第十四章 忍者VS幽霊 その2
14.5 忍者VS幽霊 試合模様その二 忍者側
忍者はミュータントだった。生まれつきの超能力者。しかし、それだけではない。
「無心抜刀流暗殺忍術奥義『神隠し』」
言葉と同時に、黒兜の額部分からゴーグルのような黒いレンズが下りてきて両目を覆う。そして、忍者の姿が消えていった。
「ぬっ、殺気どころか気配も感じられぬ……」
その表情と言葉から、驚異的な体術を誇る麗倫にも一瞬緊張が走ったと見てとれる。正眼の構えで呼吸を整え瞑目、意識を集中している様子。
静寂が訪れわずか数秒後のこと。麗倫は突如、自身の左後方上空に向け如意棒を突き上げる。
カァーン!
如意棒で真剣を受けたような乾いた金属音が響いた。
直後、麗倫の真後ろに忍者の着地する姿が現れる。そのまま後方に一歩下がり妖刀を鞘へ、わずか数秒でまたスゥーっと姿が消える。
麗倫は同じ立ち位置で再び正眼の構え。
数秒間の静寂の後、両足でジャンプする麗倫。
すると、またもや忍者が姿を現す。妖刀を下段で振り抜いた姿勢で。忍者の下段回転斬りを麗倫が跳躍で回避した構図となっている。太刀筋はいっさい見えていなかったにもかかわらず。
後方に下がり姿が消える忍者。直地後に再び正眼の構えの麗倫。
麗倫の奇妙な回避行動と、忍者が消えては現れるという現象は5回連続した。
観戦者には理解し難い成り行きだが、明らかに忍者が透明化して剣撃、不思議と麗倫が全て回避するという両者の行動だった。
しかも忍者の急襲は、前後左右上下、全周のどこから仕掛けられるのか全く認知できないだけでなく、物理的にも距離的にも時間的にも連続して繰り出すには不可能な位置関係。
「バカな!」
ついに忍者が口を開く。
「なぜだ、なぜ躱せる!? なぜだ!?」
忍者装束に回折型光学迷彩機能——光を迂回させて背後の景色を認識させることにより本人の姿を視認できなくする技術——が搭載されている。
この光学迷彩の欠点は、忍者自身も外の景色を視認できなくなってしまうのだ。
そのため、兜内に搭載されているAIが周囲の景色情報を記憶し3D映像をリアルタイムで生成、レンズに景色を投影して忍者の視界を確保する。
しかし、人間のように不規則に行動する動体物は、行動予測によって映像が生成されるため、現実の再現精度はせいぜい5秒~10秒程度しか続かない。
つまり、信頼性を担保した透明化の効果は、ほんの数秒までという縛りがあるのだ。
『神隠し』奥義のもう一つの裏技。妖刀『無想心眼』。
妖刀は、忍者装束の機能に合わせて刀身も透明化する。かつ、忍者が放つ殺気と気配を完全に消すという一種の妖術『無想殺陣術』が付与された伝説の日本刀なのだ。
これが『無想心眼』が妖刀であるというゆえん。
そして『無心抜刀流暗殺忍術』伝承者が世界最恐の暗殺術として暗躍してきた最大の裏技、それがテレポーテーション。
忍者ジークフリート・ムーンウォーカーの二つ目の超能力は、テレポーテーション——移動距離にして最長10m、視認できる座標であれば遮蔽物越しでも可能な瞬間移動——なのだ。
瞬間移動の直前、『身移しの印』を両手で結ぶ。
両手とも人差し指と中指だけ立てる。左手を上、右手を下にして上下に重ね、左手の親指、薬指、小指で右手の人差し指と中指を握った状態、映画などでもよく見かける忍者の印だ。
この透明化、気配消去、瞬間移動を同時に行使する無心抜刀流暗殺忍術奥義『神隠し』で、成功しなかった暗殺は存在しない。
まさしく、超能力、妖刀妖術、科学技術が組み合わさった唯一無二のコラボレーション。
ジークフリート・ムーンウォーカーは事実上の最多人数暗殺執行者なのだ。その数、千人を超える。
麗倫の前に姿を現した忍者は、明らかに狼狽していた。どうして麗倫が全て躱せたのか、謎に包まれたままだ。
§ § §
14.6 忍者VS幽霊 観戦模様その二 アラトの部屋
「ちょ、ちょ、何があったんスか? もう完全にイミフなんスけど!」
「はい、頭脳明晰なわたくしの分析によりますと、忍者は透明化、気配消去、瞬間移動を同時に行使して急襲しています。唯一無二のコラボレーションです。天才です!」
「す、すごいよ、ギリコ! まるでどっかでカンニングでもしたかのような正確な解答! 素晴らしい!」
「せっかくですので補足いたします。
透明化のときにわざわざ刀を鞘に収めています。おそらくは透明化と瞬間移動の条件なのでしょう。だから、居合斬りを極めないといけない。
そして、5回連続襲撃で諦めたということは、その回数がなんらかの上限。おそらく、異能を行使すると疲れるので休息が必要といったところでしょうか」
「ギリコ、天才!」
「お茶の子さいさいです」
「お世辞でホイホイだね」
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