第二十四章 プロゲーマーVS女子高生 その6
24.15 プロゲーマーVS女子高生 死に戻り試合四回目 女子高生側
大会十二日目の朝。ツキコにとっては四回目。
ツキコは試合前の降伏勧告に対して、一回目のやりとりと同じように無視した。
『……3、2、1、ゼロ』
呪いの撮影完了。試合開始後の展開も、一回目の流れを狂わせないようにする。大事なポイントを除いて。
ゲーマーは初動『失神毒針攻撃カード』で自滅、そこから『敗北無効カード』で復活した。これで『敗北無効カード』の使用クリア。
続けて『火炎包囲攻撃カード』を取り出した。
(さぁ、ツキコ、こっからが勝負よ!)
「こういうシンプルな攻撃で十分だ!」
ゲーマーは叫びつつ『火炎包囲攻撃カード』を掴み、地面に叩きつけた。
ここまで、一回目の流れと寸分変わらない展開。
突然ダッシュで、ゲーマーに駆け寄るツキコ。
「な、なんだ、こいつ!」
意表を突かれ驚くゲーマー。しかし、『火炎包囲攻撃カード』で放った炎が、ゲーマー自身を襲ってきた。
「な、なんだ! どういうことだ! ありえん、ありえんぞ! どうしてこっちに来るんだ!」
大騒ぎしながら炎から逃げ惑うゲーマー。かれこれ5分くらい走り回っただろうか。
その隙を狙って、ツキコはあることを成し遂げていた。
やがて『火炎包囲攻撃カード』が終了し、鎮火していく。
「な、なぜこうなる……」
立ち止まり、息を乱しながら突然声を張り上げるゲーマー。
「し、しまった! オレのトレカ! オレの宝物!」
ゲーマーは周囲を見渡した。そして、ツキコに目を留める。
「お前、それはオレの……」
「はい。燃えてしまってはもったいないですから、わたしが安全な場所に移しました」
ツキコは、ゲーマーのトレカが入っている黒いアタッシュケースを足元に置いている。ゲーマーが炎から逃げ回っている間に拾ってきたのだ。
「おい! オレんだ! 返せ!」
「落ち着いてください。すぐに返します。怒らないでください」
「す、すまなかった。ありがとよ。今から取りに行くからな」
「待ってください。すぐに返しますけど、これは試合です。取りに来る前に、このカードを使ってください」
「どういう意味だ?」
ツキコはとあるカードを足元に置いた。それからアタッシュケースを手に取り、ゲーマーから距離を取るように後方へと下がった。
「はい。わたし、メドゥーサに石化する能力があるとは思えないんです。ましてや現実に石に変えるとか信じられません。だから『メドゥーサ召喚石化カード』を目の前で使ってほしいんです」
「なんでわざわざそんなことをする必要がある? 意味ねぇよ、そんなこと」
ゲーマーは話しながら、ツキコが床に置いたカードを回収した。
「わかってます。見たいだけです。それで石化しちゃえば、アタッシュケースを取り戻せますよ」
「いやいや、オレは重要なカードをいつも肌身離さず持ってるわけ。ここに『勝利確定カード』もあるし、『五分間巻き戻しカード』てのも持っているぜ! 5分間戻れば、アタッシュケースも取り戻せるさ」
「それって、メチャクチャ高いですよね! 勿体ないじゃないですか!」
「なんでお前がそんなこと気にすんだよ!」
ツキコは焦り始めた。最後の関門がクリアできない。
石化は5分以上継続するので、『五分間巻き戻しカード』が残っていても問題ない。とにもかくにも『メドゥーサ召喚石化カード』さえ使わせれば勝てるのだ。
「確かに今返してもらったのは『メドゥーサ召喚石化カード』だ。しかし怪しいぜ。こんなことまでして、特定のカードを指定して使わせるとか、裏があるとしか考えられん」
ツキコは覚悟を決めた。意地でもそれを使わせると。たとえ酷いことを口にしなくてはならないとしても。
「妹さん……、姫子さんですよね?」
「なんだと、お前、妹を知っているのか?」
「はい、とっても酷いブスですよね!」
「貴様ぁぁぁー! オレの妹を愚弄することだけは絶対に許さん! 殺すぞぉ!」
「よく、あんな酷いブスでSNSに写真掲載しますね! あー恥ずかし!」
ゲーマーは『メドゥーサ召喚石化カード』を握っている手をワナワナと震わせ始める。
「おい、女! それ以上言うな! ホントに殺すぞ!」
「妹さんもかわいそ、お兄さんがこんなヘタレじゃ、恥ずかしくて学校にも行けないわ」
ツキコはSNSを調べてよくわかっていた。プロゲーマー徳川政宗が極度のシスコンであることを。
そしてその妹は、まるでアイドルのように美人でモデルのようにスタイルもいい。投稿内容から、友達が多いのもわかっている。
ツキコは言いながら涙目になっていた。
本当は人の悪口を言うような性格ではない。ましてや心から思ってもいないことを、嘘で固めるとか、それこそ良心の呵責に苛まれる。
「しかも、あんなブクブクの体じゃ……」
「殺す!」
ゲーマーは激昂し、手にしていた『メドゥーサ召喚石化カード』を床に叩きつけた! ついに。
ゲーマーの挙動を目の当たりにし、ツキコはポロポロと泣き始めた。
「ゴ、ゴメンなさい。本当にゴメンなさい。すみませんでした……」
深々と頭を下げる。大粒の涙が床にポタポタと落ち続けた。
「わっ、バカ、こっちを見るな! なんでこっちを見たんだ! うわぁ、体が石になるぅぅぅ~」
ゲーマーが敗北の悲鳴を上げた。
ツキコは頭を下げた姿勢を崩さなかった。涙も止まらなかった。かれこれ10分くらい経ったかもしれない。
ついに、審判がツキコの勝利を告げる。
『只今の試合は、女子高生の勝利となりました。これで本日の試合中継を終了いたします』
倒れ込むツキコ。罪の意識に苛まれ、独りで号泣した。
彼女の向こう側には、逃げようとして固まっている男の石像だけが音もなく佇んでいる。
貞神月子、第二回戦進出!
