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第十四章 忍者VS幽霊 その4

14.7 忍者VS幽霊 試合模様その三 忍者側 後編


 正眼の構えで忍者の正面に対峙する麗倫。


 麗倫の表情は、静かな湖の水面のごとく穏やかでいて真剣そのもの。忍者を見下しているわけでもなく、愚弄ぐろうもしていない、そんな感情が読み取れる。


 忍者に残された最後の手段は、妖刀『無想心眼』の未来予知。


 妖刀には二つのつばが縦に並ぶ。


 一つ目は、柄側にある日本刀タイプの円形鍔。


 二つ目は、刀身側にある西洋両刃剣タイプのつばで、横から見て三日月のデザインとなっている。


 その三日月鍔に、単一の魔眼が埋めてある。魔眼は常時瞑目した状態だが、手順に従い開眼すると2秒後の未来予知が発動する。


 忍者は、それまで背負っていた妖刀『無想心眼』のさやを背中から外し、左手で握った。これこそが忍者ジークフリート・ムーンウォーカーが極める、本来の居合斬りの構えだ。


 瞬間移動時の『身移しの印』や忍術結界『空波狂獄』を実行する際は、両手を使って印を結ぶ必要があるため、鞘を背負っていたのだ。


 しかし妖刀『無想心眼』の未来予知は、右手だけで印を結ぶことができる。自由となった左手で妖刀の鞘をつかみ、世界最高レベルの居合斬りが可能となるのだ。


 右手の人差し指と中指を一緒に立て印を結ぶ。その指先を額に当てて未来予知の予備動作。


 そのまま妖刀の鯉口こいぐちを切る——さやを握る左手の親指で収まっている刀のつばを押し上げる動作——と魔眼が開眼、2秒後の未来を脳内観測できる。


 それは脳内の模擬戦。


 太刀筋をどのように、敵のどこを狙って斬りつければ剣撃がヒットするか、あるいは敵がどのように避けるかを試行する。


 防御にも有効活用できる。敵の攻撃手段、太刀筋を事前確認すれば回避は容易になる。


「いざ、参る!」


 忍者は右手で印を結び、左手で鯉口を切り未来予知の構えから、積極的に攻撃を仕掛けた。防御も織り交ぜながら、居合斬り、納刀、未来予測、居合斬り、納刀、未来予測を繰り返し、勝機をうかがう。


 両者の攻防はしばらく続いた。しかし、いくら未来観測しようとも、麗倫の完璧な防御をいっこうに崩せない。


 つまり、忍者が観測した未来を麗倫がさらに上書きするように対応するのだ。右側に避けると未来観測して右側を狙う。しかしその変更した太刀筋をことごとくかわす。


 それでは未来予知の効果が無に帰することになる。忍者がこれまでに戦った敵の中で、ここまで完璧に対応した者は存在しなかった。


 とどのつまり、妖刀の未来予知能力はあくまでも確定していない未来に対する高精度の予測であり、麗倫がそれを上回る反射速度を有すると証明しているのだ。


(くっ、なぜだ! 居合斬りが決る未来がまったく現れない!

 全ての攻撃を見極め、どれだけ未来を観測しようとも、まるでいっさいの隙が存在しない。

 それがしの勝利を未来が拒んでいるかのごとく……)


 突如、麗倫の攻撃速度が増した。忍者は抜刀、納刀の繰り返しが間に合わず、防戦一方と化す。


 逡巡しゅんじゅんする忍者、攻めあぐねる。


(いくら策を講じようとも意に介さない、想像を絶する達人!)


 忍者は納刀すると、大きく後方へと飛び退き右手で麗倫を制する。


「待たれよ、麗倫殿!」


 如意棒による攻撃を中断し、待機する麗倫。呼吸はいっさい乱れていない。


「どうしたのじゃ、忍者殿。万策尽きたのか?」


 図星を突かれて、苦笑する忍者。


「それがしは、まだ名乗っていなかった。貴殿には失礼なことをしてしまった」


 頭を下げる忍者。


「それがしの名はジークフリート・ムーンウォーカー。己の不甲斐ふがいなさを思い知らされたしだい、心から感服いたす所存」


「何を申すか、うぬの見事な剣術、いつ斬られるかと思い、ヒヤヒヤもんじゃったわい。

 じゃが、そうじゃのぉ……。ひとことだけ付け加えようかのぉ。

 忍者殿、魔法やらなにやら余計なことに頼りすぎじゃ。小手先の技に頼らず、正々堂々と勝負してみたらどうじゃ。

 うぬの剣技、世界一の居合斬りと自負しておるのじゃろ、どうじゃ? もう一戦」


 忍者は、麗倫の清々しく堂々とした態度に再び瞠目どうもくさせられた。なんとも殊勝しゅしょうな人物。心の奥底に溜まっていたドス黒い憎悪、猜疑心さいぎしんを洗い流すほどに。


