第十一章 ギリコ・コーポレーションの実態 その1
11.1 ギリコ・コーポレーションの実態
第一回戦第五試合が終わった。
銀河系帝王VS悪魔というヴィラン同士の頂上決戦となれば、アラトも興奮せずにいられないはずだ。本来であれば。
しかし無言でベッドに潜り込んだまま、ついに最後まで試合観戦を放棄していた。試合の流れもいっさい関知せずを貫き、帝王の首が切断される斬首刑シーンも見てはいない。
アラトは観戦終了後も義理子先輩を見ようとすらしない。
義理子先輩は空気を読んだのか、スッと立ち上がって無言でその場を立ち去ろうとする。
「なんで僕なんですか? なんで僕を巻き込んだんですか? 理由を教えてください!」
アラトは掛け布団を無造作にどかすと、ベッドの上で体育座りをし、膝で顔を隠しながら低い声で不機嫌に問い掛けた。
「聞いていただけますか」
アラトは黙って首肯する。
「ありがとうございます」
義理子先輩はアラトのベッド脇に立ち、両手を前で組みながらかしこまった姿勢で話し始めた。
「このトーナメントに出場する理由は、やはり、生身の人間が使用する戦闘兵器を開発することにあります。
開発過程において、当然、試作品の試験が必要です。テストには新人さんくらいの年代の男性が最も適しており、協力していただける人物を日本国内で探していました。
わたくしたちは当初、正直にトーナメントの内容を告げ、出場者の面々と一騎打ちをすれば、死と隣り合わせになることも伝えておりました。100万人以上の男性と出場交渉しましたが、回答はことごとくNOだったのです。ネット上でのやりとりが大半でしたが」
「そんなん、自分がやりゃーいいじゃん」
「ご指摘はごもっとも。ですが、開発対象が『生身の人間が使用する戦闘兵器』である以上、わたくしのようなアンドロイドが使用するわけにはまいりません。用途が異なるのです」
「こだわる理由がわかんないけどさ」
「そもそも、90%以上の方が拒否した理由は、生き死にの問題よりも、大会の出場者についていっさい信用していただけなかったのです」
「まぁ、怪獣とか悪魔とか宇宙人とか、そんな胡乱な輩と決闘なんていえば、まともに聞いてくれないよね」
「はい。ですから、出場の報酬として10億円お支払いするという条件をこちらから提示しようとも、むしろ逆効果となってしまうのです」
「そりゃそうだよ、あまりにも怪しすぎるって!」
「そういった事情で、交渉の第一段階でつまずき、その先へと話を進めること自体が困難でした。そして、YESと協力の意志を示していただいた男性はむしろ、わたくしとの性交渉を期待しての行動がほとんどでした」
「……」
「誤解のないように申し上げますと、アンドロイドであることは伏せていました。それに、人間を模倣した機械といっても、そのような行為を提供する機能はありません」
「……」
アラトは、先ほどから複雑な表情を繰り返した。何ともいえない表情を。
「端的に言い換えますと、その方々はまったく協力する気はなかったということです。ですので、出場者確保の作業は難航しました」
「そりゃ、まぁ……」
「そして、わたくしたちは試行錯誤により候補者を絞っていきました。
具体的には、一人暮らしの独身男性、就職活動をしている人物、そしてなにより、楽観主義で物事に深くこだわらない人物を探したのです」
「なんか、もう、僕じゃんか」
「はい、おっしゃるとおりです」
「それって、だましやすい奴というふうにも聞こえるけど……。で、なんでわかったのさ、それが僕だって」
「それについても、合理的な説明が必要ですね」
「そうだよ! それに、さっきから『わたくしたち』って複数形になってるけど、それは、『ギリコ・コーポレーション』を指すわけ?」
「とっても察しがいいです、新人さん」
エッヘン、とドヤ顔をするアラト。
「続けます。『ギリコ・コーポレーション』とは仮の姿。本当は、わたくしの創造主であり、本体でもあるスーパー量子コンピュータ『GIRIKO』を意味します」
「は、はい?」
「東北地方のとある山奥に、東京ドーム100個分の広さに匹敵する地下施設があります。
そこにスーパー量子コンピュータ『GIRIKO』が存在します。
わたくし義理子と『GIRIKO』は、ある意味同一人物。常に情報を共有し合って連携しています」
「マジっすか……」
「はい、マジっす。もとい、嘘ではありません。
つまり、人類初の超絶リアル美人アンドロイドを開発したのは、その『GIRIKO』です」
「ス、スゴイ……」
「わたくし、そういう素直な性格の新人さん、大好きです」
「な、なんだよ、そんなん聞いてもだまされないぞぉ!」
「はい、それでこそ、新人さんです」
「そうか、顔認証のはずなのに、いつも勝手に僕の部屋に入ってくるのは、ドアロック解除くらい超簡単、お手の物ってことだよね」
「はい、そのとおりです。そして、条件に適合する人物の捜索は、さほど困難ではありません」
しばらく頭を冷やすように考え込む姿勢を見せるアラト。
気遣いなのか、雰囲気を察して話を中断する義理子先輩。
「で、僕をどうやって?」
「はい、これから話すことこそ本題です」
「また、そうやって怖がらせる」
「わたくし、いえ、スーパー量子コンピュータ『GIRIKO』は、既に地球を征服し、世界を手中に収めているのです」
「いや、イミフなんですが……」
◆ ◆ ◆
超絶リアル美人アンドロイド義理子は話を続けようとしたが、結局アラトがそれを遮り、自分の部屋から外へと出ていった。
行く当てもないアラトだが、庭園の中で人目を遮る雑木林の中に入り込んだ。
すると、その奥に先客がいたようで、人影が走りだす。その人影はその場から逃げだすようにホテルに向かって駆けていく。遠目でもセーラー服を着た少女だとわかった。
「あの、ちょっと!」
アラトは咄嗟に声を掛けたが、少女は一目散に姿を消していった。
「あぁーあ、せっかくほかの出場者と話ができると思ったのに……。まぁ、仕方ない。あのセーラー服、間違いなく日本人だよね。宇宙人によるJKコスプレだったら、さすがに激怒しちゃうよ」
ブツブツ独り言をいいながら、そのまま林に隠れて座り込む。
(もう、イミフの連続で……)
精神的に疲れているのか、その場でウトウトしてしまった。
パッと目を覚ますと、体育座りのまま意識を失っていたことに気づく。
「あ~、もう部屋に戻りたくない。といっても、結局わからないことだらけで、先輩の説明聞かないと、な~んも納得できないんだよねぇ」
はぁぁぁ~~~、と大きな溜息をつく。
「ふてくされてばかりじゃ、何も解決しない! 正面から対峙して、きちんと世界征服したというロボットの話を聞こうじゃないか!」
アラトは結局、息巻いて部屋に戻ることにした。
◆ ◆ ◆
案の定、義理子先輩はアラトの帰りを待っていた。
「話の続きを聞きます、先輩。いや、もう、ギリコ・コーポレーションが嘘なら、先輩じゃなくて、ギリコでいいよね!」
「はい、構いません。最初にそう申し上げましたから」
「それと、この際だから言わせていただきますが、僕を『シンジンさん』と呼ぶのは止めていただけないでしょうか」
「わかりました。尾暮さんでよろしいですか?」
「一応、アラトでいいよ」
「それでは、アラトさんと呼ばせてください」
「わかった。それでいい」
「ありがとうございます。アラトさん」
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