第二十六章 妖怪VS妖狐 その2
26.3 妖怪VS妖狐 試合模様その一 妖狐側
『……3、2、1、ゼロ』
試合開始の合図と同時に、スゥーっと身体が浮遊する影妖怪。
「あいつ、空飛べる……。でも、大丈夫。あたしには弓がある……」
バック転で素早く後方へ下がる妖狐。跳躍力とスピードは人間の3倍くらいだろうか、俊敏な動きだ。
片膝をつき、左手で肩に掛けている『妖狐秘弓』を握る。帯の中に隠している呪符を右手で取り出し、弓を構えた。
すると、影妖怪が中右腕の錫杖を前に掲げ、シャンシャン、シャンシャンと鳴らした。
「あれ、おかしい……。あたしまたヘマやっちゃった?」
妖狐は呪符を特殊効果のある矢に物質変換する魔術を行使できる。爆炎効果の矢に変換しようとしたが、何も起きなかった。慌てふためく妖狐。
出場者は試合中、観戦モニターに表示される対戦情報を確認できない。つまり妖狐は知らない。影妖怪の錫杖に魔術、呪術を封印する能力があることを。
浮遊している影妖怪が、六つの手に持つ全ての退魔法具を体の中心に集めるように突き出す。カッと閃光を放つ退魔法具。すると、影妖怪は二つの分身体を創り出し、3体の影妖怪に増殖した。
姿形は分身前と変わらない6本腕だが、六つの退魔法具を3体が二つずつ分担して所持している。
影妖怪Aは、中左腕に宝戟、下右腕に日輪。
影妖怪Bは、上左腕に三鈷杵、下左腕に月輪。
影妖怪Cは、中右腕に錫杖、上右腕に輪宝。
「なに、あれ。分身した……」
状況を把握しきれていない妖狐は、『妖狐秘弓』を肩にナナメ掛けし、廃墟ビル内へといったん退避した。
妖狐は対戦情報の説明どおり、妖狐術、護符神術、呪符魔術の3種類の秘術を行使できる。
神術は、神仏を信仰することによって得られる秘術。俗に言う白魔術に該当し、術者に益をもたらす。
護符神術は、神術を封入した護符を消費して特殊能力を発動させる。護符の枚数に応じて神術を行使できるため疲労しないのが特徴。
彼女は護符神術で、治癒魔法と幻影分身術などを行使できる。
呪術は、怨霊の呪いなど精神的パワーを物理的パワーに変換し使用する秘術。俗に言う黒魔術に該当し、対象物に害をもたらす。
呪符魔術は、呪術を封入した呪符を消費して特殊能力を発動させる。護符神術同様、呪符の枚数に応じて呪術を行使できるため疲労しない。
彼女は前述のとおり、呪符を特殊攻撃効果のある矢に物質変換できる。また、『呪符扇子』という武器も生成できる。
妖狐術は護符や呪符を使わない、妖狐族に伝わる秘術。
彼女もさまざまな秘術を実行できる。その内の一つが『妖狐術九分身』。
「あいつが分身するなら、あたしは九分身……」
妖狐は『妖狐術九分身』を発動させるための印を結んだ。
「はぁ!」
何も起きない。
「あれ……、やっぱりおかしい……」
妖狐はビル内に身を隠したまま、『妖狐術九分身』を数回試したが、彼女の言葉どおり秘術を実行できない。
「妖術、呪術を封印する能力? あの錫杖が一番怪しい……」
妖狐は両手で頭を抱え、アチャーという顔をした。
「矢が創れない……、もう弓は使えない……」
肩に掛けていた弓を、三等分に折り畳みに、本体が背中側になるように肩にナナメ掛けし直した。これで邪魔にならない。
代わりに、フサフサの尻尾の中から『呪符扇子』を二つ取り出した。
「良かった……。いつも呪符扇子だけは尻尾に隠しているから使える……。でもカマイタチは使えない」
『呪符扇子』は呪符で創り、刃物が仕込んである扇子。事前に物質変換していたので刃物武器として使える。本来は、呪術によってカマイタチを発生させる特殊武器なのだが、今は発動できない。
帯に隠してある呪符を取り出し、別の呪符扇子を作ろうとしたが、やはり作れなかった。
「やっぱりダメ……。この二つの扇子だけで戦わなくちゃ……」
彼女は妖狐族最強の戦士。これまでに数多くの妖怪を駆除してきたプロの退魔士なのだ。
「諦めない……、よう子ファイティン!」
§ § §
26.4 妖怪VS妖狐 観戦模様その一 アラトの部屋
アラトはソファーから立ち上がり、両手で頭を抱えている。
「そういえば、そもそもよう子ちゃんはプロの退魔士なんだよ。妖狐で退魔士。悪い妖怪を退治するヒロイン。
そんで、対戦相手も影の妖怪、かつ、退魔士って書いてある。ってことは、二人の妖怪兼退魔士が殺し合うって話だ。お互い得意分野で競い合うライバル。
でも、よう子ちゃん絶体絶命だよ! こんなん勝てないって!」
【ブックマークのお願い】
継続して読んでいただいている読者の皆様、誠に有難うございます。
是非とも、ブックマークの便利な更新通知機能をご利用ください。
【作品関連コンテンツ】
作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。