「承知! いざ、尋常に!」


 忍者の剣術と麗倫の棒術は正面からぶつかり合った。


 その様相はまるで忍者と麗倫のぶつかり稽古げいこ、忍者がぶつかっていく弟子、麗倫が受けの手の親方だ。


 華麗な棒術は最小限の動きで隙が無い、忍者の刀を受け、かわす。忍者も負けじと上段、中段、下段攻撃を縦横無尽に繰り出す。得意とする飛んで跳ねての空中戦も織り交ぜて。


 それから小一時間続いたであろうか。


 全力を尽くした忍者であったが、結局、麗倫を斬りつけること叶わなかった。真剣で斬りつければ、当然重傷を負うのだが。


 忍者の執拗な連続攻撃に、さすがの麗倫も肩で息をする。忍者も倒れそうなほどの疲労であったが、意地でも膝はつかなかった。


「どうじゃ、満足したかのぉ」


「それがしの負けだ、麗倫殿」


「本当に、それでいいのじゃな? わしとて、一発もうぬに打撃を与えておらんがのぉー」


「うむ。問題無い」


「そうか。では、またどこかで手合わせを願うとするか」


「承知」


 返事するなり首を垂れ、自信喪失してしまった忍者の感情が麗倫に伝わったのだろう。麗倫は穏やかに微笑みながら、優しく言葉を続ける。


「決して卑下ひげしてはいかんぞ、忍者殿。こたび、わしがうぬに勝てたのは、あくまでも対面から始まった正式な試合だったからにすぎん。向き合って対峙しておるわしに、奇襲はきかんからのぉ~。

 もしもじゃ、忍者殿が街中でふいに襲ってきたなら、おそらくわしは一瞬で殺されておったじゃろーて。人殺しを肯定するつもりは全くないんじゃが、うぬの暗殺術、たしかに世界一じゃ」


 首を垂れていた忍者がハッとして麗倫を見た。


「かたじけない、麗倫殿」


「世辞とかじゃないぞ! わしは世辞が苦手でなぁ」


「麗倫殿、一つ質問がある。教えていただきたい」


「なんじゃ?」


「それがしの見えない攻撃、なぜかわせたのか教えていただきたい。あれは透明になって、かつ瞬間移動をしている。しかも気配、殺気を消し去る必殺の奥義。あれを凌いだ者は、かつて存在しない」


「おー、あれよのぉー。あの攻撃には苦労したわい。まぁ、運がえかったと言いたいところじゃが……

 わしが編み出した『瞑想の呼吸』というものじゃ。魔法とはわけが違うぞ!

 簡単にいうとじゃな、落ち着いた呼吸で集中を極限まで高まれば、どんな些細ささいなことにも反応できるということじゃ。勘が極限まで鋭くなるといえばええかのぉ。

 つまりじゃ、瞬間移動じゃろうがなんじゃろうが、そこに人がおるっちゅーことは、必ず空気が動く。ましてや人を斬りつけるわけじゃ。気配がなくとも空気の動きは無しにできん。勘の鋭いわしは、そんなんでも察知できるっちゅーことじゃ。

 わかってもらえたかの?」


 さすがに忍者も呆れ返った。神業に近い所業。返す言葉も無い。


「なにを呆れておる。なんなら、教えてやってもええぞ」


「そ、それは誠か。願ってもない、ぜひ頼むと致す」


 忍者は慇懃いんぎんに頭を下げた。


 麗倫、第二回戦進出!



 §   §   §



14.8 忍者ジークフリート・ムーンウォーカー


 無心抜刀流暗殺忍術の伝承者、ジークフリート・ムーンウォーカーは、字のごとく忍者であり、暗殺者であり、そして突然変異によって超能力者となったミュータントだ。


 アラトの住む地球とは異なる、並行世界の地球出身である。


 もともと孤児だった彼は、少年期に、暗殺者を育成する国際暗殺組織に拾われた。


 瞬間移動、念動力という異能を有していることから、暗殺忍者として育てられ、全身透明化できる光学迷彩兵器と未来予知できる妖刀を入手し、世界最強の暗殺者となった。


 しかし20歳を越えた頃、自分を育ててくれた国際暗殺組織が自分の本当の両親を殺したという事実を知る。


 ミュータントである彼の存在を知った当時の組織は、彼の希少な能力を暗殺ビジネスで活用するために彼の両親を殺害し、組織に勧誘する機会を待っていたのだった。そして幼かった彼をだますことに成功した。


 その事実を知るや、両親の仇討ちのために首謀者である組織の幹部全員を殺して組織を崩壊させた。


 その後、請負暗殺人として、そして強制的に罪を償わせる非合法の死刑執行人として、多くの外道を殺してきた。


 彼がこの大会に出場し、優勝報酬として望んでいたことは、父と母を生き返らせてほしいということ。


 そして、できることなら自分が生まれてこなかった別の人生を、幸せな人生を、二人に送ってほしいということなのだ。

 自分自身の命を引き換えとして。


 彼は理解している。


 彼は、これまでに千を超える人の命を奪ってきた闇の存在。いくらその身を清めようとも、その身に浴びた返り血をぬぐい去ることはできない。自分が死ねば、間違いなく地獄行きだと悟っている。


 それならば、せめて自分をこの世に誕生させてくれた両親だけは、幸せに長生きしてほしいと心から願うのだった。



【ポイント評価のお願い】

 数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。

 誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。

 どうも有難うございました。


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