第二十四章 プロゲーマーVS女子高生 その5
24.12 女子高生の部屋 試合前々日二回目
ツキコは自室でハッと意識を取り戻した。二度目の死に戻り。そして三回目の同じ朝だ。
朝7時過ぎという時間帯のため、たまたま寝起きのタイミングと被っているが、50時間前に時間遡行する時は、食事中だろうが、学校で授業中だろうが、50時間前に戻ってくる。
起きている状態でハッと我に返るのだから、タイミング悪いとケガをしてしまいそうだ。それを考慮していたツキコは、試合開始時間から逆算し、あえてベッドの中で過ごしていたのだ。
「はっきりわかった、なんで死んじゃったのか……。
でも、あいつ、いきなり『勝利確定カード』を使っちゃう。もったいないのに……どうしてだろう……?」
溜息を漏らすツキコ。またやり直しだ。
§ § §
24.13 プロゲーマーVS女子高生 死に戻り試合三回目 女子高生側
大会十二日目の朝、三回目。
もちろん、これが三回目だとは誰一人として知る由もない。
(今回はもっと明確な作戦がある。ちゃんと調べたんだから。あいつに『勝利確定カード』を使わせない方法!)
「頼むからさ、棄権してよ。『降参します』って言うだけで、怖い思いしなくて済むしさ」
ゲーマーは一回目の試合前に口にした降伏勧告を、今回も同様に述べる。
「わかりました」
「ホントか? キミはとても賢いんだね、嬉しいよ。じゃ、試合開始の合図があったら、敗北宣言してくれるかなぁ?」
「はい、その代わり、お願いがあります」
「そうか、何でも言ってよ。もちろんお金でもいいし、なんならデートしてあげてもいいよ」
「デェ……。いえ、必要ありません。お願いと言うのは『メドゥーサ召喚石化カード』を、わたしに向けて使ってほしいんです」
「は? どういう意味? なんで、カードのことそんなに詳しいの?」
急に怪訝そうにツキコを眺め始めた。完全に身構えて、懐疑的な表情のゲーマー。
「やっぱり忘れてくれ。どっち道、勝つのはオレだから」
(えっ、そんなあっさり? ちょ、困る! ちょっと待ってよ!)
『……3、2、1、ゼロ』
三回目の対戦がスタートした。
戸惑っていたツキコは、ゲーマーの撮影を一瞬忘れかけた。すぐさまハッと気づいて、撮影し呪いをかける。焦燥感と安堵感とで大きく溜息を吐いた。
(ツキコ、なにやってんのよ、いきなり失敗しちゃって)
ツキコは時間の許される限り、プロゲーマー徳川政宗が所有するトレカを散々ネットで調べ上げた。そして、彼に使って欲しい最適なカードを見つけたのだ。
『失神毒針攻撃カード』も『火炎包囲攻撃カード』も、致死性の高い攻撃ではない。つまり、ゲーマーもさすがに女子高生を殺してやろうとはそもそも思っていないということ。
そして三枚しかない『勝利確定カード』を使ってしまったのは、精神錯乱はもちろんのこと、ツキコを殺さずに勝つという意味合いでもあるのだ。結果的にツキコは死んでしまうのだが、彼は呪いのことを知らないので仕方ない。
ツキコにとって、いや、ツキコの天罰能力にとって、ゲーマーを負けに追い込むベストな選択が『メドゥーサ召喚石化カード』であると考えた。
『メドゥーサ召喚石化カード』の使用によって、天罰が彼を石化すれば、問題なくツキコの勝ちになる。カードの効力が消えれば、彼も元通りなので心配ない。彼自身もツキコに対して遠慮なく行使できるという寸法だ。
長時間掛けてせっかく導いた戦略だったが、今のところ失敗に等しい。
ゲーマーの初動はこれまで『失神毒針攻撃カード』だった。ところが……。
「どういう訳か知らないけど、名前を教えてくれたら、ご要望の『メドゥーサ召喚石化カード』を使ってあげるよ。優しいだろ、オレは」
「は?」
ツキコは目が点になった。
なんというか、よっぽど自分はモテるとでも思っているのか……、とにかく呆れる……。
「リカです」
「リカちゃん? あー、そういえば、アイドルのリカちゃんに似てるねー」
ツキコは周りからよく似ていると言われるアイドル名でごまかした。
「それじゃ、リカちゃん。申し訳ないけど、『メドゥーサ召喚石化カード』で石になってもらうよ。試合が終われば元通りだから安心して」
と言って、『メドゥーサ召喚石化カード』を床に叩きつけた。
ツキコはわかっている。メドゥーサが召喚されても目を見なければいいだけ。そして、天罰の結末は火を見るより明らか。
ツキコは後ろを向き、聞き耳を立てて様子をうかがう。
「わっ、バカ、こっちを見るな! なんでこっちを見たんだ! うわぁ、体が石になるぅぅぅ~」
全てお見通し。見ていなくても、ゲーマーの慌てぶりが目に浮かぶ。
やがて静かになった。しかしメドゥーサ本体がいつ消えるかわからないので、運営がツキコの勝利宣言をするまで待ち続ける。
それから数分が経過した。
「お前、オレに『敗北無効カード』を使わせたかったのか……。アレはなぁ、メチャクチャたけぇんだぞ! 女子高生が買えるような代物じゃねぇ! クソッ、なめやがって!」
ツキコはギョッとして、後ろを振り向いた。
例によって憤慨しているゲーマーの姿。彼のセリフから理解できるのは、作戦どおり一度石化したが、『敗北無効カード』が勝手に発動して石化が解除されたということ。
ツキコはうろたえた。そして自分の浅はかさを思い知った。
一回目の試合の流れを極端に変えてしまうと、想定外のことがいろいろと起きることになる。『敗北無効カード』の存在も、ほかの可能性も全て念頭に置かなければいけなかったのだ。
(まずいわ、このままじゃ……)
その後の展開は、ツキコが即座に予測したとおりだった。
ゲーマーが『火炎包囲攻撃カード』を使う。カードがアタッシュケースごと燃える。『五分間巻き戻しカード』を使う。結果、激怒して『勝利確定カード』を使う流れ。
それでも、ツキコは最後まで抵抗した。
「『勝利確定カード』って高いんでしょ! そんなものわたしなんかのために使わないで! ほかのカードにしてよ!」
「お前なぁ、うるせぇよ! オレはお前がケガしねぇようにって考えてんだよ! とにかく、これでオレの勝ちだ!」
『勝利確定カード』を床に叩きつけた。
§ § §
24.14 女子高生の部屋 試合前々日三回目
ツキコが自室で意識を取り戻す。三度目だ。
「もう、どうすればいいのよ!」
枕を叩く。
前回あれだけ調べ上げても失敗したのだ。他に調べようがない。しかし、ツキコがどんなにやる気を失っても、四回目の試合は訪れる。いっそのこと試合を諦めて、棄権するのもありかと考える。
結局、考えるのを途中で止め、ツキコは自暴自棄に陥った。
その日の夕方、半ベソになっていたツキコはベッドから這い出し勉強机に向かった。パソコンの電源をオンにする。
「何度失敗してもやり直しきくんだから、どうせならやっちゃえよ、ツキコ」
ツキコはネット検索を始めた。SNSもチェックした。何でもいいから情報がほしい。プロゲーマー徳川政宗の性格、嗜好、弱点、なんでもいい。とにかく調べる。それしかやる事が残っていない。
一晩明かした。朝日を迎えた。眩しかった。
「これよ……、これだわ……、これならいける……、絶対いけるわ」
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