§ § §
24.16 プロゲーマー徳川政宗
プロゲーマー徳川政宗——プレイヤー名——は、アラトが住む地球においてオンライン対戦ゲーム世界チャンピオンである。
20歳の彼もアラト同様、純粋な人間だ。
そして彼にはプロゲーマーとしての凄まじい実績がある。
オンライン対戦ゲームにさまざまなカテゴリーがあるが、RPG、シューティングゲーム、格闘ゲーム、レースゲーム、シミュレーションゲーム、テーブルゲーム、トレーディングカードゲームなど、個人戦、チーム戦を問わず、世界チャンピオンの座をほしいままにしてきた。
プロゲーマー業界で彼の名を知らない者は世界中どこにもいないという伝説級のプロゲーマーだ。
しかし彼は単なるゲームプレイヤーであって、リアルに命の奪い合いをする戦士ではない。
本大会限定という条件で、運営組織が彼の所有する『ザ・インフィニティレベル』のトレーディングカードに特別な能力を付与しているにすぎないのだ。
理屈は不明だが、カード内容を実現させる魔法使いでも準備したのだろう。
徳川政宗からすれば、自身が所有するトレーディングカードの内容をリアルにパフォームできるというのだから、こんなエキサイトする話はほかにない。
こうして彼は運営側に言われるがまま参戦を果たした。
優勝報酬は所持していないトレーディングカードを手に入れるという望みだったに違いないが、想定外の敵を甘く見すぎていたのが今回の敗因だったと断言できる。
§ § §
24.17 『ザ・インフィニティレベル』
『ザ・インフィニティレベル』は、20年以上人気が衰えないオンライン・トレーディングカードゲームだ。
その最たる特徴はなんといっても、販売された全てのトレカ——トレーディングカード——の所有者データがゲーム運営会社のサーバーによって厳格管理されており、オンライン上で遊べるだけでなく、所有者間のトレカ授受が一瞬で処理できる点にある。
具体的には、他者から譲渡してもらう、買い取るなどの行為により、トレカデータの所有者をオンライン上で移行させることで、授受が正式に完了するというシステムなのだ。
ゆえに、国境を越えてオンライン上で簡単に、かつ、安全にトレカ授受の手続きができるわけだ。
また、盛んにトレカ売買が成立するように、銀行口座間の送金とリンクさせてトレカデータが授受できるサービスも展開している。
サーバーによるデータ管理を行う一方で、トレカの実物は、まっさらのトレカ——エンプティカード——にデータ移植することで手にすることができる。
特殊な印刷技術によって、トレカの表面に印刷されているイラストも、授受の都度正確に再現され、本物としての価値を継続でき、かつ、自国の言語に変更すら可能なのだ。
もちろん、エンプティカードに印刷するためには、トレカの販売店舗やゲームセンターなどに足を運ぶ必要がある。
当然、セキュリティ面は万全だ。
ゲーム運営会社が開発した三次元式QRコード——三つのQRコードによって疑似的に立体化したコード——によって偽造防止されており、高度なセキュリティを維持しているのだ。
ちなみに、他人に譲渡し、無効となったトレカ実物の印刷面は、犯罪ができないように一定条件下で消える仕組みにもなっている。
ザ・インフィニティレベル運営会社が、このオンライン・トレカ運用システムを独占している。
そしてオンライン・トレカ運用システムだけが世界で唯一、勝てば相手のトレカを戦利品として受理できる——制限や条件あり——というギャンブル性の高いゲーム構造を可能としているのだ。
だからこそ、いまだ根強い人気を維持し続けている。
【ポイント評価のお願い】
数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。
どうも有難うございました。