた影妖怪Aは、宝戟を構えてビル陰の妖狐に接近する。そのまま気づかれずに背後から宝戟を突き刺した。
影妖怪Bがいる部屋。
妖狐に投擲した四つの三鈷剣が刺さると同時に、妖狐の肉体が消え去り太陽光を放ち始める。その太陽光を起点として、部屋の四方の壁、床、天井に設置されていた護符が光り始めた。
全身を漏れなく照らされる影妖怪B。強烈な太陽光が影の肉体をかき消し、手にしていた三鈷杵と月輪だけが宙に浮いたまま残った瞬間、床へと落下した。
部屋の中にいた妖狐は幻影だったのだ。
外で単独警戒している影妖怪C。
突如、上空から弓矢が降ってきた。同時に8本。8本の矢が影妖怪Cを囲むように地面に突き刺さり、八角形を描く。その瞬間、8本の矢が同時に強烈な太陽光を照射した。
肉体が溶けるように消えていく影妖怪C。手にしていた錫杖が地に落ち転がった。
妖狐を背後から宝戟で突き刺した影妖怪A。
幻影だった偽の妖狐が破裂し、トラップの太陽光を放つ。怯む影妖怪A。
その刹那、7体の妖狐が上空から舞い降りてきた。一瞬で囲まれた影妖怪Aは宝戟で迎撃、幻影妖狐を薙ぎ払い、まとめて破壊した。当然、太陽光のトラップが襲う。堪らず立ち止まる影妖怪A。
その隙に弓を構えた妖狐が地上へと舞い降りてきた。
弓が使えるということは妖狐本体。影妖怪Aの正面側の地面に向けて矢を4本放つ。同時に、背後側を4体の幻影妖狐が陣取る。
4体の幻影妖狐と4本の矢が同時に太陽光となり、苦悶する影妖怪Aを襲う。
ジワジワと黒い肉体が消失していく。何もかもが消えてなくなる感覚。宝戟と日輪が手から離れ零れ落ちた。
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