第二十二章 妖精VS謎の玉 その1
22.1 第一回戦第十一試合 妖精VS謎の玉 対戦情報
観戦モニターに表示されている対戦情報より。
闘技場について。
本日の闘技場はCタイプ。第三試合と同じ会場。
ドーム型の閉鎖された密閉空間。直径500m、高さ250m。
妖精について。
花の妖精フェアリーリリィ
身長20cm。蝶の羽で飛行。
謎の玉について。
詳細不明。
§ § §
22.2 妖精VS謎の玉 試合開始前 アラトの部屋
《はいはーい、観戦者の皆さん、たいへんお待たしましたぁ~。本日もオラっちこと、テレオ君が解説しまっせ! ヨ・ロ・シ・ク!》
『シアイカイシ、3プンマエ』
《さてさて、本日の出場選手入場だぜぇ! 画面向かって左側が、我らが花の妖精フェアリーリリィちゃん! かわいい、美しい、そして愛おしい!
続きまして、画面右側が、謎の玉!》
ドーム両端の大きなゲートが同時に開き、左側ゲートから妖精が空を舞いながら、右側ゲートからは銀色の玉が地を転がって入場する。
両者とも初期配置を理解しているらしく、100mの距離を維持して停止した。
蝶の羽をバタつかせ、ユラユラと空中で待機する花の妖精フェアリーリリィ。
花の妖精は、植物に宿る生命エネルギーが具現化した姿であり、植物界の象徴として誕生した存在なのだ。その美しさをシンボライズするために、しばしばアゲハ蝶の羽がデザインとして選ばれる。と考えられている。
体長20cm。小人のように小さな少女の背には、上述のとおり、色鮮やかなアゲハ蝶の羽。緑色の髪を片寄せ三つ編みにして右肩に垂らす。
花柄模様が入った白いレオタードに素足。コサージュ系生花造りのヘアーブローチ、ブレスレット、ガーターリングが花の妖精らしさを強調している。
《あぁ、こんなかわいらしい少女が、どうして、どうして、こんな戦いに挑まないといけないのか……狂ってる、この世は根っから狂ってる!》
ゴロゴロと自分の意思で転がりながら入場した謎の玉。
直径5m。それはまるでの巨大なパチンコ玉。表面は艶々の銀色で、鏡のように光を反射させている。その光沢具合は自ら真球——寸分の狂いもない完全な球体——だと誇示しているかのごとく目に映る。
《一方の謎の玉。いったいなんなんスかねぇ? 摩訶不思議な物体……。謎ッス》
モニター画面に収まる両者の姿。静かな空間内で微かに羽音を立てる妖精と微動だにしない真ん丸な金属の塊。
《これからホントに死闘が始まるんスかねぇ~。この両者の対峙はまさしく——》
「シュール!」《シュール!》
アラトとテレオの声がハモる。
ギリコがアラトの顔を見る。何か言いたげだが、無言でモニターに視線を戻した。
『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』
§ § §
22.3 妖精VS謎の玉 観戦模様その一 アラトの部屋
『……3、2、1、ゼロ』
《さぁ、試合開始だぁ! どう戦うのか、魅せてくれ!》
テレオのアナウンスと同時に、銀ボールが動き出す。直径5mの巨大な物体が直撃すれば、体長20cmの少女が無事で済まされるとは思えない。
そんな観戦者の心配をよそに、銀ボールは地べたでグングンと加速している。妖精をひき殺す勢いだが、空は飛べないらしい。
銀ボールがどういう仕組みで推進するのか不明だが、ゆっくり進むときは前後左右自在に転がる。そして、高速移動中はバイクのような突進力がある代わりに、急な方向転換は無理らしい。
一方の妖精、体のサイズ的にアゲハ蝶の羽ではたいしたスピードも出せない。その動きから、低空飛行で高い位置まで舞い上がれそうもない様子、高度10mに届くかどうか。
妖精はヒラヒラと不安定に宙を舞い、銀ボールの突進をなんとか躱している。
《視聴者男性陣の皆様は、固唾を飲んで美少女の無事を祈っていることでしょう! ムムム、よく見るとリリィちゃん、片手に小さな袋を提げてるぞ。袋から何か粒状のものを取り出してばら撒いている? そんな様子ッスねぇ~》
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