第二十二章 妖精VS謎の玉 その3
22.7 妖精VS謎の玉 観戦模様その三 アラトの部屋
《多勢に無勢、これはビーストが圧倒的に不利と思いきや、なかなかどうして、強い、強い! 今のところ、ビースト側にダメージは無さそうだぜ!
そして、リリィちゃんが怒ってるぞ! 怒ったリリィちゃんもかわゆい!》
「解説者が実況中継で偏見はいかがなものかと思いますが、その点どう思われますか? アラトさん」
「前にさぁ、『カッコよければ全てオッケー!』っていうのが世の中の常識だって語ってた人がいましたが」
「それは正論ですわね。お勉強になります」
「自ら口にしたセリフにもかかわらず、あくまでもシラを切るその図々しさ、感服いたします。
てことは、『かわいければ全てオッケー!』もまた真なり、と考えてもいいんですよね?」
「それは大問題ですわ。
日本国憲法の本文に『カッコよければ全てオッケーだけど、かわいければ全てオッケーということにはならない』と追記するように国会を操作しましょう」
「超絶美人の先輩が言うなら、間違いないですね」
「訂正します。『カッコよければ全てオッケーだけど、かわいければ全てオッケーということにはならないが、超絶美人の先輩だけは全てオッケー』と本文に追記いたしましょう」
「さ、さすがは世紀末覇者……、自己チュー根性まっしぐら。もう、なんでもアリですね……。お勉強になります」
《おっと、巨木モンスターの口から新たなモンスターが出てきたぞ! カボチャのモンスターとキノコのモンスターだ! え~と、手元にある資料だと、カボチャモンスターは口から金属腐食液を吐き出すらしいぜ。これはビーストやばいんでねぇ?
そしてもう一つのキノコモンスター、こいつが撒き散らすカビ菌は肺をダメにするらしいぜ。カビ菌が機械生命体とやらに影響及ぼすのか、こちとらわかんねぇが。
人間が対峙してたら、相当やばかったんじゃねぇ?》
「アラトさん、良かったですね。あんなのと対戦してたら、今頃アラトさんの葬式でしたわ」
「うっ、たしかに……。肺がダメになるなら、超人とかでもやばかったかもしれんよねぇ」
「はい。その可能性も否めません」
§ § §
22.8 妖精VS謎の玉 試合模様その三 妖精側
機械合成獣がハエトリモン、ドリアモンと乱闘している隙に、新たに生み出されたパンプモンとマシュモンがゆっくりと近づいていく。
さらにガイアナの母リリモンが蒔く種子から、大量のフラモンとロズモンが生み出され、育っては機械合成獣に向かっていく。
ハエトリモン、ドリアモン、フラモン、ロズモンが入り乱れ、いくら倒されようとも、止めどなく攻撃し続けている。
「とってもいいですわぁ~、どんどん攻撃して追い詰めるのですわぁ~」
突如、ボール形態に変形する機械合成獣、際限のない襲撃から逃れようとしているのか、乱闘エリアから抜け出した。
そして乱闘エリアから、距離をとって指示をしていた妖精に急接近。
「きゃ~、パパ、ママ、助けてですわぁ~! あいつが襲ってくるぅ~、ですわぁ!」
§ § §
22.9 妖精VS謎の玉 観戦模様その四 アラトの部屋
《な、なるほど。リリィちゃんの無限増殖戦法から抜け出したいビースト。となれば、本体のリリィちゃんを倒せば勝ちと踏んだのか!》
テレオの言葉どおりだった。機械合成獣はボール形態で妖精に辿り着くと、ビースト形態に変形。そして——
《な、なんてこった、止めてくれビーストォ! それだけは!》
テレオの絶叫がモニターのステレオから響き渡る。当然、闘技場にいる出場選手の耳には届かない。
機械合成獣が軽くジャンプすると、あっさりヒラヒラと舞う妖精に手が届く。グルズリーの両手で妖精を挟み込みつつ、パァン、と叩いた。容赦のない一撃。
《ウワァァァァァァー! ありえない、そんな非道すぎる……そこまでしなくても……》
うっ。ズルッ……。う、うっ。ズルッ。ひぐっ……。
アラトは鼻をすすり嗚咽しながら大粒の涙を流していた。
「しょんなぁ……。きゃわいそしゅぎりゅよぉぉぉ……」
言葉にならない声で。クシャクシャの顔で。子どものように。
ギリコは無言でアラトを見つめている。
ソッとハンカチを手渡した。
「ありがと……、ギリコ」
テレオの解説も急に静かになった。
女王のような存在であるはずの妖精が粉砕された。
これで機械合成獣クーゲルビーストの勝利のはずである。 が、しかし、試合終了の放送は無い。
そしてなにより、会場を埋め尽くす植物モンスターの群れが動きを止めるでなく、機械合成獣に向けて駆け出していた。
モニター内では、植物モンスターと機械合成獣の大乱闘が再開されている。
会場内のあるものにふと気づいた。
今や直径500mの会場全面を草木が埋め尽くしているが、ところどころで何かが宙を舞っている。しかもたくさん。
モニターに映るその影が小さすぎてわかりにくいが、不規則に舞うその姿は彼女に似ている。いや、そのものだ。
《マママ、マジッスか!》「マママ、マジッスか!」
テレオとアラトのセリフが被った。
《なんと、間違いありません! リリィちゃん復活です! これはいったいどういうことなのかぁ?》
カメラが植物モンスター『ガイアナ』の母リリモン1匹を捉えた。
リリモンの頭に咲く一輪の花がモゾモゾと動き出すと、風に乗って花ビラが舞い散る。そして散った花の下には、小さくうずくまっている小さな少女がいた。少女が起き上がるとアゲハ蝶の羽が広がる。紛れもない、花の妖精フェアリーリリィの姿がそこにあった。
リリィが宙へ舞い上がると、役目を終えた母なるリリモンが倒れ、息絶えた。こうして新たに生を受けたフェアリーリリィの生まれ変わりは複製のごとく、当人とまったく同じ姿で宙を飛び交っている。
その妖精は1体のみならず、10体以上が新しく誕生していた。
《あぁ、神様ありがとうぉ! リリィちゃんが見事復活したぜ! しかも、あんなにたくさん! う、嬉しいッス》
アラトも泣き声で、えがった、えがった、と呟いている。
機械合成獣サイドからすればフリダシに戻ってしまい、溜息ものであるだろうが。
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