第十四章 忍者VS幽霊 その1
14.1 第一回戦第七試合 忍者VS幽霊 対戦情報
観戦モニターに表示されている対戦情報より。
闘技場について。
本日の闘技場はBタイプ。第一試合、超人とサイボーグが対戦した会場。
円柱状の閉鎖された密閉空間。直径500m、高さ10m。
忍者ジークフリート・ムーンウォーカーについて。
『無心抜刀流暗殺忍術』伝承者。
妖刀『無想心眼』。
幽霊について。
太極拳、柔術、合気道、骨法をベースとした総合格闘技。
『如意棒』。
§ § §
14.2 忍者VS幽霊 試合開始前 アラトの部屋
『シアイカイシ、3プンマエ』
円形の会場床面中央付近に直径2mほどの穴が2つ出現、床下より『迫り』が上がってきて、それぞれの穴から人影が一人ずつ入場した。
2者間の距離はおよそ100mで対峙する。
忍者と思しき黒い影。
文字通り、漆黒の忍者装束に身を包む。
さらに戦国武将が身に着けそうな鎧デザインの各種プロテクターを装着。
胸部を防護するブレストプレート『胴』、両肩に小さめのショルダープロテクター『大袖』、腰前側に太腿だけ守るよう左右一枚ずつの細いスカート型プロテクター『草摺』、ガントレット『籠手』。
黒兜と黒マスクを被り、両眼だけ覗かせる。
一風変わったデザインの日本刀を背負う。
重厚な装甲というよりは、全体的に動き易さ重視の軽量さと頑丈さが両立したプロテクターの印象を受ける。
もう一人は見た目20代半ばくらいの女性。幽霊という雰囲気はいっさい見受けられない。
上半身は、花柄模様の白いスポーツブラでおへそ丸出し。下半身も同じく花柄模様の白いカンフー道着。ズボンの裾にスリットが入っている。
アジア系ルックスに黒髪のポニーテール。
身長とほぼ同じ長さの如意棒を右手に構える。
アラトはモニターに映ったアジア系美女を目にし、先日早朝にカンフー稽古をしていた人物だと気づく。
「あっ!」
「どうされました、アラトさん」
「たぶんですが、あの人、普通の人間です」
「そうですね。浮いてないですし、足もちゃんとありますし、額に三角巾も被っていませんし、白装束でもないですし、ヒュ~ドロドロなんていうBGMもかかってないですし。はい、普通の人間です」
「良かった、同じ意見で。AIが定義する幽霊の知識って、おばけ屋敷がベースなんですね。さすがと言いますか、博識あると言いますか、なんと言えばいいか、言葉で言い表せないです」
「そうですか、ありがとうございます」
「いや、まぁ、はぁ……」
『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』
§ § §
14.3 忍者VS幽霊 試合模様その一 忍者側
忍者がアジア系美女に問いかける。
「おぬし、幽霊なのか」
問いに応じる美女。
「やはり気になるか。『幽霊』じゃのと言われると、ちと困るわい。わしはとうに死んでおる身じゃが、どういうわけか、この大会に出るために生き返ったちゅー話でな。
わしも、生前は世界一の格闘家と豪語しちょったからのぉ、そんなんで、神様からお声が掛かってしもうて。
まぁ、せっかく腕試しができるっちゅーから、お言葉に甘えて、生き返らせてもらったっちゅーわけでな。
こんな婆さまのお遊びにつきあわせて、すまんのぉー」
「承知!」
瞑目し無言になる忍者。
「言葉少ない御仁じゃな。わしの名は麗倫。いざ、参る!」
麗倫は如意棒を両手で握り、ナギナタでいう八相の構え。
『……3、2、1、ゼロ』
試合開始の合図。
抜刀しないまま疾風の如く麗倫に突進する忍者。駆け出すと同時に右手で『毒峨嵋刺』——先端が針のように尖った緑色のクナイ——を正面から素早く投擲、麗倫の頭部めがけて直進する。
麗倫が上半身を軽やかに傾け、あっさり回避した刹那、飛来する毒峨嵋刺がクイッと軌道を変え、眉間を狙う。
驚きの表情を一瞬見せたが、傾けていた身体をさらにグイーッと傾けて躱した。
その隙に走り寄る忍者、肉弾戦に至る手前でいきなり毒峨嵋刺10本を宙へとばら撒く。まっすぐ投擲はしていない。クナイは麗倫をグルリと囲むように宙を舞い、バラバラと自然落下する。
忍者が落下する毒峨嵋刺1本を右手で指差すと、突如、生を授かったかのごとく麗倫に向け直進した。
驚きの顔もみせず難なく如意棒で弾く麗倫。
残りの毒峨嵋刺9本に、連続して1本ずつ指令を送る忍者。取り囲んでいた毒峨嵋刺が次々に襲ってくるが、如意棒を右に左に操って冷静に叩き落していく麗倫。まったく無駄のない捌き技。
最後の1本が叩き落された直後、麗倫の腹部めがけて右手の平を突き出す忍者。麗倫は側宙——エアリアル——で横移動回避。忍者は一歩間合いを詰め、初めて妖刀『無想心眼』を右手で抜刀、逆袈裟斬りで追撃する。
麗倫は側宙の真っ最中に、如意棒を構え忍者の刀を弾き返した。
「ぬぅ」
神業のような麗倫の体術に驚嘆の声を上げ、忍者は後方へと大きく跳び退いた。
「なんとも面妖な。うぬは魔法でも使えるのか?」
忍者は、麗倫の愚直な質問に一瞬たじろぐ。
「魔法ではない、念動力だ。テレキネシスともいう」
「なるほどのぉ。いやいや、すまなんだ。わしはこういう魔法じみたことに疎くてな。超能力とかいうやつじゃの、うぬが初めてじゃ」
忍者は驚愕を隠せない。なんとまっすぐな女戦士。
「うぬのその技、一度に一つしか動かせんわけじゃの。右手を突き出してきたのも、わしを身体ごと吹っ飛ばせるというわけじゃ」
「…………」
§ § §
14.4 忍者VS幽霊 観戦模様その一 アラトの部屋
「このお姉さんおもしろい! しかもスゴい! ねぇ、そう思わない、ギリコ?」
「美人が好きですもんね、アラトさんは」
「好きっちゃ好きだけど、なんか天然ぽくって、ファンになっちゃうなぁ~」
「良かったですね、推しが見つかって」
「この忍者って、超能力者? 宇宙戦争映画に出てくるナンタラの騎士みたいで、かっこいいね」
「おそらくミュータントと思われます。先天性——アプリオリ——の異能ですね。後天的——アポステリオリ——に身につけたのはないのでしょう」
「あーあ、僕もほしいなぁ、あーいうの」
「そうですか。使い方から想像しますと、人間サイズの重量では、ほぼ密着しないと吹っ飛ばせない。短剣やクナイのように軽ければ、少し離れていても念動力が使えるといったところでしょうか」
「さすがよく見てるね、戦略分析補佐官は」
「当然です」
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