第十六章 吸血鬼VS鬼 その2
16.4 吸血鬼VS鬼 試合模様その二 吸血鬼側
死亡寸前のように弱っていた吸血鬼が精気を取り戻し起き上がった。病人のように真っ白だった顔の血色も、オーラが蘇っている。ボロボロだった翼が修復され、傷口も徐々に塞がっていく。
吸血鬼キングクローフィは、人間や怪物などの生命あふれる生物に手で触れることでエナジードレイン——生命力や精気を奪い取り、自身の生命エネルギーに変換する能力——が可能なのだ。
それは太陽を克服し、かつ肉体が進化したことで身に着いた新しい能力、代わりに血を吸う必要もなくなったのだ。
エナジードレインは手の平で直接触れる、および、鮮血が相手に触れることで実行できる。
徐々にエナジードレインした場合、その相手は生命力を吸収されていることに気づきにくい。吸血鬼はそれを利用していた。対戦幕開けからあえて密着技を食らい、密かに鬼兄弟の肉体に触れていた。
さらに、吸血鬼の血液針『吸血鬼峨嵋刺』——自身の血液で生成した真っ赤な針——を飛ばし、相手の肉体に刺せば、手の接触よりも早くエナジードレインが可能だ。
吸血鬼は傷口の血から新たな武器『吸血鬼剣』を造り出す。吸血鬼峨嵋刺の時と同じように、血液がニューッと伸びて剣の柄ができあがり、柄を握って引き抜くと真っ赤な西洋両刃剣が誕生した。
『吸血鬼剣』——自身の血液で生成した真っ赤で伸縮自在の両刃剣——を相手の肉体に刺すことでもエナジードレインできる。
吸血鬼峨嵋刺による攻撃で鬼兄弟が動揺している隙に、完全に修復した蝙蝠の翼で飛翔する。素早く赤鬼の背後に回り込み、吸血鬼剣で背中を刺した。
背中側に赤鬼の手の平が届かないため、吸血鬼剣をヒートハンドで溶かせない。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
呻き声を上げる赤鬼。
血液で造られた剣であろうとも、その切れ味は鋭かった。刺し傷から火花のように赤鬼のオーラがあふれ出し、煌めく吸血鬼剣を経由してエネルギーを吸収する様子が見た目で伝わる。
「素晴らしい、凄い生命パワーだ!」
歓喜する吸血鬼。
「兄者!」
弟鬼デズがプロレスタッグマッチのカットのように即座に反応、吸血鬼を跳び蹴りで弾き飛ばし援護した。
「ハァァァァァァァ~」
鬼兄弟をよそに、突如、気合いを発する吸血鬼。
頭髪色が漆黒から燃え盛る炎のような真紅に変色していく。
吸血鬼は、これまでの不甲斐ない戦いぶりを一掃するように、挑戦的な表情を浮かべた。
「強化形態変身完了!」
§ § §
16.5 吸血鬼VS鬼 試合模様その三 鬼側
「兄者、これは……」
「吸血鬼はもともと不老不死、肉体の再生能力があって当然!
パワーアップは奴の血が関係している。さっきの赤い針や、この赤い刀で刺されるとマズイぞ、デズ! 肉体硬化で防げ!」
「わかったぜ、兄者」
鬼兄弟が共有する二つ目の妖鬼術。
赤鬼は肉体をゴムのように柔らかくする肉体軟質化能力、青鬼は肉体を鋼鉄のように硬くする肉体硬質化能力がある。
この能力も一心同体の関係がある。軟質と硬質を足せば通常の硬さになるという大雑把な理屈。どちらかが能力を発動すると、一方も勝手に能力が発動するというのが扱い辛い。
吸血鬼が飛翔しながら吸血鬼剣で急襲。
赤鬼はゴムボディで肉体をグニュグニュと変形させ、斬撃を避ける。青鬼は、鋼鉄ボディで吸血鬼剣を弾き返した。
鬼兄弟は肉弾戦が得意だ。パワーだけでなく反射神経もいいし、そもそも2対1という対戦構造が、吸血鬼を不利に導いている。
吸血鬼は、いったん上空に退避。2本目の吸血鬼剣を生成して二刀流に構えた。
「油断してるぜ、奴は! デズ!」
「おうよ!」
青鬼が赤鬼の両肩に飛び乗った。赤鬼が腰を落としてしゃがみ込むと、肉体を発射台に見立ていっきに跳躍、ゴム体質を利用し青鬼を勢いよく上空へと打ち上げた。
上空200mほどの高さに退避していた吸血鬼の背後に突如出現した青鬼、上空で吸血鬼の首を翼ごと抱え込みスリーパーホールド。
翼の自由を奪われ、落下する両者。両手の吸血鬼剣で青鬼の脇腹を突くが、硬質化した肉体に刺さらない。
体重差のため、重い青鬼が下側に位置し自由落下、そのまま地面に激突した。
砂煙を噴き上げ大きく抉れる大地。下敷きになった青鬼だが、肉体硬質化でダメージは少ない。
地上にいた赤鬼が大きく跳躍、青鬼に羽交い絞めされている吸血鬼の左腕に全体重を乗せ着地、圧し潰した。
が、間髪入れず吸血鬼も反撃、自由に動かせる右手の吸血鬼剣で赤鬼の右膝を切断した。倒れ込む赤鬼。
「貴様ぁぁぁ!」
激昂した青鬼は起き上がって吸血鬼の左腕を両手で掴み、コールドハンドで急速冷凍。脆くなった左肘をねじ切った。
首絞めを解かれた吸血鬼は、チャンスとばかり倒れた赤鬼に走り寄り、右手の吸血鬼剣でその首をスパッっと一刀両断。赤鬼の首が転がる。
「兄者ぁ!」
青鬼の硬質化と同調して軟質化していた赤鬼の肉体は、包丁で豆腐を切るかのごとく、あまりにも切断に脆かった。
失った左腕を大地に残し、上空へと逃れる吸血鬼。
その間、青鬼は赤鬼の生首と右足を拾った。
青鬼が近づくと、首無し赤鬼の肉体が上半身を起こした。
「すまねぇ、デズ」
赤鬼の生首がしゃべった。
「いや、オレが悪かったぜ、兄者。ヘマしちまった」
首無し赤鬼に生首を手渡すと、自力で首を元に戻す動作。常識ではありえない奇怪な光景だが、一瞬で生首は元の肉体につながった。
続けて青鬼が右足を手渡すと、同様に元の肉体に戻し、何事もなかったかのように立ち上がる。
赤鬼はコキコキと首をねじって、つながり具合を確認した。
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