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第一章 デス・ストーリーは突然に その4

1.2 謎のリゾートホテル 中編


 頭が混乱しているうちに、ホテルの近くまでやって来た。


 そのまま南国リゾートビーチでよく見るヤシの木群を抜け、すぐにでも飛び込みたくなるオーシャンブルーのプールを横目にしながら、ホテルらしき建物に入っていく。


 リゾートホテルだと言わんばかりのお洒落なエントランス、自動ドアが開き中へと進む。豪華なソファーに高価な花瓶。ロビーの奥に受付らしきカウンターが……、いや、受付カウンターはどこにも無い。


「では、新人さん。現地に着きました。新人さんは232号室へ。わたくしは201号室になります。顔認証で中に入れますから」


「えっ、ここってホテルなんですか?」


「違います。当面使うオフィスです」


「わ、わかりました。それと先輩、連絡先を」


「そうですね。部屋に固定電話がありますので、それを使ってください。わたくしは201号室ですから。ではのちほど」


(ちょっと待ってぇ~、どうすりゃいいのぉ~)


 アラトの心の叫びはどこへやらで、先輩はエレベータで2階へと向かった。アラトも仕方なく、232号室へと足を運ぶ。階段を上り、長い廊下を歩いてようやく部屋の前にたどり着く。


 232号室のドアノブを握ると、カチャリとドアロックが解除される音がした。

 そしてドアが開く。


 部屋の中をのぞいて、またもや腰を抜かしそうになった。


「ス、スゲェ~」


 スイートルームと思えるほどのゴージャスな部屋だ。


「これ、ホントにオフィスなんスか? ギリコ・コーポレーションって、いったいどんな会社やねん!」


 それまでアラトの感情を支配していたあらゆる疑念、不安を吹き飛ばし、得も言われぬ高揚感に包まれた。興奮を抑えきれず、部屋中を見て回る。


 部屋の構造はコの字型に広がっており、リビングエリア、ダイニングエリア、ベッドエリア、キッチンエリアに分かれる。壁による隔たりの無い、シームレスな環境だ。


 玄関ドアから正面手前がダイニングエリアで二人用の小さなダイニングテーブル、左側手前がキッチンエリア、正面奥に進むとメインとなるリビングエリアがあり、壁掛けタイプのドデカいテレビモニターが『我こそ主役だ』と主張している。


 部屋の一番奥がベランダでホテル背面のオーシャンビュー、その左手がベッドエリア。玄関ドアからベッドエリアは死角となるので、プライバシーへの配慮がうかがえる。


 どうやら角部屋らしく、ベッドエリアにある窓からは、ホテル側面から正面に広がる広大な庭園が確認できる。


 そしてコの字の溝部分を和式のバスタブ付きシャワールームと、個室タイプのトイレが占めている。


 総じて、途轍とてつもない広さを誇っているのだ。こんなところで一人暮らしできたなら、どんなに理想的なことか。


「ウォ~、もしかして、超絶美人先輩と想像すらおこがましい出来事がこれから待っているというのでしょうか? こんなん、男だったら、あ~んなことやらこ~んなことまで、色々妄想、もとい、仕事に集中できちゃうじゃないですか!」


 アラトはワ~イと歓喜しながら、自己流のお祭り音頭で踊りだす。


 しばらく喜びを全身で表現しつつも、この不自然で奇妙な現状に再び疑問を抱き始め、徐々に冷静さを取り戻してきた。


 踊りを止めるといっきに興がさめ、はぁ~と溜息をつく。


 アラトは気になっていることを一つ確かめることにした。


 このホテルに到着するまで、ここ以外の建物が一切無かったのだ。ベランダに出てみてグルッと見渡してみる。


 海の向こうは水平線、広大な庭園の奥は、緑の地平線がかすむまで広がっている。建物どころか人工物は一切見当たらず、まるで果てまで続くジャングルのようだ。


 孤立無援と思しきホテルは、文字通りこの周辺で唯一の存在となっているのだ。


「ヤバイ! これ、絶対ヤバイ奴じゃん!」


 アラトはリビングエリアをウロウロしながら考える。


「とりあえずスマホのチェック! ほ~らやっぱり圏外だ!

 この状況、僕がいかに能天気でアンポンタンでも、かなりヤバイってわかるよね。帰ろう! どうにかして帰ろう!

 まずは……」


 リ~ン、リ~ン。


「ハハ、もちろんそうくるよね」


 鳴り始めた固定電話をとり答える。


「はい、尾暮です。先輩? 先輩ですか? はい、わかりました。外に出ます」


 先輩からの電話はこうだ。


 部屋に海パンとアロハシャツが準備されているから、それに着替えて、ホテル、もとい、オフィスビルの裏手にあるビーチに出てこいというのだ。新入社員向けオリエンテーションをするらしいのだが、水着で?


 はいはい、という気持ちで、若干げんなりしながら着替えてビーチへと向かった。


 建物裏手の外に出ると、そこには左右に伸びる横長の砂浜が広がっている。これもまた旅行会社の南国ツアー専用パンフレットを見ているような絵面だ。


 波が飛沫しぶきを上げる音が連続する。穏やかな波に太陽光がキラキラと反射して眩しい。透き通るオーションブルーは南国のそれ。


 太陽がサンサンと照りつけるも、暑すぎずちょうどいい気候。しかし、どういうわけか変な違和感。まるでエアコンでも効いているかのように快適すぎるのだ。


 その違和感を払拭するため、アラトはさほど熱くない砂浜を蹴って海水の冷たさを確認しにいく。静かに押し寄せる波に向かって足を突っ込み進む、身体を沖へ沈めようとした瞬間、ゴン! と、壁にぶつかる鈍い音がした。


「あ~あ、やっぱり……」


 想像どおり、海は途中から偽物で、壁に海のホログラムが映し出されているのだ。近年の映像技術は非常に凝っており、実際、遠目に区別は難しいほどリアルなのだ。


 しかし、空気の匂いとか風の感触とか、完全に『自然』を模倣して人間をだますまでには至らない。なかなかの傑作とは思ったが。


 どうやら、このリゾーチ地全体が巨大なドームか何かの中に存在するらしい。単なる想像だが、たぶん、密閉空間なのだろう。地球上でない可能性すらある。異空間とか異世界とか別の惑星とか。


(もう無理! とにかく、帰り方を聞き出さなきゃ……)


 アラトは、ヤレヤレだぜぇ、という顔で深く溜息をついた。


「新人さん、わたくしの水着は似合っていますか?」


 唐突に柔らかな女性の声が背後から聞こえた。


 後ろに振り返った。


 アラトの背中に電気が走り、脳に直撃した。


 魂を奪われ、時が一瞬止まった。


 これは白昼夢なのか? 太陽よりも眩しい麗しき女性、いやさ、美の女神ヴィーナスがそこにいた。


 ワンピースとビキニを合成したような露出度高めのピンク系の水着。セクシーなデザインであるにもかかわらず、露骨に卑猥ひわいさを感じさせないキュートな印象。


 その水着を着て美のオーラを発散している義理子先輩がグラビアアイドルのようなセクシーポーズでこちらを見ていた。


 先ほどまで身にまとっていた真っ赤なビジネススーツの上から想像していた彼女のプロボーションは、妖艶ようえんという言葉に『健康美あふれる』という表現を加算したほうが、より正確と思える。極端にエロティシズムに偏っていないところがいい。


「結婚してください!!」


 アラトは彼女に向き直った瞬間、突拍子もないプロポーズをかましてしまった。



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