第一章 デス・ストーリーは突然に その6
1.3 多元宇宙統一最強決定大会 前編
「新人さんには、我社が開発した戦闘兵器を装備して、『多元宇宙統一最強決定大会』に出場していただきます」
「ふむふむ」
「それだけです。いたって簡単なことです」
「それって何ですか?」
「説明したほうがいいですか?」
「もちろんですよ!」
「『多元宇宙統一最強決定大会』というのは……」
急に、説明を止める義理子先輩。
「ん? 先輩? 死んだふりですか? ここまできて。先輩?」
わざとなのかわからないが、急に壊れたように静止する先輩。瞬きもしていない。呼吸音すら止まったような気がする。しばらく待ってみるが、いっこうに動く様子がない。
水着姿の女性に触れるのはマズいかなとアラトは思ったが、仕方ないので立ち上がって先輩の両肩を揺らした。
「壊れた? 先輩、壊れました? もしかして僕があまりにも子供っぽいから、魂抜けちゃいましたか? そんなわけ……」
急に目をパチクリとし、どうやら魂が戻ってきたらしい。
アラトは少しばかり安堵の表情を浮かべ、ソファーに座り直す。
「すみません、新人さん。ちょっとフリーズを。いえ、気にしないでください。少し考え事をしていただけです」
「はぁ」
「『多元宇宙統一最強決定大会』というのは、取りあえず戦って勝てばいいのです」
「想像の遥か上をいく究極のブラック企業ですね」
「そんなことありませんわ、超余裕ですので」
「超余裕とは?」
「メッチャ余裕という意味です」
「そこは理解してます!」
一瞬、拳を振り上げそうになるが、グッとこらえるアラト。
「超余裕である理由を述べろと発言しているわけですね。わかりました。我社の戦闘兵器は最強です。どんな敵でも殲滅できます。ご安心ください」
「いや、全然ご安心できません、先輩! もっと情報を!」
「仕方ありません。この手は使いたくなかったのですが」
急にアラトの心臓がドキドキし始めた。先輩がアラトをジッと見つめたまま話を続ける。
「わたくしがこの場で新人さんのお願い事を一つなんでもききますから、今日のところはそれで許してください」
アラトは一瞬硬直した。そしてパァ~と明るい笑顔が灯る。何かとんでもなくステキな出来事がこれから起こるのではないかと。
(キタァァァ~~~! その、その、その、その水着姿で、そんなこと言っていいんスか? ねぇねぇ、超絶美人先輩!)
アラトは超絶期待した。狼狽ぶりを隠しつつ平静を装う。
「ゴホン、仕方ないですね、先輩。そういうことでしたら、仕方ありませんから、他に選択肢もありませんし、ゴホン、え~と」
「前言撤回します。きっちり説明しますので、ご容赦ください」
「はやっ!」
と、アラトの素早い突っ込みと、無表情に頭を下げる先輩の動作が重なった。
ここまできてなんだが、義理子先輩が淡々と話を続けてしまったので、仕方なく説明を要約する。こんな感じだ。
なにやら秘密兵器を開発しているので、そのなんたら最強決定大会に出場して5連勝すればいいとのこと。『者』なのか『物』なのか言葉を濁すのでよくわからんが、いろんなのが出場するけど、義理子先輩がしっかりサポートするので絶対大丈夫だというのだ。
最後に『大丈夫だけに……、テヘッ』と彼女が付け加えたが、あまりにもしらじらしく棒読みだったので、次回は『テヘッ』の部分がもっともっとかわいらしく演じられるよう指導していこう、と心に誓うアラトだった。
そして諸々の事情を解釈すると最終的にこうなる。
わたくしこと、尾暮新人は、本日採用された新入社員であり、戦闘経験ゼロ、ゲームでいうところの村人Aレベルゼロ、史上最弱戦士として決死の多元宇宙統一最強決定大会に参加することが決まっている。
たぶん、『勝敗について生死を問わない』という言葉が抜けているのでしょうが。
嫌なら10億円支払って逃げることはできるんだそうだ。
一件落着、マル。
(そうか、テストパイロットの意味がようやっとわかった。そこは正しかったということか……。で、アパレル関連て、どういうことやねん!)
ひととおり説明を終えると、義理子先輩は何事もなかったかのように自分の部屋へと戻っていった。
疑問が三つ、と数えるアラト。
一つ、ここはどこ?
二つ、これは夢?
三つ、もう死にたい。
三つ目は疑問でなく、願望だが。
(これって自暴自棄になってもモウマンタイだよね? いいよね?)
アロハシャツのまま、フカフカのベッドへ飛び込む。感触がとても気持ちいい。
「じゃない!」
と叫んで、大きな枕を投げ飛ばす。
「ダメだ、こんなんじゃ! 冷静にいろいろ分析しよう。まずは、何が謎なのかの整理だ」
言いながら、体を起こす。
「まずは、ネット上で新規採用の応募をした瞬間に超絶美人がやって来た。あまりにも対応が早すぎる。
次に、あの『どこにでもあるドア』だ。あれが機能すれば、単純に元の世界に戻れる。マイスウィートホームに。
それから、さっき先輩がビーチに呼びつけたのはなんでだろう? もしかしたら、あえてここが異次元のような場所だと示したかったのかなぁ?
それと、僕の着る服のサイズとか、まるで個人情報が駄々洩れ。
先輩本人は間違いなく事情を全て把握してるよなぁ~。
てことは、彼女の正体を見極めるのが第一歩だよなぁ~。
いいぞ、いいぞ。少しはまともに考えられるようになってきた。
ん~、想像するに、彼女は異星人とか異世界人とかじゃないかなぁ~。
そうすると、今晩、間違いなく人体実験だよねぇ~
なんか、エッチな実験とかあったりして……、な、わけないか」
テヘッ、と顔を赤らめる。
急に真顔に戻り、キョロキョロと周りを見回す。
「ふぅ~、危ない危ない。誰にも独り言を聞かれてないぞと」
さらにグッと拳を握りながら呟く。
「ヨシッ、先輩は異星人または異世界人の線で話を進めよう!
スマホが圏外なのは確認済み。カメラは機能する、オッケー。
ここはひとつ、こちらから攻撃を仕掛ける。まずは先輩の部屋に押し掛けて、こっそり所持品をチェック。異星人または異世界人である証拠を押さえよう。それから……、あとは行き当たりばったりで」
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