第二十六章 妖怪VS妖狐 その1
26.1 第一回戦第十三試合 妖怪VS妖狐 対戦情報
観戦モニターに表示されている対戦情報より。
闘技場について。
本日の闘技場はDタイプ。本大会初めての会場。
正四角柱の閉鎖された密閉空間。一辺400m、高さ25m。
空間内には破壊されたビル群が多数乱立する廃墟の街。
傾きかけたビル、壁や窓ガラスも所々破壊されている。もっとも高いビルディングが5階建てで、閉鎖空間の天井に届きそうだ。そしてビル内に潜伏も可能。
地面は砂地もあればアスファルトの道もある。不自然に隆起していたり、爆発によって穴が開いていたりする。
天井に証明装置が多数あり内部を照らすが、ビル内は照明器具皆無。全体的に暗い印象。
総じて、立体的な戦闘が楽しめるようになっている。
九妖妃について。
九尾の妖狐。妖狐界最強の女戦士。
妖狐術、護符神術、呪符魔術を行使する。
弓術を得意とし、妖狐族に代々伝わる弓『妖狐秘弓』を駆使する。
アシュカについて。
影の妖怪、かつ、退魔師。
六つの退魔法具を使用する。
・宝戟:三つ又の矛。どんなに硬い物質でも貫ける。
・錫杖:魔術、呪術を封印する。
・輪宝:影傀儡の生成。
・三鈷杵:影魔術の行使。
・日輪:独鈷杵の召喚。
・月輪:三鈷剣の召喚。
§ § §
26.2 妖怪VS妖狐 試合開始前 アラトの部屋
『シアイカイシ、3プンマエ』
観戦モニターに映る、廃墟の街の中心にある2車線の道路に、お互い向き合う格好で二つの人影が転送されてきた。
一人は影の妖怪。
文字通り全身真っ黒の姿は、影が立体化した妖怪だと認識できる。阿修羅像のような6本腕で、六つの退魔法具を握る。
上左腕に三鈷杵、中左腕に宝戟、下左腕に月輪。
上右腕に輪宝、中右腕に錫杖、下右腕に日輪。
所持する武器の見た目は、むしろ千手観音菩薩を彷彿させる。
顔は一つだけ。真っ黒い顔の中に白い双眸だけが浮かび上がり、威嚇する。そして、神仏像が被る宝冠らしきものを頭に乗せている。
もう一人は、巫女のような格好の女性。
頭髪に混じる狐耳、黄色の眼差し、さらに九つの狐色した尻尾を揺らす。『九尾の妖狐』の人間バージョンと思われる。
袖が分離して両肩が露出したノースリーブとミニスカの巫女服デザインは、むしろ緋色の近代的和服という印象だ。それに白いサイハイストッキングは、もはやお約束アイテムであろう。
白銀の長髪を後ろで結っている。
大きな弓『妖狐秘弓』を肩に掛けるが、なぜか矢がどこにもない。そして、戦士というよりも、可憐な少女と表現したい。
突如、観戦モニターを見ていたアラトが、ガッターン、とソファーからズリ落ちたと思いきや、サクッと立ち上がった。
「ぎゃぁぁぁ~、キタよこれぇぇぇ~!」
「どうされました、アラトさん」
「よう子ちゃん……」
「はい、妖狐で間違いありません」
「いやそうでなくて! これ、この娘、『九尾のよう子ファイティン!』のヒロイン、よう子ちゃんだよ!」
「たしかにおっしゃるとおりですわ。わたくしのデータにもあります。
『九尾のよう子ファイティン!』と言えば、10年前にAI小説執筆アプリによって制作されたAI小説の金字塔です。つまり、人間がいっさい関わっていない、AIだけで製作された世界初の完全オリジナルストーリーですわ」
「そう、それ! そのあと、AI小説がメチャメチャ注目されてさぁ」
「はい。特にこの『九尾のよう子ファイティン!』は当然のように、コミカライズ、アニメ化、映画化など、メディアミックス戦略の展開で大成功しています。
そりゃもう、ガッポガッポと儲かって。ただ、AIが丸ごと全部執筆したことで、著作権問題が勃発し……」
「これこれ、そういう業界の揉め事は掘り返さないであげてください。僕が気にしても仕方ないけど」
「わかりました」
「とにかく間違いない! メッチャ嬉しいなぁ~。
女子高生で稲荷神社の巫女さん、ふだんは高校で妖狐だとばれないように行動するけど、すぐに耳と尻尾が出てきちゃって、ドジっ娘がかわいいんだよねぇ~。
なのに、妖怪退治の時はメチャメチャ負けず嫌いのがんばり屋女子、もう最高! そんで、アニメの声優さんがベストチョイスなんだよなぁ~。熱血系陰キャボイスのドジっ娘にピッタリ!」
「詳しいですね、アラトさん」
「だって、僕、よう子ちゃんの——」
「よう子ちゃんの?」
「な、なんでもありません」
「まさか、フィギュア持っているとかではありませんよね? アラトさん」
「そそそ、そんなことより、そんなことより、んーと、なんで現実世界にいるんだろ? まぁ、そもそもここがホントに現実世界なのかぁ~って思っちゃうけどね」
「スルーがうまいですね、アラトさん」
「そそそ、そんなことより、そんなことより、んーと、『九妖妃』って原作で本名なのかな?」
「はい、どうやら裏設定の名称のようです。本当にファンなのですか?」
「ぼ、僕だって知らないことはあります!」
「いずれにせよ、小説に登場するキャラクターが現実世界に顕現しているというのは、非常に興味があります。これも多元宇宙の一種でしょう」
「その多元宇宙とやらも、いつかきっちり説明していただきたいところですけどね。まぁ、IQ3の僕が必死になって考えても答え出ないし」
「はい、わたくしも現時点では情報不足です。申し訳ありません」
「そんでね、こんなんイジメみたいなもんじゃん!」
「どういう意味ですか、アラトさん」
「だって、影妖怪の退魔士の錫杖ってさ、魔術、呪術を封印するって書いてるじゃん」
「はい」
「てことは、よう子ちゃん、戦う武器が全部使えないってことじゃんか!」
「よくわかりませんが、護符神術は使えるのではないでしょうか」
「いや、でも、それだけだったら厳しいよね」
「そうですわね。ですが、アラトさん好みのかわいい女の子ですから、例によって『おパンツ作戦』が有効かと」
「もうその下り、ヤメレ!」
『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』
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