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第十二章 勇者VSスライム その2

12.3 勇者VSスライム 試合模様 勇者側 後編


「なんだってんだ、オレは素振り稽古けいこにきたわけじゃねぇ!」


 唯一救いだったこと、それはスライムの身が弾け飛び、勇者の肉体にたとえ一滴でも人喰いアメーバの肉片が付着していたならば、勇者は我が身の一部を斬り落とす羽目になっていたかもしれない、ということだ。


 しかし結果から推測すると、スライムの肉体は液体のように飛び散る性質ではなさそうだ。


「クソッ、仕方ねぇ! 次は衝撃波で叩き潰す!」


 勇者は自身の剣撃を、斬撃——物体を切断する効果——と衝撃波——物体を粉砕する効果——に使い分けられる。


 勇者は予告どおり、再び助走から大ジャンプ、大きく振りかぶって、渾身の一撃。


 ドゴォォォーン!


 最初の一撃よりも激しく粉砕される石畳。耳をつんざく破壊音に残響が続いた。


 勇者は、異質な現象を瞬間的に認識した。


 最初の攻撃時に感じた剣の素通りと異なる。


 スライムの肉体表面を叩きつけた感触はあったが、剣は肉体を素通りしなかった。むしろ肉体表面の弾力で、剣が押し返されるような感覚。それでいて、剣撃が生んだ衝撃波だけがスライムの肉体を伝播でんぱし床面に到達、破壊した。


 勇者の剣を握る手には、柔らかいゴムの塊を叩きつける感覚だけが残ったのだ。


 勇者は理解した。


 このスライムの肉体は、あらゆる攻撃を素通りさせる性質を持つ。切りつけた場合は刃物ごと、叩きつけた場合はその破壊のエネルギーを。


 もしかすると、魔法攻撃さえも素通りさせてしまうかもしれない。超々高熱系の攻撃手段を試せば、あるいは光明も……。


 勇者がふだん使える魔法は肉体強化系の魔法のみ。


『勇者の鎧』に宿る魔力を活用して、常時、肉体の防御力を最大限強化している。ドラゴンに踏まれても平然としていられるのがレベル999。


 しかし、スライムの強力な消化能力に対して、堅固な防御力が有効であるとは考えにくく、油断はできない。


 ちなみに飛行能力も無いが、跳躍力だけで3階建てのビルを飛び越えられる。人間にしては破格の身体能力。


 剣を使った破壊もお手の物、剣撃だけで異世界の魔王にダメージを与えることができるのは勇者くらいのものだ。


 勇者には攻撃系魔法を応用した高熱を伴う強力な必殺技もあるのだが、発動には特殊な条件をクリアしなければならない。


 敵の攻撃を『勇者の盾』で防御し、そのエネルギーを吸収して蓄積。蓄積したエネルギーを『勇者の剣』で放出するのが基本的な高熱系攻撃技の流れだ。


 自身の保持エネルギーを消費することなく、敵の攻撃を何度でも倍返しできるのが勇者の最大の強み。


 時間をかけて体内で闘気を練り、『勇者の剣』で高熱系の斬撃を繰り出すことも可能だが、今は時間が足りない。


 とにもかくにも、このスライムに関しては相性が悪すぎる。


「おのれぇ~、レベル999のオレ様が、こんなザコに手こずるなど考えられん! 相性が悪すぎる、せめてこいつが何らかの攻撃をしてくればやりようはあるが、ただ肉をむさぼるだけの生物。何も期待できん……」


 ふと気づくと、部分的に破壊された舞台の石畳が勇者の目に入った。


「そうか……、この会場ならば」


 勇者は唐突に左手で握っていた盾を舞台の外に放り投げた。続けて『勇者の剣』を両手で握り直し、正眼の構えをとる。


 何かを思いついたように、石畳を舞台の端から破壊し始めた。スライムの存在を完全に無視している。


「ハハハハ、破壊するだけなら、オレの得意分野だぜ!」


 連続ジャンプ。その勢いで次々に石畳を破壊。


 勇者の目的は明白だった。舞台全体を破壊して、スライムの足場を無くして場外へと導き、勝利をつかむという作戦だ。


 ほんの数回の破壊で、舞台は勇者の足場となる場所と、スライムが残る石畳のみとなった。それぞれ、わずかに残った舞台の離れ小島といった様相だ。


「ふん、あとはお前がいずり回るその石畳みだけだな。さぁ、覚悟しな」


 勇者は独り言を述べるが、スライムに知能は無いだろう。舞台の上にしがみつくという勝利へのこだわりは皆無のはずだ。


「最後の一撃、死ね!」


 勇者は大ジャンプで、スライム自体を叩きつける。その衝撃波が舞台へと通過し残る小島を破壊した。舞台の下へ落ちるスライム。


 勇者はスライムの肉体を叩きつけた時の弾性を利用して、元いた位置に後ろ向きジャンプで戻っていった。いや、戻るつもりでいた。


 最後に衝撃波でリキみすぎたのだ。バックジャンプで見事元の位置に着地したにもかかわらず、その戻った小島に亀裂が入り崩れていく。


 『げっ!』という後悔の叫びとともに、舞台の下へと落ちる勇者。


 落下したスライムは瓦礫がれきの山に囲まれ、モゾモゾと思うように脱出できないようだ。


 同じく、着地に失敗して落下した勇者も瓦礫の山のてっぺんに仰向けで倒れている。


 しばらくして運営のアナウンス放送。


『第一回戦第六試合の結果をお伝えいたします。

 闘技場Aタイプにおける対戦ルールにより、双方場外判定となり、勇者、スライムともに敗北という試合結果となりました。

 これにて、本日の試合放送を終了いたします』


 試合結果を確認した勇者。せっかくの凛々《りり》しい雰囲気が台無しになり、バツが悪そうに脱力して天を仰いだ。


 勇者シン・ガイディーン、アメスライバ、両者第一回戦敗退!



【ポイント評価のお願い】

 数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。

 誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。

 どうも有難うございました。


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