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第十九章 交代要員登場

19.1 交代要員登場


 第一回戦第九試合が終わった。


 試合内容はほとんど頭に残らなかった。


 アラトはずっと満足に食事をとっていないにもかかわらず、食べる気がしない。


 静寂の中、豪華なホテルの部屋に独りでたたずんでいるという実感が沸く。急に、猛烈な不安感が滝のようにアラトを襲った。


「うぅぅぅ……、ギリコごめんよぉぉぉ……、許して、許してくれぇぇぇ……」


 アラトは怖くて寂しくて仕方なかった。


 自分のアパートに帰りたいという気持ちが強かったが、それ以上に人恋しかった。誰でもいいから話し相手がほしい、誰かに慰めてほしい、そしてギリコの顔を見たかった。ギリコとつまらないことをしゃべって、笑いたかった。



 ◆   ◆   ◆



 その日の真っ昼間。


 突如、アラトの部屋の静寂を破る音。


 ピンポ~ン。


「ギリコ? ホントにギリコ?」


 このホテルでアラトの部屋に訪問してくるのは、ギリコと食事を注文したらやって来る配膳ロボだけだ。アラトは今朝から何も注文していない。


 アラトは何も食べてないせいで、体が重たかった。なぜか、声もかれがれになっている。


「ギリコ、ギリコなのか」


 誰かがアラトの部屋のドアを勝手に開ける。


 姿を見せたのは、あのトレードマークとなっているいつもの上下赤のビジネススーツ、スラッと伸びた美脚、見惚れるほどの超絶美人、まぎれもなくギリコだった。


「ギリコォ~」


 病人のようにヨレヨレとなっているアラトは、フラフラしながらも力を振り絞って、ギリコのもとへと駆け寄った。


「ギリコ、ギリコ、許してくれぇ、悪ふざけしたこと、許してくれ!」


「アラトさん、大丈夫ですか? ボロボロですよ。それにわたくし、もう怒ったりしていませんわ」


 アラトは躊躇ちゅうちょなくギリコに抱きつき、そのまま力一杯抱き締めた。


「あら、あら、アラトさん、しっかりしてください」


 ギリコは薄っすらと優しい笑顔を見せ、泣いているかのように声を漏らすアラトの頭をヨシヨシと撫でた。


「朗報です、アラトさん! もう出場しなくても大丈夫です!」


「えっ?」


 アラトは抱擁を中断し、ギリコの顔を見る。


「どゆこと?」


 アラトは、ふと、ドアが開きっぱなしであることに気づき、ギリコの後方に視線を投げる。すると、そこには一人の大柄な男が黙って立っていた。


 黙って、というのは少し異なる。その大柄な男は、ハンバーガーをモシャモシャと大口を開けて食べている。垂れ下がった逆の手には、二つ目の開封されていないハンバーガーが握られていた。


「え~と、誰、この人?」


 見知らぬ男の態度から、急に警戒感がにじみだすアラト。


「はい。アラトさんに代わる新しい出場者、ニクオさんです。ですので、ご安心ください」


「肉夫? な、な、な、なんだよ、それ! 僕、出るの止めるって言ってないじゃん!」


「はい。ですが、アラトさん、あんなに嫌がってたじゃないですか。それに、わたくしを殺そうとしましたし」


 アラトが無意識に部屋の奥へと後退するので、ギリコも釣られるように奥へと足を進める。


「あれはホントに冗談だったんだよ! わかるよね、人の心読めるし」


「はい。あわよくばという感情が、アラトさんの奥底に20%程度ありました」


「わかった、反省する! もう、ギリコにあんなことしません! 二度としません! だから、許して、ねぇ、ギリコォ……」


 大柄な男はドアのそばから一歩も動かず、ジッとこちらを見ている。見ているというより、視線はこちらに向けているが、心ここにあらずといった様子だ。まるでロボットのようにモシャモシャと咀嚼そしゃくし、それが唯一の彼の可動域に見えてしまう。


 大男の体型はハンバーガーをそのまま人間サイズに巨大化させたような姿で、共食いの印象を与える。よく見ると、すでに二つ目のハンバーガーを食べ始めていた。


「ちょっと、ちょっと、ギリコ! ダ、ダメだよ、こんなハンバーガーがハンバーガー共食いしてるようなおっさんに、我社の社運を賭けちゃ!」


「アラトさん、本人目の前にいますから、あまり失礼なことは……」


 アラトは、急にガシッとギリコの両肩をつかみ、ギリコの頭を揺らしながら即興の持論を展開した。


「失礼なもんか! 人が一生懸命前向きにプロジェクトに取り組んでいるのに、どっからともなく現れて、人の仕事横取りして、高笑いしながら美人上司にちょっかい出すとか、絶対、こいつ犯罪者ですよ! ダメです! 義理子先輩は、一番部下のこの僕が守ります!」


