第二十四章 プロゲーマーVS女子高生 その4
24.10 女子高生の部屋 試合の前々日
女子高生、貞神月子は自室で意識を取り戻した。
「そう……、こうなっちゃうのね……」
諦め顔で溜息を漏らす女子高生。
勉強机に置いている目覚まし時計の時刻と日付を見る。壁に掛けているカレンダーと見比べ、自分の考えが正しいことを確認した。
プロゲーマー対女子高生の試合は大会十二日目だった。そして、目覚まし時計の日付は大会十日目を示している。つまり二日前の日付なのだ。時刻は午前7時過ぎ。
「また、死に戻っちゃった……、でも、今回はなんで死んだんだろう……」
彼女、貞神月子は、正真正銘、つい先ほどまでゲーマーと対戦していたあの女子高生だ。では、なぜ、彼女は自室に戻ってきているのか。
彼女は呪われていた。『呪いのスマホ』に。それは『呪いのスマホ』の二つ目の呪い。
一つ目の呪いは、撮影することで他人に呪いをかけること。
二つ目の呪いは、俗にいう『死に戻り能力』だ。つまり所有者自身が呪われていることになる。
『死に戻り能力』。
貞神月子が死ぬと、50時間前に戻って生き返る。タイムリープと勘違いしそうだが、どちらかと言えばタイムループ現象に近い。
彼女は、現実のリアルタイムから50時間先を先行して仮体験している。50時間先に己の死を観測すると、その50時間をまたやり直せばいいだけのこと。その時間遡行のような現象で戻った時点から仮体験が再スタートするのだ。
いわば、石橋を叩きながら未来を観測する能力。
50時間後に死なないことが確認されれば、仮体験が体験済みの事実へと塗り替えられていくわけだ。無敵のチート能力としか言いようがない。
彼女はこれまでに『死に戻り』を2度経験したことがある。
その時の経験で判明しているのは、50時間の時間遡行をした感覚と記憶が残るのは貞神月子本人だけ。つまり、他人を誰一人として巻き込まずに、独りだけで未来を観測しているのだ。
「ホントに死んじゃった理由がわかんない……。
このままじゃ、また同じ結果になっちゃう。そんなのイヤ! 死に戻りの無限ループだけは絶対に避けなくちゃ!」
彼女は不老不死になったわけではない。
『死に戻り能力』は、自然死や老死の場合に作用しないと、彼女も本能的に認識している。そして本来、死ぬ運命でなかったにもかかわらず、なんらかの突発要因によって死を招くと発動する、ということを経験上理解しているのだ。
では今回なぜ、『死に戻り能力』が発動したのか、それが全ての謎だ。
「とにもかくにも、あいつの情報が必要ね。たしか……徳川政宗だったっけ?」
彼女は、ネットで『徳川政宗』を検索した。
彼女とゲーマーは同じ地球出身だった。運が良かったとしか言いようがない。この大会では多元宇宙のさまざまな世界から出場者が集合しているので、同じ地球である確率は非常に低いのだ。
オンライン対戦ゲーム世界チャンピオンで伝説級に有名な彼が、ネット検索でヒットするのは至極当然のことで、いくらでも情報を入手できた。
そして彼女は、徳川政宗が個人的に所有するトレカ、『勝利確定カード』、『敗北無効カード』、『五分間巻き戻しカード』、『五分間絶対防御カード』の存在を知る。
「す、すごいこの人……。20歳なのに、賞金で数億とか稼ぎ出しちゃってる。ウソみたい……
よくわかんないけど、あいつは自分の持ってるトレカを魔法のように使えるってことね。なんだか、ツキコの呪いより全然すごいんですけど……。ツキコ、ホントに勝てんのかなぁ……」
彼女は試合の流れを思い出しつつ、入手した情報と照らし合わせ死んだ理由を探す。
何時間悩んだだろうか。
明日の夜になると大会運営から使者が自宅に迎えにくる。試合前日の夜は、アラトたちが宿泊するホテルに泊まらないといけない。
数日前にホテル現地の下見に行ったこともあったが、それが、16歳の女子高生である彼女が大会運営側と取り交わした約束事だ。
つまり、ネット検索で調べ事ができるのは明日の夕方まで。残り30時間。
女子高生が散々悩んだ挙句、たどり着いた結論はこれだ。
「ツキコが死ぬ直前に、あいつが発した言葉、『勝利確定カード』。このカードがツキコを死に追いやった真の原因としか考えられない……。
だったら、因果関係がどうとかそんなの二の次でいいから、まずは『勝利確定カード』を使わせないようにするのが大事ね。
とにかく、ツキコの呪いで、あいつが先に降参すればいいのよ」
§ § §
24.11 プロゲーマーVS女子高生 死に戻り試合二回目 女子高生側
大会十二日目の朝、二回目。
『……3、2、1、ゼロ』
二回目の対戦がスタートした。対戦相手のゲーマーは、これが二回目の試合だとは、知る由もない。
ツキコは予定通りゲーマーの姿を撮影し、呪いをかける。
ゲーマーの初動『失神毒針攻撃カード』で自滅。そこから『敗北無効カード』で復活。さらに『火炎包囲攻撃カード』で再び自滅、『五分間巻き戻しカード』でやり直し。
ツキコはできるだけ最後以外の事象に手を加えず、ここから『勝利確定カード』を使わせないように作戦を練っていた。
(さてさて、こっからよ、ツキコ!
