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第二十六章 妖怪VS妖狐 その3

26.5 妖怪VS妖狐 試合模様その二 妖狐側


 ビル内から、3体に増殖した影妖怪を観察する妖狐。


 影妖怪は宙を浮遊する能力があるが、移動速度は徒歩程度。非常に遅い。妖狐は飛行できなくとも、跳躍力と俊敏性には自信がある。そこは狐系獣人として、当然だ。


 何を隠そう、狐形態が本来の姿なのだが、それだと護符も呪符も弓も扇子も使えない。戦闘能力だけで比較するなら、圧倒的に獣人形態の方が強力なのだ。


 妖狐は巫女服の帯から護符を取り出し、護符神術を実行してみた。


 『妖狐術九分身』とは異なる『幻影分身の術』。実体の無い自分の幻影を9体創り出すことができる。実体が無いので攻撃もできないし、幻影には影が存在しないので判別しやすい。気休めに過ぎないが、敵を翻弄ほんろうすることはできる。


 9枚の護符で9体の幻影を創った


「お前たち、頼んだ……。あいつらを誘き寄せて」


 9体の幻影妖狐がビルから飛び出し、地上に降り立つ。その間に妖狐本体は3階の屋上へ。


 9体の幻影を追って、地上に降り立つ3体の影妖怪。


 宝戟ほうげきを中左腕に持つ影妖怪Aが前衛となって、幻影妖狐に襲いかかる。実体の無い幻影は、ひたすら攻撃をかわし逃げるだけ。幻影であることはすぐにでもバレてしまうので、妖狐本体は屋上から飛び降り影妖怪Aに急襲した。


 真上を見上げ、舞い降りる妖狐に気づいた影妖怪A、下右腕に持つ日輪が赤く輝くと、何も所持しない上左腕、下左腕、上右腕、中右腕の手の中に独鈷杵とっこしょが出現した。


 日輪には独鈷杵とっこしょを召喚する能力がある。


 両手の呪符扇子で斬りかかる妖狐。


 が、影妖怪が新たに手にした独鈷杵とっこしょに小さなバリアが発生し、呪符扇子の刃を弾き返す。一瞬、目しかない影妖怪が嘲笑あざわらったように見えた。


 俊敏な格闘センスでヒット&アウェイ、目まぐるしく動き回り影妖怪Aを斬りつけるが、ことごとく独鈷杵とっこしょバリアで防御されてしまう。


「諦めない……」


 妖狐本体の動きに合わせ、幻影妖狐が影妖怪Aの正面に飛び出し視界をふさぐ。影妖怪Aが宝戟ほうげきで幻影妖狐に刺突すると一瞬で消滅、そのタイミングで妖狐本体が呪符扇子をブーメランのように投げ付けた。


 投擲とうてきされた呪符扇子が、4本の独居杵とっこしょバリアの隙を縫うように通り抜け、影妖怪Aの首を見事に切断、したはずだった。


 しかし、宙を舞う呪符扇子は影妖怪Aの肉体を素通り、弧を描いて妖狐の手元に戻ってくる。


 素通りとはつまり、そこに影妖怪の実態は無かったのだ。おそらく肉体が影そのものなのだと認識する。

 面食らった妖狐は、幻影妖狐を盾にして後方へと飛び退く。


「ウソ……」


 後方にいた影妖怪Cの双眸そうぼうが妖狐をまっすぐ見据え、上右腕に持つ輪宝を前に突き出した。


 妖狐は視線に気づくと、ブルッと身を震わせ違和感を覚える。無意識に足元に目をやると、妖狐自身の影が妖狐の身体から徐々に離れていくのが見えた。


 咄嗟とっさに後ろに跳躍。自分の影だけが元いた場所に残り、起き上がっていく。つぶれていた風船に空気を送り込むように、二次元だった影が三次元へと立体化していく。


「今度は何……?」


 あっという間に、黒一色の妖狐ができあがった。後姿だったその黒影妖狐が振り向き、妖狐本体と対峙する。間違いなく、敵としてそこに立っているのだ。自身の影が、敵の傀儡くぐつとして操られているということらしい。


