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第一章 デス・ストーリーは突然に その5

1.2 謎のリゾートホテル 後編


「結婚してください!!」


 アラトは彼女に向き直った瞬間、突拍子もないプロポーズをかましてしまった。ほとんど無意識に発した言葉だった。ズギューンとアラトのハートを撃ち抜き、理性が完全に吹っ飛んだとしか説明がつかない。


 挑発的なポーズをしていた超絶美人先輩も、表情一つ変えずゆっくり素のポーズへと移行する。快晴の空の下、両者が向き合ったまま静止した。


 アラト自身、条件反射のように突然発してしまった冗談のようなセリフに思考が追いついていない。しかし……。


(…………。あれ…………。もしかして僕、やらかしちゃいました……?)


 やがて冷静な感情が芽生え始め、正常な思考を取り戻すアラト。顔から火が出るほど恥ずかしくなってきた。


(こここ、これってもしかしてセクハラ? いやいや待て。このまんま結婚しちゃえば問題にならないよね……。たぶん……。)


 何か言い訳を述べようとするが、口がパクパク動くだけで言葉が出てこない。


 一方の超絶美人先輩は無言でピクリともしない。よくよく観察すると、瞬きすらしていないように見える。視線はむしろ遠くを見ているか、あるいは焦点が合っていないように見えなくもない。


(メッチャ考えてる? もしかして本当に結婚してくれるとか? 僕でいいとか? いや、それはない! うぅ~、どうしよう、これ……)


 対処方法がわからなくなってしまったアラトは、義理子先輩が何か言葉を発するまで待つことにした。


 それから3分? いや5分くらい? 体感としては10分くらい待ったかもしれない。とにかく、長いことお互いの沈黙が続いている。


「新人さん」


 パチクリとはっきり瞬きをしたかと思うと、ようやく義理子先輩が反応してくれた。


「婚姻関係を結ぶという可能性について熟考しました結果、さまざまな支障と弊害がございますので、拒否させていただくという結論に至りました。たいへん申し訳ありません」


 と、お辞儀の角度を分度器で計測すれば45度ぴったりだろうと推測できるほど丁重にお断りされてしまった。水着を着た格好でそこまで丁寧にされると、ちょっとシュールに感じるが。


「頭を上げてください、先輩! 僕のほうがふざけたようなことを言ってしまったのに、謝らなくてもいいです。むしろ、僕のほうがたいへん申し訳ありません!」


 と言いつつ、アラトは心底申し訳ないという思いで90度以上腰を折り曲げて謝罪した。


「新人さんはふざけていたのですか? ふざける場合は『ふざけている』と宣言していただかないと判断に困ってしまいます。

『結婚』という行為には、多種多様な副次的事象が幾何級数的に発生します。それら全ての事柄について思考範囲を限定していきませんと、目的達成までのプロセスに非常に長い時間を要してしまいます」


 一瞬絶句するアラト。ホントに何言ってるのかわかりません。とはいえ、悪いのは明らかにアラト側だ。


「す、すみませんでした。以後、気をつけます!」


 ようやく気分を落ち着かせると、現状打破に意識が集中し始める。


(だが、どうする、アラトよ。これって、人生最大のピンチじゃないのか? のほほ~んと、超絶美人にプロポーズしている場合じゃないぞ! マジで!)


 決心したように質問を切り出すアラト。


「え~と、義理子先輩」


「はい、なんでしょう、新人さん」


「誠に言いにくいのですが、これって僕向けのオリエンテーションですよね。今の状況を確認したく、その……」


「そうですか。不安になるのもごもっともです。どうして、新人さんの水着とシャツのサイズが判明したかお答えいたしましょう」


(いや、そうじゃなく、いや、それも気になるか。実際に、ぴったりのサイズだし)


 アラトはなんだか泣きたくなってきた。ただひたすら怖いことに、この謎の状況下でアラトが頼れるのはこの怪しい超絶美人だけなのだ。おっと、妖しい超絶美人と言い換えよう。


