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第二十一章 優勝報酬と新任務 その2

21.2 ギリコの新任務


 その日の夕方、アラトの抱いていたモヤモヤ感は意外にもあっさりと解決することになった。


 ギリコを放置したままジョギングに出かけたが、部屋に戻ると彼女がアラトの帰りを待っていた。


「あれっ? ギリコ、まだ部屋にいたんだ。もういないかと思ってた」


「はい。一度部屋に戻ったのですが、本社より新たな業務指示を受けましたので、早速、部下であるアラトさんにもその説明に参りました」


「へっ? 僕の新入社員設定はまだ続いているんだ?」


「もちろんです。今月には初任給ちゃんと出ますので。お忘れですか、試用期間中の途中退職は契約違反となり……」


「違約金10億円! はい! わかってます! ってか、給料ちゃんと出るんだ! ワーイ!」


 アラトは手放しで喜んだ。


「で、その新しい仕事って何さ? もう死んじゃうような大会出るだけで十分鬼畜じゃんか! これ以上何をしろと?」


「はい。基本的にわたくしの単独業務となりますが、部下の支援があると非常に助かります」


「はぁ……。で? どんなこと?」


「はい。女性型アンドロイドであるわたくしが生身の男性であるアラトさんを口説き落とせ、という新任務です」


 アラトはフリーズした。


 義理子先輩がアラトの身体を揺さぶる。なかなかリブートしない。女性型アンドロイドは右手でグーを作り、部下の頭頂部を軽く叩いた。


「なんじゃそりゃ?」


 言いながら頭をさするアラト。


「新任務です」


「わかっとるっちゅーねん! 誰の指示だよ?」


「本社です」


「本社って、ようするにスーパーコンピュータのこと? 東北にあるとかいう?」


「ですからギリコ・コーポレーションの本社です」


「こ、こだわるなぁ~。まぁ、どっちでもいいけど……」


「ご理解いただきありがとうございます」


「でもそれって、最初からそういう任務じゃなかったの?」


「よくぞ聞いてくれました。なんと社長の人遣いの荒いこと。わたくし、こんなにも会社に心血注ぎ、魂をすり減らして……」


「ちょっと待ったぁ!」


 超絶美人アンドロイドが無表情に棒読みのセリフは吐きながら涙を拭き取る仕草をするので、アラトは途中で彼女を止めた。


「演技は不要です」


「かしこまりました」


 一礼して超絶美人アンドロイドが素に戻った。よく見ると、右手に目薬が握られている。フェイク涙かぁーい!


「最初の任務は、我社開発の戦闘兵器を装備して『多元宇宙統一最強決定大会』に出場してくれる人物を探し出すだけのことでした」


「ふむふむ」


「ですが、いくら手を尽くそうとも出場者を誰一人として発掘することができません。そのため途中からどんな手を使ってでも出場から逃れられないように罠にめ、強制的に出場させよ! という指令に変わったのです」


「もう、犯罪だよね」


「世界征服者ですから、犯罪として立件されることはありません」


「その解説いらない」


「今回、アラトさんを罠にめ、出場するところまで追い込んだわけですが、本人が優勝を目指さなかった場合、我社の戦闘兵器の正当な性能評価が困難になってしまいます」


「途中で逃げ出したら困る、死ぬ気で戦わないと兵器の真の性能を引き出せない、だから本気になるようにれさせろ、ということっスね」


「さすがはわたくしの惚れ込んだアラト様ですわ。好きです。結婚してください」


 超絶美人アンドロイドはアラトの両手を握り、最高品質の営業スマイルでのたまった。


 アラトは全身全霊で脱力した。さっきまで悩んでいたのがバカバカしい。


(ロボットに恋? アホくさ)



 §   §   §



21.3 大会十一日目の朝 アラトの部屋


 昨日の馬鹿らしいやりとりから一晩。


 昨晩は、考えておくから、とかかんとか適当にごまかして、彼女にはお帰りいただいた。もう考えること自体、馬鹿らしい。


 今朝はベッドの中でウトウト、アンニュイな気分で朝寝坊している。


 いつもは8時半というのが訪問の定刻だが、今朝は7時半にギリコがやってきた。


「アラトさん、おはようございます」


「ん……」


 ベッドで寝入っているアラトの顔を、ギリコがのぞき込んだ。


「アラトさん、おはようございます」


「お、はよう……」


「気持ちのいい朝ですよ、アラトさん! さぁ、起きちゃいましょう!」


「はいはい……」


 そのままベッドの中でモゾモゾとのんびり過ごす。


「アラトさん、どうぞ。いつものモーニングセットが届きました」


 両目を開けると、目の前に食事用のミニテーブル——ベッドの上で上半身だけ起こし食事ができるタイプ——がセッティングされ、毎朝注文するホテルのモーニングセットが置かれていた。


 どうやら彼女なりの口説きモードが発動しているらしい。


「へぇ~、考えるね」


 アラトは上半身を起こし、コーヒーをひとくちすする。


「ごめん、ギリコ。取りあえず顔洗ってから食べたい。そっちのテーブルに移してもらえる?」


「かしこまりました」


 義理子先輩は素直に従った。


 その後、ダイニングテーブルで朝食を済ませたアラトの脇にギリコが立つ。


「コーヒー2杯目いかがですか、アラトさん」


「ありがとう、もらうよ。ところでギリコ、今日の対戦内容知ってる?」


「謎です」


「はっ?」


「謎なんです」


「だから、どゆこと?」


「『妖精対謎の玉』って書いてあります」


「なるほど、ホント、イミフだねぇ~」


「はい」


「まぁ、観戦すりゃ、わかるっしょ」


「それでしたら、アラトさんが嫌がっているあの耳障みみざわりな解説をオンにしませんか?」


「そうだね、そうしよう。いっつもうるさすぎてついオフにしちゃうけど、解説ほしいね」


「ではオンに切り替えますね、アラトさん」


「オッケー!」


 昨日のギリコとの会話から想像できないほど、不思議と二人のやりとりは穏やかだ。


(ヤバイ……、素直で献身的な先輩がかわいい……)



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 数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。

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