 黒影妖狐の出現に戸惑い硬直する妖狐。


 その隙に、後方の影妖怪Bが次なる攻撃の準備を開始している。その下左腕に持つ月輪がちりんが黄色く輝いた。すると、何も手にしていない中左腕、上右腕、中右腕、下右腕の手の中に三鈷剣さんこけん——投擲とうてき用のダガー型短剣——が召喚される。


 影妖怪Bの足元に自動車の影がある。4本の腕に握られた三鈷剣を、その影に向け無造作に投げつけた。


 硬直している妖狐の背後にビルの影がある。その影から、突如4本の三鈷剣が出現し、無防備な妖狐の背中に向け飛来してきた。


 1本目の三鈷剣が、妖狐の右肩に刺さる。


「うぐっ……」


 残り3本の三鈷剣を、幻影妖狐が犠牲となって食い止めた。三鈷剣が刺さった幻影妖狐は引き裂かれた護符へと戻り、ヒラヒラと地面に落ちていく。


 それを合図に、影妖怪Aと黒影妖狐が一緒になって妖狐に襲いかかってきた。


 黒影妖狐は独鈷杵とっこしょを手にしている。影妖怪Aから受け取ったのだろう。独鈷杵の突起を短剣のように使い、妖狐に攻撃を仕掛けてくる。妖狐本体が体術に長けているように、当然、黒影妖狐の体術も互角の素早さだ。


 一方で、影妖怪Bが召喚する三鈷剣を次々に投擲とうてきし、残りの幻影妖狐を消滅させていく。ついに幻影妖狐は全滅した。


 ダメージを負ったまま戦う妖狐。


 影妖怪Aの宝戟、黒影妖狐の独鈷杵、影妖怪Bの三鈷剣投擲の連携を、縦横無尽に飛び跳ねながらなんとかかわし続ける。


 影妖怪Aが浮遊しながら追撃してくるが、移動速度はそもそも遅い。黒影妖狐が同じ俊敏さで襲ってくるが、独鈷杵が武器として短すぎるので、呪符扇子でたやすくさばける。問題は影妖怪Bが投擲する三鈷剣。


 先ほどから続く連携攻撃でわかったこと。


 影妖怪Bが三鈷剣を影に向けて投擲すれば、別の影から三鈷剣が突如出現、飛来する。つまり、影と影をつなぐワープ系の魔法を使っているのだ。


 これまでの影妖怪3体の挙動を鑑みて、六つの退魔法具の役割を推理する妖狐。


 次のように状況を整理した。


 影妖怪Aが前衛を担当。宝戟で接近戦、日輪で独鈷杵を召喚。


 影妖怪Bが中衛を担当。月輪がちりんで三鈷剣を召喚。三鈷杵さんこしょで影ワープ魔法を制御。投擲で援護。


 影妖怪Cが後衛を担当。錫杖しゃくじょうで妖術、呪術封印。輪宝で黒影妖狐を傀儡くぐつのように操作。


 強力な連携攻撃、容易に打破できる状況ではない。


(くっ、ダメ……、諦めちゃダメ。よう子ファイティン!)


 妖狐がダメージを負いつつ、たった独りで影妖怪の攻撃をかわし続けているのは、ひとえに彼女の本質、熱血根性の賜物たまものなのだ。


(あれを試す……)


 妖狐が右手の呪符扇子を影妖怪Aの顔に向けて投げつけると、宝戟で突き刺し破壊されてしまった。


 そのタイミングで後方へ大きく跳躍する、帯から護符を出して追ってくる黒影妖狐の正面に投げつける。すると護符が照明弾のように激しく輝いた。


 影妖怪3体がひるむ。黒影妖狐の肉体が一瞬消えたかのように見えた。


 妖狐はその隙にビルの最上階へと跳躍し、ビル内へと逃げ込む。そのまま足を止めず、廃墟ビル群をひたすら駆け抜け、完全に影妖怪から身を隠すことに成功した。



 §   §   §



26.6 妖怪VS妖狐 観戦模様その二 アラトの部屋


 鼻をすするアラト。ジワジワとにじみ出る涙を何度もぬぐう。


「こんなの見てられないよぉ~、うっ、ううっ、がんばれぇぇぇ~、よう子ちゃん……、ファイティン」



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