第十三章 アラトを選んだ理由 その1
第十三章 アラトを選んだ理由 その1
13.1 アラトを選んだ理由 前編
第一回戦第六試合の観戦を独りで終えたアラト。
陰うつな表情を浮かべ、両肩が力なく下がり背中が丸まっている。勝敗結果すらも眼中にない。
こっちの世界に来て以来、アラトの軟禁生活は今日で7日目。
孤独に感じるときが多いし、テレビ番組も見られないし、ゲームもできなければラノベも持ってきていない。要するに暇を潰す材料が何もない。いいかげん自分のアパートが恋しくて友達にも会いたい。
しかもここでの生活ではギリコしか話し相手がいないのだ。たとえアンドロイドだろうが、だました、だまされたといって憤慨した相手だろうが、独りぼっちになるほうが辛い。今朝、ギリコが姿を現さなかったせいで妙に寂しいのだ。
「ギリコ、なんで来ないんだよぉ~、まだまだ聞きたいことあるのに……」
アラトが独りしょげていると、インターホンが鳴った。
「はい、はい、はい、はい、はい」
パッと花が咲いたように元気になるアラト。
ドアの外からギリコの声が聞こえてくる。
「アラトさん、よろしいですか、入ります」
アラトがドアをガチャと開ける。
「な、なんだよぉ、そんな遠慮しなくていいじゃんか、いつもどおりドカドカ入ってくれば」
「そうですか。かしこまりました」
いつもよりかしこまった面持ちで、部屋に入ってくるギリコ。
「アラトさん、もう落ち着きましたか? 昨日の続きをしても大丈夫そうですか?」
「うん、ギリ大丈夫」
「わかりました」
アラトはギリコのジョークをマネしてみたが、あっさりスルーされた。
「さて、アラトさん、何から話せばよろしいですか」
「うん、やっぱりなんで僕を選んだかってところだけど」
「正直に申し上げます。アラトさんのアパートに訪れて、その翌日からトーナメント開始でした。わたくしたちも全く余裕がなかったのです」
「要するに、誰でも良かったと?」
「そこまでは申しません。ただ、大会参加申込みがギリギリだったことは事実です。もう、あとがない状態だったのです」
「……」
「ですので、どんな手を使ってでも、アラトさんにここまで来ていただく必要がありました。そして大会内容を直接見ていただき、説得する以外に方法はありませんでした。
事前に全て説明してしまうと、必ず拒否されるのは100万人の男性で実証済みだったからです」
「それは理解できる」
「それとアラトさんの思考を読み取るのが容易でしたので、たぶらかすのに最適でした」
「はっ?」
「訂正します。アラトさんが素直で正直者でしたので、たいへん助かりました」
ギリコがニコッと笑顔を見せる。
アラトの笑顔が消える。
「ちょいちょいちょい、僕の心が読めるって?」
「ありていに申しますと、そのとおりです」
アラトは腕組みをして挑戦的な表情を見せる。
「そうですか! じゃ試させていただきましょう!」
「はい、よろしくお願いいたします」
(ギリコはテレパシーが使えるわけ?)
「わたくしにテレパシー能力はありません。心理学を応用した読心術です。メンタリズムがもっとも近いでしょう。
数日間一緒に過ごし、表情、行動、反応などを観察することで、相手の方が何を考えているのかある程度把握できます」
(早くおウチに帰りたい!)
「優勝すれば叶いますわ」
(僕はおっきなおっぱいが好き!)
「アラトさんがおっぱい好きなのはじゅうじゅう承知しています」
「じゃ、ギリコのおっぱい大きい!」
「ありがとうございます。その感想は出会った瞬間にいただいております」
「ヌググ、全部バレバレかよ!」
「はい。それからアラトさん、心の声が途中から洩れています」
ギリコはニコニコ顔を崩さない。
悔しそうな表情のアラト。負けを認めたように話題を変える。
「ちょっと話題変えるけど……。じゃ、違約金で10億円てのは嘘だよね?」
「いえ、契約書は存在しますので有効です」
「なんだよぉ~、それぇぇぇ~、じゃ、ダメじゃん」
「アラトさん、仮に契約書が嘘だった場合、大会出場を断りませんか? このまま出場していただけますか?」
「いや、もう速攻で逃げだすよね」
「はい。理解しています」
「さすがIQ10,000」
「ありがとうございます」
アラトは不満げな顔をして話題を続ける。
「でも、やっぱり納得いかないよねぇ! なんで僕なのかって」
「はい。アラトさん自身はご存じないのかもしれませんが、アラトさんには、物事を成し遂げる根性があります」
「いや、無いって!」
「ご自身が気づいてないだけです」
「無い、無い」
アラトは、ぶっきら棒に片手を左右に振った。
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