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第二十四章 プロゲーマーVS女子高生 その3

24.6 プロゲーマーVS女子高生 試合模様その二 プロゲーマー側


 ゲーマーが目を覚ました。ゆっくりと起き上がる。意識をはっきりさせようと頭を左右に振った。


(いったい何が……、たしか気絶して……)


 なんとか状況把握しようと考えを整理するゲーマー。


 腕時計を見ると9時15分。試合開始から15分ほど経過している。逆算しておよそ10分間気絶していたことを把握する。


 次に所有カードの確認。ジーンズのポケットに入れておいた『敗北無効カード』を紛失している。可能性としては『敗北無効カード』が勝手に発動しているということ。それならば、つじつまが合い納得できる。


 つまり、10分間気絶した。敗北が確定した。勝手に『敗北無効カード』が発動し敗北が無効になった。同時に『失神毒針攻撃カード』の効果も消失した。これが最も状況にマッチする。


 しかし、ゲーマーはある重要なことに気がついた。


(なんてこった、カードをここで使用すると、カード自体が消滅してしまう! せっかくコレクションしたカードをむざむざ消費して失うのかよ!)


 ゲーマーは無意識に歯噛みした。


「クソッ、もう絶対に負けられねぇ! 『敗北無効カード』は一千万したんだぞ!」


 思わず声を張り上がてしまったゲーマー。女子高生はそれに気づくが、すぐさまスマホに目線を戻す。


(もう遠慮してる場合じゃねぇ! できるだけ安価なカードで一回戦二回戦を突破してやる!)


 ゲーマーは、また所有するカードをまさぐり、次のカードを選び出す。


「こういうシンプルな攻撃で十分だ!」


 『火炎包囲攻撃カード』を掴み、地面に叩きつけた。


 すると、女子高生の目の前に炎の柱が燃え上がる。そのまま少女を取り囲むように弧を描きながら火柱が連なる……はずだった。


 が、ゲーマーの想定に反して、その火柱が彼の方へと伸びていき床面を業火が走り出す。まるで彼の身体に導火線が結ばれていて、彼がどこに逃げようともその導火線に沿って火柱が追いかけていく、そんな状況だ。


「な、なんだ! どういうことだ! ありえん、ありえんぞ! どうしてこっちに来るんだ!」


 大騒ぎしながら炎から逃げ惑うゲーマー。かれこれ5分くらい走り回っただろうか。やがて『火炎包囲攻撃カード』が終了し、鎮火していく。


「な、なぜこうなる……」


 立ち止まり、息を乱しながらあることに気づいた。


「し、しまった! オレのトレカ! オレの宝物!」


 気づいた時にはもう遅かった。会場を走り回るうちに、広がった炎がトレカの入っているアタッシュケースをまるごと燃やし尽くしていたのだ。


「バ、バカな! ウォォォォォォォォォー、そんなバカなぁ!」


 四つん這いで倒れ込み、うなだれるゲーマー。


「あれ全部でいったいいくらつぎ込んだと思ってんだよ! クソッ、クソッ、クソッ! し、仕方ねぇ……」


 ジーンズのポケットから、いざという時に最終手段として使うつもりだった緊急用カード『五分間巻き戻しカード』を取り出す。


「これを使うしかねぇのか……。『五分間巻き戻しカード』発動!」


 『五分間巻き戻しカード』を床に叩きつけると、不思議な現象が起きる。


 その瞬間まで行ったゲーマーと女子高生の行為が、巻き戻し映像のように早送り逆再生され、本人がそれを実行しているのだ。それはコメディ映画でも見ているかのような滑稽こっけいさだ。


 ゲーマーが後ろ向きで走り出す。彼の背後に燃え盛っている火柱が、次々に静まり消えていく。そして最後に『火炎包囲攻撃カード』を床に叩きつける直前のシーンまで巻き戻った。カード名称のとおり、闘技場内で起きた5分間の出来事を全て巻き戻したのだ。


 巻き戻し効果が終了し、ゲーマーが足元にあるアタッシュケースとその中身の存在を確認した。手に持つ『火炎包囲攻撃カード』は使っていないことになっていた。


 ホッと胸を撫で下ろすゲーマー。燃えて消失した全てのカードを取り戻すことができたのだ。どうしてそんなことが可能なのか、ゲーマー本人も説明はできない。


 現実世界では、オンラインゲームシステムがデータ上で時間を巻き戻したように演出するだけのことだ。しかしこの場においては、奇跡の魔法、はたまた神の御業みわざとしか言いようがない。


 とはいえ、ポケットに隠し持っていた『五分間巻き戻しカード』は、消費したことにより無くなっている。



 §   §   §



24.7 プロゲーマーVS女子高生 観戦模様その二 アラトの部屋


「ニャハハハハハハ、なになに今の? ギリコも見てたよね?」


「はい」


「なんかチョコマカと変なことになったよね! 後ろ向きで走るし、火が消えるし、女子高生のびっくり顔かわいいし」


「結局そこですか」


「いや、まぁ、変な挙動を知りたいんですが」


「わたくしにもわかりません。残念です」



 §   §   §



24.8 プロゲーマーVS女子高生 試合模様その三 女子高生側


 女子高生——本名、貞神月子——はキョロキョロと周囲を見渡し、たった今起きた不可思議な現象に戸惑っている。そして、ゲーマーに目を留め観察するが、怪訝けげんな表情は収まらなかった。


(今のはいったい何? 元の状態に戻ったの? ツキコの能力とは違う……)