「義理子先輩、ここっていったいどこなんですか? 僕はこれから仕事としていったい何をするんですか?」


 今にも泣きそうなか弱い声で質問を切り出す。我ながら情けないとえるアラト。


「わかりました。全てをこれからお伝えしましょう」


「本当ですか?」


「はい。ちなみにですね、新人さん、3か月間の試用期間中に退職願いを提出しますと、契約違反ということで違約金10億円を我社にお支払いいただく流れとなっておりますので、ご注意ください。新人さんは、もう契約書に署名済みですから」


「へっ?」


 アラトはコテッと砂浜に倒れた。まるでギャグネタかのように受け身も取らずにまっすぐ顔面から倒れた。

 すぐにうつ伏せから上半身だけ起こす。鼻血を垂らしながら。


「ウソですよね、ウソだと言ってくれぇ~、そんなの詐欺だぁ~、絶対、詐欺だぁ~」


「わたくし、新人さんをだますつもりなんてまったくありません」


「なんだよぉ~、その心のこもっていない言い訳は~、なんか、もう棒読み出し、信用できないし、なんか天然だし、もう訳わかんないよぉ~」


「ご安心ください、新人さん。解決方法があります」


「えっ、ホントですか? 10億円払わなくてもいいんですか?」


 一瞬わめき散らすのを止め、超絶美人先輩を見上げる。


 すると、先輩は目の前でしゃがみ込んだ。表情一つ変えず。


「はい、退職しなければいいのです」


「だぁぁぁ やっぱり死ぬしかないんだぁ~、どっかに連れ去られて、人体実験の材料にされて、なんかよくわかんないことになって……」


「新人さん、冷静になってください。支離滅裂です」


「支離滅裂どころか、五里霧中で危機一髪だよぉぉぉ~、もう、わけわかんないよぉぉぉ~」


「そうですね、反論できません。ですが、大丈夫です、ご安心ください」


「ホントに? ホントにホントに?」


 アラトはほとんど泣き顔で先輩の顔に近寄せ視線を合わせた。


「はい、大丈夫です。どうしてかですか? わたくしが大丈夫義理子だから」


 もう一度顔面から倒れ、うつ伏せになるアラト。


「新人さん?」


「ワァァァ~、なんだよそれぇ~、ネタかよぉ~、酷いよぉ~、惨いよぉ~、辛いよぉ~」


「暗くも狭くもありません!」


「ワァァァ~、会話が噛み合わないよぉ~」 


 仰向けになりながら手足をバタつかせ、駄々っ子のように喚き散らすアラト。すると超絶美人先輩が溜息を漏らした。


 出会ってからわずか2時間足らず。アラトは思った。初めて人間らしい仕草を見たような気がすると。まるで血も涙もないロボットのようなこの人の。


 彼女の作戦なんだろうか、アラトが落ち着くまで彼女は黙り込んだ。


 アラトもなんだか大人げない態度に気づき、かなり恥ずかしくなってきた。とにかく、落ち着いて彼女の言い訳なり説明なりをきいてから、また判断しようと考える。


「先輩、すみません……。一度冷静になりたいので、僕の部屋で話をしませんか?」


「わかりました。それがいいですね。では、新人さんのオフィスへ参りましょう」


 アラトの提案で、アラトの部屋——どうやらオフィスらしいが——232号室へと無言で歩いていく。


 アラトの部屋に入った二人は、水着のまま向き合うようにソファーに座る。アラトは背筋を伸ばし、緊張した面持ちで先輩を正面から見据えた。


(いやー、それ反則ですよね。真面目な話を水着のまましようなんて)


 コホンと一呼吸置き、口火を切るアラト。


「義理子先輩、先輩を信じもいいんですか?」


「はい、もちろんです」


「じゃ、いったい何が始まろうとしているのか教えてください」


「気をしっかり持ってください。いいですか、新人さん」


(とても嫌な切り出し……)


「新人さんには、我社が開発した戦闘兵器を装備して、『多元宇宙統一最強決定大会』に出場していただきます」



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