第一章 デス・ストーリーは突然に その7
1.3 多元宇宙統一最強決定大会 後編
アラトは201号室へと急ぎ、ドアの前で立ち止まる。
(帰るんだぁ! うちに帰るんだぁ!)
ピンポーン、ピンポーン
返事がない。ドアノブを回すとロックされていない。
(え~い、ままよ!)
アラトは勢いよく201号室のドアを開け、女性の部屋へと乱入した。が、駆けこんだと同時に脳内で赤信号が点灯した。
(うっ、ヤバイ、これは非常にヤバイぞ! これ、完全に男性が女性の部屋に乱入するという変態事案じゃないかぁ! うぉぉぉ~、明日はニュースやらネットやらで尾暮新人の名前が晒されて、親を泣かすことに……)
案の定だった。
義理子先輩が水着から赤いスーツに着替えている真っ最中だったのだ。
上は白のワイシャツ。後ろ向きで丁度タイトミニスカをはいているところだった。スカートをはくため前かがみになり、ちょうどお尻を突き出すように、こちらに向けている。ミニスカを腰まで上げる過程でワイシャツがめくれ、さっきの水着とは違う赤い下着が見えてしまった。
ちなみに、おパンツはお尻プルルンのティーバック。
「ぎゃっ、す、す、す、すみません、先輩! わざとじゃありません!」
顔から火が出るほど真っ赤になって、両手を激しく左右に振りながら『違う、違う、誤解、誤解』のジェスチャーをするアラト。
「あら、あら、アラトさん、どうされたのですか? いけませんよ、女性の部屋にいきなり入ってくるのは」
「す、すみません。ちょっと、急遽、確認したいことがありまして、急いでいたものですから」
「そうですか。では、いったんスーツを着るまで待ってください」
「はい、待ちます」
アラトはいったん部屋の外に出て冷や汗を拭った。いや、これは脂汗なのか。それから鼻と口を同時に右手で押さえる。
「鼻血が出る、マジで鼻血が出る。見てしまった、超絶美人先輩のお尻プルルンを」
言いながら目をつむり、一瞬前の情景をまぶたに映し出し、記憶を保存しようとして……、
「れ、れ?」
アラトの能天気型脳味噌に画像を保存しようとした瞬間、何かに気づく。
(おかしい、あれは何なのだ)
水着の時はティーバックではなかったので見えなかった。
しかし今回はティーバックだったので、見てはいけないものが見えたのだ。
(あれは間違いなく数字だ。777。スリーセブン。入れ墨? タトゥーシール?)
縁起がいいのではっきり目に焼きついている。
超絶美人先輩のお尻にタトゥーなのか何なのか不明だが、777と小さく赤い数字が描かれていた。
「タトゥーだったらちょっとおシャレかも? って、そんなわきゃないって! いやいや、そんな話じゃなく……。
もう、異星人なのか異世界人なのか、何が何だかわかんなぁぁぁ~い!」
先輩の部屋の前でウロウロ。一度立ち止まり、スーハー、と深呼吸。
「とにかく冷静になれ、アラト! 数字の7が書かれているなら、地球の言語だから宇宙人ではない。だったら……、いや、まさか、でもそんなはずはない……」
先輩の部屋のドアが開く。
「あら、あら、アラトさん、お待たせいたしました」
赤いスーツを着た先輩が部屋から出てきた。
(その『あら、あら、アラトさん』には、ものすご~く嫌な意味が隠されてますよね、先輩!)
部屋に入れそうもないので、そのままホテルの廊下で話し込むことになった。
「急遽確認したいこととは何でしょう、新人さん」
「はい、先ほどはたいへん申し訳ございませんでした。お詫び申し上げます」
深々とこうべを垂れるアラト。
「いえ、わたくしも職場の上司ですから。部下の失敗は上司の責任でもあります。新人さんが社会的に抹殺されないように最善を尽くします」
グゥの音も出ない。
「新人さん、本当ですよ。困り事があったら、何でもご相談ください。どうされました?」
「はい、そのぉ~ 例の多元宇宙統一最強決定大会って、いつから始まるんですか?」
「あら、あら、わたくし、説明を漏らしましたか。明日からです」
「げっ」
「ほかに確認事項ありますか?」
「その、秘密兵器って、事前に確認できますか?」
「あら、あら、その件も伝達漏れですわね。数日後に入荷できます」
「げげっ」
「以上でよろしいですか?」
「え~、第一回戦のトーナメント表ってありますか? その、私の最初の対戦相手が知りたいのですが」
「あら、あら、アラトさん、対戦相手なんて気にしなくても大丈夫ですわ」
「げげげっ」
「あら、あら、アラトさんは金太郎のファンですか?」
(いや、それを言うなら、金太郎ではなくキ……。いや、もう、好きにして……)
気を取り直し、続けるアラト。
「それから、先輩。今日の夕飯はどうすればいいんですか?」
「食事は部屋で注文することができます。新人さんの大好きなハンバーグも注文できます。全て無料です」
(えっ、ホントに? ワーイ、ヤッター!)
ニコニコとアラトを見続ける義理子先輩をよそに、アラトの能天気型脳は思考を続ける。
(そうかそうか、死にたくなるほど弱気になる材料は三つ止まりか。明日第一回戦開始、戦闘能力不明、対戦相手不明。たったのこれだけ。ヨシヨシ、良かったぁ!
そんな訳で、部屋に戻って爆死する方法考えまぁ~す)
アラトの心を見透かしているように切り出す義理子先輩。
「ご安心ください、新人さん。ほかの参加者も今日の夜まで対戦相手はわかりませんから。32枠目が今日決まったばかりですので、第一回戦対戦組合せ表は今夜配布される予定です。ですから、まだ誰一人として我社の秘密兵器が参戦すると知りません」
(その32枠目って僕ですよねぇ~、当事者の僕ですら秘密兵器なんて知らないんですからねぇ~、誰にもわかんないっスよねぇ~、当然っスよね~)
最後に、今晩、第一回戦対戦組合せ表をアラトの部屋に持って行くと約束した義理子先輩は、満面の作り笑顔で手を振りながら見送ってくれた。
(あれって極上の営業スマイルだよなぁ~、板についてるよなぁ~、美人なんだけど嬉しくないよなぁ~)
部屋に戻ったアラトはソファーに身体を埋めた。
ひとことだけポツリ。
「もうどうにでも好きにして……」
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