 彼女、貞神月子は、幼い頃から自分のことをツキコと呼ぶ。それは心理学的に特別視願望があるらしい。本人に自覚はないが。


(さっぱりわからないけど、ツキコの呪いはバレてないと思う)


 ツキコの呪い——彼女は『呪いのスマホ』を所有している。


 『呪いのスマホ』で撮影された人物は、貞神月子を攻撃しようとすると、天罰が下るのだ。そう、被写体となった人物を呪う能力。


 呪いを正式に成立させるための条件はいろいろある。


 呪いの対象は常に一人だけ。他の人物を撮影した瞬間、呪いの対象者は更新される。さらに、撮影して一年以上経過すると無効になる。


 呪いの対象者の撮影条件も厳しい。『呪いのスマホ』が、この人が呪いの対象なんだ、と認識できるようにしないといけないのだ


 条件その一。顔がはっきり映っていること。


 条件その二。全身の八割以上が映っていること。


 条件その三。対象外の人物が映っていないこと。ただし、身体3割程度までの映り込みはセーフ。


 この『天罰』というのも非常に便利な定義だ。今回のように、あからさまに攻撃を仕掛けると、攻撃を仕掛けた当事者にそのまま跳ね返ってくる。


 あるいは、仕掛けた攻撃技とは異なる事象によって別の苦しみを受けてしまう。


 はたまた、貞神月子を殺したいと考えるだけで、激しい頭痛に襲われる。といった具合に、あいまいな事象が発現し、まさに神が与えたもうた天罰となるのだ。それだけに恐ろしい。


 怪物や怪獣が対象でも、呪いが発動する可能性もあるが、定かではない。彼女は、この大会で試してみたいと考えている。


 女子高校生のボディガードとしては、まさしく打ってつけ。彼女を攻撃しなければ天罰てき面になることはない。それゆえに、ボーイフレンドができたら撮影しておいてもいいかな、と彼女は考えている。未来の彼氏には南無三なむさんという言葉を贈るとしよう。



 §   §   §



24.9 プロゲーマーVS女子高生 試合模様その四 プロゲーマー側


 ゲーマーは激しく苦悶くもんし、かつ混乱していた。精神錯乱の一歩手前と言っていいほどに。


 臆を超えるお金を投資して収集してきたトレカをまとめて失いかけた、いや、実際に一度失ったのだ。


 取り戻せたとはいえ、SSRカード2枚を消費し、わずか数分間で二千万以上の損失を招いているのだから、発狂してもおかしくない。特にSSRカードコレクターにとって、これほどまでに悔しいことは無いだろう。


 そして理解不能な出来事。


 自分が繰り出したはずの攻撃が、ことごとく自分自身に降りかかってくる。何か裏がある。女子高生に何かしらの秘密がある。そうとしか考えられないが、それがいったい何なのか、皆目見当がつかない。


(クソッ、クソッ、いったいどうすればいい……。あいつは何かを仕掛けている。攻撃手段なのか、防御魔法なのかもわからんぞ! クソッ!

 グッ、もし攻撃を仕掛けているなら『五分間絶対防御カード』で様子を見るか? いや、攻撃かどうかもわかんねぇのに、もったいねぇ、クッソ、これ以上無駄打ちできるかぁ! チクショウ!

 アレだァ! ぜってぇアレだぜぇ!

 試合開始直後のカシャリ音! アレしかねぇ! アレはオレを撮った以外考えられん! その後は知らんぷりでフラフラ歩きやがって、このオレ様をここまでコケにしてぇぇぇ! クッソォォォォォォ~)


 ゲーマーは完全に錯乱状態に陥っていた。


「チックショォォォ! ぜってぇぇ、許さねぇ!!」


 絶叫し、プチッと何かが切れる音。


 ゲーマーは半狂乱となって、女子高生に向け走り出した。鬼の形相で駆け寄る。


「きゃぁぁぁぁぁぁー!」


 余裕の態度を示していた女子高生も、鬼気迫る勢いで距離を縮めてくる彼の姿を目の当たりにし、悲鳴を上げた。


「怖い! こっち来ないで!」


「そのスマホ寄越せ! ぶっ壊してやる!」


 女子高生に飛び掛かるゲーマー。


 恐怖心で体が硬直し逃げられないのか、彼女は避けようともしない。


 飛び掛かったゲーマーが足をもつらせ、豪快に転倒した。顔面を床にしこたま打ち付け、鼻血が垂れる。痛みも意に介さず、すぐさま起き上がって、もう一度飛び掛かった。


 しかし案の定、彼女に触れる直前にスッコーンと小気味よくズッコケるのだ。その見事な転倒ぶりは、ウケを狙ってやっていると思われても仕方ない。


 その後も、3度、4度と女子高生につかみかかるが、1度も達成できなかった。


 幾度も膝を床に打ち付け、ジーンズが破けて血まみれとなっている。激痛であるにもかかわらずゲーマーは立ち上がり、1枚のカードをポケットから取り出す。


「グゾォォォ、意地でも勝つジョ……。チュ、使ってやるよぉ、『勝利確定カード』! 1枚一千万ニャ足りニェゾ……」


 ゼェゼェと息絶え絶えに宣言するゲーマー。


 唖然とも恐怖とも驚愕きょうがくともとれる女子高生の複雑な表情。


「キョれで、オレザマの、キャ、勝ちだぁぁぁぁぁぁ!」


『勝利確定カード』を床に叩きつけた!



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