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第一章 デス・ストーリーは突然に その3

1.2 謎のリゾートホテル 前編


 つい先ほど入社の手続き——3か月間の試用期間あり——を済ませたアラトと人事部の義理子先輩は、アラトのアパートを出発し東急東横線の日吉駅方面に向かって歩いている。


 アラトはその超絶美人先輩のナナメ後ろを遠慮がちにコソコソとついて歩いていた。


 思わず顔がにやけてくるので、彼女にバレないように顔を隠す。生きてて良かった……、としみじみ幸福感に浸っていたが、色々と疑問が湧いてきた。


「あの~、義理子先輩」


「はい、なんでしょう?」


「結局、僕はいったいどんな仕事をするんでしょうか?」


「はい、我社が取り組む事業は、主にアパレル、介護、新商品試用テスト、ロケットエンジン開発です。さしあたって、アパレル関連のテストパイロットをお願いするつもりです」


「アパレル関連ですか、わかりました。でも、僕、服のデザインとかファッションセンスとかまったくダメですけど、大丈夫ですか?」


「はい、まったく問題ありません。すぐに慣れますから」


「良かった」


 何がどう良いのか別として、ちょっと意味がわからなかった。そのまんま率直に、『ちょっと何言ってるかわかんないです』と返したいけど、怒られそうなのでグッと我慢した。


(この先輩、表情一つ変えないんだよなぁ~。なんというか、パーフェクト・ウーマン? 頭叩いても表情まったく変えないような気が……、ちょっと試してみたい)


「新人さん、着きました。このビル内に、わたくしたち当面のオフィスの入口があります」


(入口? オフィスそのものでなく、入口? それに、ウチのアパートから歩いて20分くらい。異様に近いんだけど、偶然なんだろうか)


「では、エレベータで5階まで」


「はい」


 至極普通のオフィスビルに入るなり、エレベータに乗って5階を目指す。5階フロアで降りて、とある部屋に一緒に入っていく。


 事務所と思った部屋はガラ~ンとしていて、何もない。奥の壁に別のドアがあるだけで、窓すらもない。


「さぁ、着きました新人さん。早速、現地に向かいましょう」


「え~と、ここが現地ではなく、また別の場所に、ですか?」


「はい、では、新人さん、隣の部屋へお先にどうぞ」


「わかりました。このドア……」


「『どこにでもあるドア』です」


 義理子先輩は、まるでそのドアに名称でもあるかのように答える。


(そうでなくて、何の部屋か訊きたかったのに。まっ、いいんですけどね。あまりこだわると、面倒くさい新入社員とみなされるので、ここは無心になって先へと進もう!)


 ドアを開けた。と同時に、一瞬クラッっと立ちくらみが襲ってきた。吐き気も催したように感じて目を閉じる。


(なんか、気分悪い)


 しばらく間をおいて、ゆっくり目を開ける。


「あれっ?」


 どう考えてもおかしい……


 開けたドアの向こう側は、どこかの庭園のような場所で、澄み切った青空が広がっている。


(ここは5階のはず。ビルの中に外? んなっ、アホな!)


 咄嗟とっさに振り向いて、超絶美人先輩に疑問を投げかけようかと思い……、


「どわっ、じっ……」


 振り向きかけた瞬間、背中をドンと強く押され、謎の庭園へとゴロゴロと転がっていった。


(これって、押すな! 押すな! のお約束ネタじゃないよね。ちょっと変な声出しちゃったけど)


 いてて、と痛そうに腰をさする。ホントは全然痛くもかゆくもなかったが、痛がって見せれば、ちょっとは優しくしてくれるかなと、淡い期待をしてみた。


 案の定……、


「さぁ、新人さん、先へ進みましょう」


 冷たくあしらわれるのだった。


 そこはまるでリゾーチ地に来たかのようなだだっ広い庭園で、手入れも随分行届いている。要するに、誰か世話をする人がいて、客人をちゃんと迎え入れていることがうかがえる。


 気温と湿度とバランスがいいのだろう。暑苦しくなく、過ごしやすい南国リゾート地を彷彿させる。


(まぁ、もちろん、そんな場所行った経験なんてないけど)


 義理子先輩が相も変わらず、人の気も知らずにスタスタと歩き出し、アラトを置いてきぼりにしようとする。


 先輩の進行方向に目を向けると、超豪華な南国リゾートホテルらしき建物の姿が突如として視界に入ってきた。


「はえっ?」


 それは圧倒的な存在感。周囲に他の建物が見当たらないせいもあるが、『ここを目指せ!』とホテルが訴えている。


 L字型の建物構造で10階以上はあるだろう。とにかくデカいしハデだしヤシの木に囲まれているし、旅行会社の南国リゾートツアーパンフレットの表紙を飾りそうな見事な外観だ。


 この異常な状況でなければ、アラトも大興奮するだろうに、ますます混乱してしまう。


 ただただ通り抜けてきたと思われるドアが気になって、後ろを振り返った。庭園の芝生の上にそのドアがポツンと、文字通りポツンと立っている。


 義理子先輩が『どこにでもあるドア』と称したドアが、紛れもなくそこにある。大きさ、色、デザイン、間違いない。ドアだけが立っているのだ。他に壁もオフィスも、オフィスビルそのものも存在しない。


 アラトはドアに駆け寄り、ドアを開けてみる。しかしドアの向こうも同じ庭園の景色だ。


 尾暮新人、23歳、大学卒業済み。アラトの年齢層にふさわしい程度に、映画、アニメ、漫画、ラノベ、ゲームの知識はある。


 この手の現象は大概、テレポーテーションとか別世界にワープしたとか異世界に飛んできたとかというのが定石だ。


(ん~ 困った。謎だ。謎だらけだ。しかも、元の世界に戻れるのかも非常に怪しい。ちなみに、義理子先輩は妖しい)


 しだいに、義理子先輩の姿が遠く小さくなっていく。怖くなって先輩のもとへとダッシュした。


「せんぱ~い!」


「はい、どうしました、新人さん」


「いえ、その、ここはどこですか?」


「あら、お伝えしませんでした? わたくしたちが当面過ごすオフィスに行くと」


「いや、まぁ、そうなんですが」


「新人さん、僧なんですか?」


「僧ではありません」


「新人さん、遭難したのですか?」


「おぉ! ある意味、これは遭難かもしれません!」


「ご安心ください。遭難はしていません」


(今のやりとり何だったんだ? 会話噛み合ってる? 夫婦漫才? 先輩は天然? 僕はアンポン? 何が何だかわかんなぁーい!)



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