第二十二章 妖精VS謎の玉 その4
22.10 妖精VS謎の玉 試合模様その四 妖精側
「はぁーい、リリィの復活ですわぁ~! お待たせですわぁ~」
「こっちも、リリィですわぁ~」
「パパ、ママ、あいつをやっちゃって、ですわぁ~」
「リリィ、もう、許さない、ですわぁ~」
「あ~、こんなにたくさんリリィの仲間が! 嬉しいですわぁ~」
新しく誕生したフェアリーリリィの複製は、フェアリーリリィ本人そのものだ。花の妖精は植物に宿る生命エネルギーが具現化した姿であり、植物界の象徴として誕生した存在であることから、世界から完全に消滅するとは考えにくい。
本来であれば、妖精は1体だけ存在していればいいのだが、リリモンの過剰な増殖によって起きてしまった偶然の産物なのだろう。
同じしゃべりをする人物が10人以上も1箇所に集結すると、少し煩くも感じられるが、本人たちはいっこうに気にしない。
機械合成獣を取り囲むように際限のない乱闘が再開されている。
マシュモンが振り撒くカビ菌が周囲に充満し、空気が黄色く濁っている。が、どうやらそのカビ菌は機械合成獣に害を与えていない様子だ。
そして、パンプモンが近寄って口から金属腐食液を吐き出す。
サークルシールドでガードする機械合成獣、続けて右手のパンチでパンプモンを殴り潰した。あっさりと潰されたパンプモンの体から金属腐食液が飛び散り、殴った右手の拳に付着する。
すると、シューシューと音を立てて、機械合成獣の右拳が腐食し溶かされていく。腕をまるごと喪失させるほどの勢いではないが、拳全体が焼けただれたようになった。
「いい気味ですわぁ~」
「チャンスですわぁ~、パンプモン、ロズモン、みんなやっちゃって、ですわぁ~」
フラモンがそばにいたパンプモンを持ち上げると機械合成獣に向けて投げつけた。そのひょうたん状の胴体をロズモンが棘鞭を叩きつけてグシャっと破砕する。
同じやり方で次々と破壊されるパンプモンの体から大量の金属腐食液が飛び散り、機械合成獣に降り注いだ。
仲間が犠牲になることを厭わない連携技。
全身が焼けただれていく機械合成獣。ライオンの表情が崩れ、悲鳴ともとれる雄叫びを上げた。
そこへ、ダメージを負った金属の表面に追い打ちをかけるべく、ロズモンが棘鞭をビュンビュン振り回し猛攻する。合間を縫うようにドリアモンの自爆特攻とハエトリモンの咬み付き攻撃。
植物モンスター軍団は明らかに機械合成獣を追い詰めている。
すると、機械合成獣がボール形態に変形し始めた。その場から離脱を試みている。が、ボール形態へと変形できない。金属の損傷が激しいため、変形を阻害されているようだ。
「逃がしません、ですわぁ~」
§ § §
22.11 妖精VS謎の玉 観戦模様その五 アラトの部屋
《これは、拷問のような波状攻撃! さすがにビーストも堪らないぞ! もはや打つ手なしかぁ!?》
しばらく体を丸めて耐え忍ぶ機械合成獣。むしろ、力を溜めているように見えなくもない。
それからいったん天を仰いで大きく息を吸い込んだような動作、続けて、周囲に向け大口を開けて激しく咆哮した。
すると、咆哮している口から真っ白いガスを吹き出し始める。それはまるで、消火器から勢いよく噴射される白い消火剤のようだ。咆哮が止んでも、白いブレスを吐き出し続ける。
周囲をくまなく白い息で吹きつけると、機械合成獣を取り囲んでいた植物モンスターが次々に凍っていくのが視認できた。
間違いなく凍結ブレスだ。
《固唾を飲んでいる観戦者諸君、運営から新情報だ! 見てのとおりこのビースト、口から凍結ガスを発射できるぞ! しかも超強力。この凍結ガスは、噴射後もどんどん凍結範囲を広げていく性質があるぜ。