あいつに他のカードを使わせるの。あいつに憎まれ口を散々叩く。あいつに遠慮させちゃダメ、死ぬほど怖い攻撃をさせればそれでいいんだから。天罰が仕返しすればあいつが負けるわ。とにかく『勝利確定カード』だけはダメ)
SSRカード2枚の消費で錯乱状態に陥ったゲーマー。前回同様、半狂乱となってツキコに向かって走り出す。
(ビビッちゃダメ! どうせ天罰が守ってくれるから!)
16歳の少女からすれば、鬼の形相で迫ってくる男性は恐怖そのものだ。ツキコは必死になって自分を勇気づけた。
「きゃぁぁぁー、こっち来ないで! キモい、キモい、キモい! 顔がキモいんだから、あっち行ってよ!」
鬼の形相がさらに悪化した。目が血走っている。これだからプライドの高い男は嫌い、とツキコは心底嫌悪した。同時に、イケメンは顔をけなすのが一番だとも思った。
「お、お前ぇ! ぜってぇ殺す!」
ゲーマーの駆け寄るスピードが増したかと思った瞬間、猛然とツキコに飛び掛かってきた。当然、天罰防御の力で、ツキコに触れることなく吹っ飛んでいく。第三者の目からは、女子高生がサイコキネシスで弾き飛ばしたように見えたかもしれない。それほど、いびつに、不自然に宙を舞った。
床に全身を打ちつけながら、激しく転がって行くゲーマー。
しばらくすると、無言でゆっくり立ち上がった。額からダラダラと血を流している。口から泡を吹き、ブツブツと何かを言葉にしているがほとんど聞き取れない。
ゲーマーはポケットから一枚のカードを取り出し、ツキコの顔に向け突き出した。ネットで絵柄を確認していたのでわかる。間違いなく『勝利確定カード』だ。
「それを使っちゃダメェェェ!」
「けっ、オレの勝ちだ」
ゲーマーは『勝利確定カード』を床に叩きつけた。
突如、ツキコの周囲が暗闇に変わる。完全に闇の世界。自分の姿だけが宙に浮き、足場がどこにあるかもわからない。
左手に握っているスマホを見た。スマホ画面にヒビが入る。ヒビが徐々に広がりスマホそのものがバラバラに砕けていく。そして自分の肉体が粒子となって崩壊していくのを感じ取った。
ツキコは理解した。スマホが破壊されると自分の肉体も破壊される。一心同体、そういう因果関係にある。それは三つ目の呪い。
そしてスマホが破壊された訳とは。
彼女の考察は正しかった。
『勝利確定カード』によって、強制的にゲーマーの勝利が確定する。それは同時に、貞神月子を負けに追いやるという事実であり、それに対する天罰が発動してしかるべき。だが、天罰が発動してしまうとゲーマーが負ける可能性がある。
つまり、『勝利確定カード』が勝利を確定させるためには、『呪いのスマホ』の天罰を打ち破る必要があるのだ。
結論を言えば、『勝利確定カード』の神の御業に近い能力が、『呪いのスマホ』の天罰能力を無効にするために、スマホを破壊したのだった。
その結果、スマホと一心同体のツキコまでもが死んでしまったのだ。
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