「アラトさん、何一つ当たっていません」


「いーえ! 僕がやると言ったら、最後までやり通すんだぁぁぁ!」


 アラトは、ギリコの背後に回り込み、ギリコとニクオの中間に立って、ニクオを指差しながら熱弁を振るう。


「だいたい、こいつ、パワードジャケット着れんでしょ! こんな肥満超人ザ・ハンバーガーマンなんかに!」


「誰も超人だとは言っていませんが。わかりました、アラトさん。仕方ありません」


 やや芝居がかって溜息を漏らすギリコ。ニクオに向けひとことだけ伝える。


「ニクオさん、申し訳ありませんが、部屋の外で待っていただけませんか」


 ニクオは、無言のまま部屋の外へと出ていった。


 アラトが慌ててドアを閉じる。


「アラトさんの気持ちはよくわかりました」


 アラトは心配そうな面持ちでギリコを見つめた。


「アラトさんがそこまでおっしゃるなら、我社の社運はアラトさんに賭けようと思います。ただし、絶対に途中で投げ出さないと、この場で約束してください」


「約束する、いえ、約束します!」


 と、急にギリコの前で敬礼するアラト。


言質げんちいただきました。ありがとうございます。アラトさん、一緒に頑張りましょう!」


 口がヘの字だったギリコの唇が、急に口角を上げニコッと笑った。


「うわ~ん、ギリコォォォ~」


 と、再び抱きつこうとしたが、ギリコが片手をつっかい棒のように前に伸ばし、アラトの胸に手を押しつける。アラトがそれ以上近づけないように。


「ギリコォ、ギリコォ」


 アラトがつっかい棒も何のそので突進を続けるので、ギリコがしかる。


「アラトさん、ご褒美ほうびがほしければ、第一回戦をまず突破してください!」


「了解!」


 気をつけ、と直立不動の姿勢になり敬礼するアラト。


「わかればよろしいぃ!」


 と、明るく微笑むギリコだった。



 §   §   §



19.2 ニクオの真実


 その日の夕暮れ、ギリコとニクオは、庭園の隅っこにいた。


 ニクオに礼を述べ、頭を下げるギリコ。


「ありがとうございます、ニクオさん」


「じゃ、約束どおり100万円ボクの口座に送金ね。それからSSS級入手困難フィギュア10品、手配よろしく!」


「はい。かしこまりました」


「ボクの名前、肉夫じゃなくて邦夫だけどね。どうでもいいよね」


「はい。もう二度と会うことはないでしょう」


「じゃ」


 と言って、どこかへと転送され姿を消した。


 ひと仕事終えたかのように満足顔のギリコ。


「アラトさん、期待しています。がんばってください」


 と、独り言を言いつつ、ギリコはホテルへと歩き出した。



 §   §   §



19.3 大会十日目の朝 アラトの部屋


 翌朝、ギリコがアラトの部屋に訪れた。


「義理子せんぱ~い、おはようございます!」


 アラトは朝からルンルンだ。


 二日連続でギリコと一緒に観戦できなかった寂しさの反動で、今日の観戦が嬉しい。


「おはようございます、アラトさん。朝から機嫌がいいですね」


 ニコニコ顔のアラト。


「先輩! コーヒー飲みます?」


「わたくしは飲食を必要としていません」


「じゃ、サンドイッチ食べます?」


「繰り返しますが、わたくしは飲食を必要としていません」


「まぁまぁ、そう遠慮せず!」


 ソファーに座った義理子先輩の口元までサンドイッチを差し出した。


 義理子先輩は呆れ顔をしてアラトを見る。


「だが断る!」


 アラトの冗談に付き合ってくれる様子もないので、アラトはシュンとしてソファーに座り込み、手にしていたサンドイッチを頬張りながら正常モードに切り替えた。


「えーと、今日の対戦は……っと」


 対戦表を手に取り確認するアラト。


「魔導剣士ミラージュ対クロスフィンガー教祖だって。教祖って戦えるのかなぁ~、ねぇ、ギリコ?」


「はい。カルト教の一種でしたら、悪魔の召喚とか、悪霊たくさん飼っているとか、酒池肉林でもてなすとかではないでしょうか」


「コ、コホン。さ、最後の選択肢いいですね……。ぼ、僕もあやかりたいなぁ」


「大丈夫ですよ、アラトさん。その可能性は限りなく低いですので。しかもアラトさんが対峙した場合は、わたくしが酒池肉林を全て焼き払ってさしあげますので、ご安心ください」


「そ、そうですか……。それはなんというか、残念というか……台無しというか……、ごにょごにょ……」


「さぁ、アラトさん。試合始まりますよ。どんな試合か楽しみですね」


「はい……」



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