凍結範囲は2km四方に広がり続け、全てを氷で埋め尽くす地獄の雪化粧と化す。世にも恐ろしい必殺奥義!》
機械合成獣がブレスを止めても、白く濁った霧が辺りに充満し広がっていった。緑で埋め尽くしている会場を、今度は真っ白い氷の結晶が覆い尽くしていく。凍てつく氷はピキピキと音を立てて会場一面を蹂躙する。植物にそれを止める手立ては存在しない。
§ § §
22.12 妖精VS謎の玉 試合模様その五 妖精側
「あぁ、なんですかこれわぁ~、怖いですわぁ~」
「いやだ、死んじゃう。リリィも、パパも、ママも……」
「白い悪魔! いや、いや、来ないで!」
「あぁ、みんなが死んでいく……。命の存在しない世界が広がっていく……」
宙を舞う妖精が次々に白いガスに巻き込まれ、命を落としていく。
巨木モンスターすらも凍らせ、根元から砕け落ち崩壊していく。あらゆる植物モンスターが枯れ果て塵と化す。わずかな緑の破片も残さない、かすかな命の灯も許さない。
この奥義が街中で使われたなら、街ごと全ての生命を奪い去る真っ白い景色、時が静止する無慈悲な世界へと変貌させることだろう。
風のない閉鎖空間では地獄の冷気は地表に留まり、地上10mを超えると冷気の影響はないようだ。生き残っていた妖精は、なんとか命をつなごうと必死に羽ばたくが、その高さに届かず命を落とす。
ついに、花の妖精フェアリーリリィが最後の一人となってしまった。
「ゴメンなさい、ですわぁ、ライオンさん」
機械合成獣は左手のサークルシールドを背負った。そして焼けただれボロボロとなっている両手を伸ばし、妖精を優しく包んだ。その獣の瞳は悲しげだ。
機械合成獣が言葉を理解するのかどうかもわからない。それでも、リリィはライオン顔のロボットに最後の言葉を残す。
「どうか、お願いです。リリィの種子をどこかに蒔いてください。そうすれば、いつかきっと……」
妖精は種子を数粒、片手に握っていた。種子が凍りつく前に機械合成獣に手渡す。頭部が凍りつく直前、微笑みをライオンに向けた。そして全身が凍結し、絶命する妖精。
ライオンは手に平に乗っている種子を見つめ、優しく握り締めた。彼女の意図を汲んでくれたのかもしれない。
彼女の意図、それは仲直りして友達になってほしいという気持ちだったのかもしれない。……神のみぞ知る。
機械生命体クーゲルビースト、第二回戦進出!
§ § §
22.13 花の妖精フェアリーリリィ&植物モンスターガイアナ
『花の妖精フェアリーリリィ』は、身長20cmの小さな体と蝶の羽が大きな特徴であるため『蝶の妖精』と誤解されやすいが、花の妖精である。
彼女は、植物に宿る生命エネルギーが具現化した姿だ。従って、死して消滅するという概念はない。その肉体が粉微塵になったとしても、必ずどこかで復活する絶対的な存在なのだ。
そのファンタジックな存在は、異世界からやって来た。
参戦目的は、純粋に植物界を繁栄させたいという想いがあるだけのことで、何かを支配しようなどという悪意はいっさい無い。
植物を代表する存在であるがゆえ、種子を蒔くことで植物モンスターを制限なく生み出すことができるのが最大の強み。その総称がガイアナ。
ガイアナにはダダモン、リリモンを始め、さまざまな種が存在する。肺呼吸する生物を窒息死させたり、金属を腐食させたりする能力があるので、あらゆる敵と戦闘が可能だ。
見た目のかわいさから、いつも周囲からお姫様扱いを受ける。少しわがままな印象だが、それも愛嬌ということで許してあげてほしい。
【ポイント評価のお願い】
数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。
どうも有難うございました。