第十五章 アラト専用秘密兵器 その2
15.1 アラト専用秘密兵器 後編
「この右腕の銃、どうやって使うわけ?」
「はい。それは『精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃』です!」
両手を広げ、ジャンジャジャーン! と言わんばかりにテンションが上がる義理子先輩。
「でもこれ、引き金とかないんだけど」
「はい、アラトさんの脳波に同調して、『アレを狙って撃ちたい』と考えるだけで自動的に発射されます」
「スゲェーな、それ」
興奮気味に解説を続ける。
「はい。しかも、ターゲットを目視し思考で指定するだけで、発射されるレーザー弾が自動追跡し、誘導ミサイルのようにヒットさせます。要するに、考えるだけで撃つ銃、狙う動作はいっさい不要です」
「マジかぁ~、それスゴすぎじゃんかぁ! うぉぉぉ~、男のロマン、キタァァァ!」
超絶美人のドヤ顔が止まらない。
「ただしですね、アラトさんの脳波に同調させる上に、破壊力は『ターゲットを破壊したい』という意志、いわゆる闘志の量に比例しますので、非常に精神力の負担が大きいです」
「なるほど。逆に言えば、こいつ殺したる! って、思えば思うほど、強力ってことだよね?」
「おっしゃるとおりです。ですが、闘志と破壊力の比例度合いは、今のところ未知数です」
「いいんじゃねぇ、それでも。ホント、いーねぇ!」
続いて、と言いながら、床に横たわっているバズーカらしき物体をノリノリで指差す義理子先輩。
「パッカパパーン、これが、例の『惑星破壊キャノン砲』です」
「例のって、今初めて聞いたよね」
「いえ、以前少し話題にしましたよ、アラトさん。メイドさん相手なら秘密兵器で塵と化すって」
「いや、その話はメイドさんを塵にはしないっていう発言だったと記憶してますが」
「そうですか。困りましたね。まぁ、なんとかなるでしょう」
「あー、それだよ、それ、義理子先輩が発言したのは。で、どういうの、それ?」
「はい、よくぞ、訊いてくれました!」
またもや、テンションが上がる義理子先輩。
「これこそ我社が誇る、惑星を丸ごと破壊できちゃうかもしれない、アラト専用キャノン砲です! 赤く染めますか?」
「いや、赤く染めなくてもいいよ。それと、惑星丸ごと破壊しちゃったら、僕も死ぬよね」
「うっ、それは一大事です。困りましたわ」
「ねぇねぇ、GIRIKOって、もしかして結構な残念系? それともド天然? あっ、これ、ハルシネーションかぁ、そーか、そーか」
「どれも違います。IQ10,000の世紀末覇者です」
「いや、ホントにこれで惑星破壊とかできないよね」
「ご安心ください。まだ一度も試していません。テストして惑星ごと死んじゃったら、元も子もなくなりますので」
「ちゃんと理解してんじゃん!」
「ご安心ください。計算では、間違いなく惑星を破壊できます」
「もう、何一つ安心できん」
二人のやりとりはケンケンゴウゴウ続いた。有益だったかどうかは別として。
ともあれ、精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃、別名、アラト専用レーザー銃については、これから庭園で使用感の確認をする。アラト専用惑星破壊キャノン砲の利用については、後日、方針を決めることにした。
◆ ◆ ◆
庭園の広場に立つアラトとギリコ。
「ギリコさ、この秘密兵器、ほかの人に見られてオッケーなんスか?」
「はい。この施設に滞在しているのは、私たち含め計5人です。全員、私たちの地球出身です。第一回戦では直接対戦相手になりませんので、ギリ大丈夫です」
「まぁ、ギリコがそういうなら」
アラトが懸念点を確認するなり、右手を上げ、アラト専用レーザー銃で庭園広場の真ん中にある石のオブジェを狙う。
「いいんだよね、あの石のオブジェを壊しちゃって!」
「はい。施設に対する弁償などは、全てわたくしが対応いたします。ご安心ください!」
「マジか! ならオッケー!」
アラトは意識を集中した。前方に差し出した右手を左手で支える。
「ヨーシ、あのオブジェを壊すぞ! アラト銃、いっけぇー!」
バシュー!
強く破壊を祈ったのがハンドレーザー銃に伝わり、レーザー弾が発射された。
見事、石のオブジェの中央に直撃し、粉々に砕け散った。
「す、すんげぇぇぇ!」
急に腕を組み、満足げにドヤ顔になる義理子先輩。
「どうですかアラトさん、お気に入りいただけましたか?」
アラトはニヤリとし、前方に上げている右手を、そのまま後ろにいたギリコに向ける。
「じゃ、次はギリコでテスト」
超絶美人アンドロイドの顔から一瞬で笑顔が消える。
「いいのですかアラトさん、そんなことをして。後悔しますよ」
「ちょっとしたテストです、義理子先輩! 味方に暴発したらマズいですからね!」
と言って、レーザー銃を構えたまま、発射の反動を受け止める仕草をした。
「やってしまいましたね、アラトさん……」
無表情の超絶美人アンドロイドから怒りのオーラを感じる。
アラトはビクッと反応し、身体が硬直した。
「甘いですよ、アラトさん。武器の造り主であるわたくしが、自分をターゲットにできないようにシステム設定するなんて当然のことじゃないですか」
続けてボソッと呟くアンドロイド。
「抹殺プログラム起動! 高速格闘モード!」
頭を伏せぎみにし、前髪で隠れそうになっていたアンドロイドの双眸が青白く光ったように見えた。
次の瞬間、アラトの顔正面ほんの数センチ先に彼女の顔が現れる。ほんの一瞬のうちに移動したのだ。1秒もかかっていない。風で舞い上がった落ち葉が、ユラユラと再び地面に落ちていく。
「失望しました」
まるで職場の上司が部下に見切りをつけたかのように彼女は言い放った。冷たいひとことだった。
踵を返し、ホテルへと歩き出す義理子先輩。
しばらく棒立ち状態となっていたアラトは、ヘナヘナと膝から崩れ落ちた。緊迫感で呼吸停止していたので、急に息が荒くなる。
「はぁはぁ、そんな……、本気で撃とうなんて……、はぁはぁ、思っていなかったです……」
◆ ◆ ◆
アラトは自分の部屋に戻り、なんとか一人で装備を外すとベッドに寝転がり頭を抱えていた。
アラトの胸中は激しく荒れている。
(このまま僕はどうなるんだ? 先輩に見捨てられたのか? この先どうやって生きていくんだ?)
悲観的な妄想に取りつかれ、後悔の念に苛まれる。不安だけがアラトの思考を支配し、延々と言い訳を繰り返す。
許してください。単なる冗談だったんです、と。
そして頭の隅っこには、女性型アンドロイドに対するかすかな想いが薄っすらと張りついている。
芽生え始めたその気持ち、すなわち『ギリコとの関係を終わりにしたくない』という想いをアラトは否定したかった。そんなはずはない、そんなわけはない、と。
§ § §
15.2 大会八日目の朝 アラトの部屋
完徹だったアラト。しかし、気持ちはいまだに高ぶり寝たくても寝られない。
朝9時の試合開始時間となったが、義理子先輩は姿を見せていなかった。
「ヤバイよぉ~、ヤバイよぉ~」
アラトの声は掠れ、今にも死にそうな声。ホントにヤバイ。
【ポイント評価のお願い】
数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。
どうも有難うございました。