第十四章 忍者VS幽霊 その3
14.7 忍者VS幽霊 試合模様その三 忍者側 前編
人間社会において、いつの時代も悪がはびこり、犯罪者や真の悪党どもが狡猾に法の裁きを逃れ、正義を嘲笑ってのさばる。
忍者ジークフリート・ムーンウォーカーは請負暗殺人。その暗殺対象はそんな外道のみ。
彼は、強制的に罪を償わせる非合法の死刑執行人。それ自体は単なる殺人、そして大罪であることを彼は十分理解している。
しかしそれでも、彼に暗殺を依頼するクライアントは後を絶たない。請負暗殺は彼に課せられた非業の宿命なのだ。
彼は強敵と対峙した時、いつも思う。
暗殺人生の中で幾度生死を彷徨い、この世の地獄を味わい乗り越えてきたか。
極道、ギャング、連続殺人犯、軍隊さえも対峙して闘ってきた。
肉体も体力も精神も限界を超えて抗い、生き永らえてきた孤高の戦士。
そして、己が磨いてきた世界一の暗殺術で負けることは許されない。
「全身全霊でおぬしを滅する!」
再び透明化する忍者。
忍者は麗倫の後方へ瞬間移動、毒峨嵋刺を3本投擲した。
妖刀以外の武器は透明化できないので、懐から取り出せば敵が視認可能。また妖刀の気配消去妖術『無想殺陣術』は、忍者の手元を離れた時点で無効になる。
空間から突然毒峨嵋刺が出現し、シュン、という風切り音を鳴らしながら麗倫に向け直進。そのうち1本を念動力で軌道を変化させ足元を狙った。
風切り音だけで投擲武器に反応する麗倫。側宙で大胆に飛び跳ねながら3本とも回避。
続けて如意棒を豪快に振り回し、棒術のリーチを活かして周囲に攻撃を仕掛けてくる。
「さて、そろそろわしの番じゃ! わしの如意棒が当たると肉体ごと粉砕してしまうかもしれんが、お前さんなら、全部躱せるじゃろぉ!」
忍者がどこに瞬間移動するかは関係なく、瞬間移動先でヒットすれば即座に居場所を特定できるという作戦なのだろう。
棒術の師範がカンフー映画で魅せそうな旋風術、身体の前で背後で如意棒が躍り、縦横無尽にグルグルと回転し続ける。
しかし、たった1発ヒットした程度で、忍者の肉体が粉砕されるとは思えない。麗倫はよほど棒術に自信があるらしい。
そして忍者はこのやけっぱちに近い反応を待っていた。
透明のまま麗倫の頭上を飛び越えるように大きく跳躍、オレンジ色の『結界クナイ』を三つ取り出し、地面に刺すように次々と打ち込んでいく。
三つの『結界クナイ』で三角形を描き、印を結ぶと忍術結界『空波狂獄』が発動。
『空波狂獄』は結界内の人間の平衡感覚を狂わせる。それは、まるで無重力下で足場を失い宙に浮いているかのような感覚、常人であれば、意識が混濁し無抵抗な状態に陥るであろう。
『空波狂獄』に捕った麗倫。
足元がふらつき、顔を歪め苦しそうな表情に変わった。
「勝機!」
正確な視覚情報を得るため透明化を解除し、姿を見せる忍者。麗倫と距離があったが、一瞬で間合いを詰め抜刀。三連撃。
カァン、カァン、カァン!
刀が金属を叩きつけた音響の三連続、忍者が繰り出した三連撃は、全て如意棒を叩いたにすぎなかった。
「なにっ!?」
麗倫が使用しているのは、伝説の神器『如意棒』。言い伝えのとおり伸縮自在。
麗倫は如意棒を足元の地面に突き刺し、そのまま天に向けて伸ばしていた。伸びた如意棒の上空側を握って、まるで国旗掲揚台に掲げられた国旗のごとくぶら下がっている。
そのままスッと地上に降り立ち、忍術結界『空波狂獄』の外側へと脱出した。
「やれやれ、間一髪じゃったわい、うぬの魔法も引き出しが多いのぉ~」
忍者は金縛りのように硬直した。本日、何度目の瞠目であろうか。麗倫が語った『面妖な』という言葉を、そっくりそのまま麗倫に返したい。
「おぬしはいったい……。上下方向の感覚を失って、なぜそんなまねができる?」
「いや、なに、日頃の鍛錬のおかげかのぉ~。『震脚』で大地を踏ん張ってみたら、運よく地面の感触があったでな。そのまま上に向かって逃げれば、うぬの刀はなんとか躱せると思っただけじゃ。ただ運がえかっただけじゃて」
「咄嗟にそこまでできるとは……」
麗倫の語る『震脚』とは、足で地面を強く踏みつける動作のこと、『踏鳴』ともいう。忍者も、それくらいの武術用語は知っている。
忍者が狼狽している隙に、麗倫は如意棒で結界クナイを突き破壊した。
忍者は必殺の暗殺術をことごとく麗倫に看破された。
透明化も瞬間移動も気配消去も悟られて躱される。念動力も片腕を突き出すという予備動作だけで見抜かれる。忍者結界もたやすく破られた。
あらゆる異能が通用しないのだ。もはや畏敬の念を抱いてしまうほどだった。
「だが、しかし……ここで諦めるわけにはいかぬ」
「いい心構えじゃ。さぁ、参られい!」
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