第十章 帝王VS悪魔 その1
10.1 第一回戦第五試合 帝王VS悪魔 対戦情報
観戦モニターに表示された対戦情報より。
闘技場について。
本試合の闘技場はCタイプ。クリミナルターミネーターZと宇宙生物サーペントXが対戦した会場だ。
内壁が真っ白なコンクリートの密閉空間で障害物は無い。直径500mのドーム型、ドームの頂点は高さ250m。
魔王ガリュウザについて。
天の川銀河帝国の帝王。
超人パワーを有する。詳細は不明。
悪魔クロノスサタンについて。
悪魔魔術を行使する。詳細は不明。
§ § §
10.2 帝王VS悪魔 試合開始前 闘技場
『シアイカイシ、3プンマエ』
ドーム状密閉空間の中央付近に人影が二つ、同時に転送されてきた。両者の距離は100mほど。向かい合うように姿を現す。
モニター画面の左手側の人影について。
体長およそ200cm。超人インヴィンシブル・スターに勝るとも劣らない筋肉質な体躯、緑色の肌。
上半身は裸に黒のベスト。闘牛系の巨大な角が2本生えている銀色の兜、両肩にトゲトゲしい銀色の巨大プロテクター、銀色のガントレット、銀色のブーツ。
兜、ガントレット、ベルト、ブーツの両膝の計6箇所に、銀色の鬼のお面が付属する。2本もしくは4本の角を生やした鬼面は、赤い双眸に牙を剥き出し、邪悪なオーラを発している。まるで鬼の魂がそこに宿っているかのように。
そして帝王の威厳を示さんばかりにケープをまとう。
見た目だけで『帝王』であろうことが想像できてしまうほどの存在感と威圧感。
モニター画面の右手側の人影について。
全体の印象は30~40歳代、細身の紳士的男性。
中世の欧州貴族を彷彿させるロングコートにベスト、白シャツを首元からのぞかせる。光沢のある緑色をベースに金色の細かいデザインが高級感を醸し出す。
貴族らしい整った口髭、天然パーマ系の黒髪に小さめの角が2本生えている。
対峙する帝王と悪魔。距離にして100mほど。
「あなたが銀河の帝王ガリュウザですか。フフ、お会いできて光栄です。ずっと会いたいと思っておりました」
貴族風の悪魔が、銀河の帝王に話しかける。丁寧な口調であるが、挑発的な態度にも見えた。
「貴様が悪魔か? なぜ、ここにいる?」
帝王は『悪魔』の存在に動じることもなく威風堂々、冷徹な表情を浮かべたまま質問で返した。
「はい。わたしは下級の悪魔でして、たかだか齢千年、上級悪魔には若造扱いされています。上級悪魔はあなた方が存在するこの物質界を忌み嫌っていましてね、空気が臭くて息苦しいと。だから、誰も魔界から出ようとしません。
そんな訳で、若造のわたしが雑用を言い渡されました。まるで小間使いですよ」
「だから、何だというのだ」
「いえね、ちょっと探し物がありまして。見つけたら魔界に持って帰れとのお達しでしてね。困ったものです」
「我にはどうでもいい話だ」
「それならばよろしいのですが……
そうそう、もう一つ思い出しました。あなたはなぜか魔人と名乗っていますね。それはおかしいです。
魔界に住む悪魔がこの物質界に顕現化するためには、こちらの世界の生物に憑依する必要がありまして。わたしがそれです。
この人間の肉体をたいへん気に入っておりましてね、おかげで、ここにこうして実在できるわけです。わたしのように悪魔がこの世界に降臨した存在を『魔人』と呼んでいるのですよ。
しかし、あなたは違う。あなたはどこかの星の生き物。魔術も使えないはずなのに、どうしてあなたが魔人と自称するのか、不思議でしてね」
『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』
§ § §
10.3 帝王VS悪魔 試合模様その一 帝王側
『……3、2、1、ゼロ』
試合開始の合図と同時に、猛スピードで走り寄った帝王は、悪魔を殴りかかる。
「ならば、貴様が魔人と名乗ればよかろう!」
悪魔の太腿ほどもありそうな腕を振って繰り出された帝王の拳が空を切る。突進を察していたのか、悪魔は浮遊魔術で宙に回避していた。
「悪魔にも不要な矜持がありましてね、魔人と称するのは嫌いなのですよ」
帝王は悪魔の無駄口を無視、宙に浮かぶ悪魔をめがけてジャンプ追撃するが、またもや大振りのパンチは空を切って着地した。
地表から悪魔を見上げる帝王。一瞬瞑目して意識を集中。
全身の気を充実させるかのように身を屈めたかと思うと、次は胸を張って全身から闘気が漲る。全身から発散されるオーラで、周囲の空気が歪んだ。
両腕の緑肌が剥き出しとなっている筋肉に緊張が走り、気力が収斂される様子が見てとれる。右手を後ろに引き、その場でパンチを繰り出すような構え。
「凄まじいオーラが見えます。素晴らしい!」
悪魔がつぶやき、口角がクイッと上がると挑発的な笑みを見せた。
同時に、悪魔を取り囲むように、小さな円形魔法陣が宙に多数出現。円形魔法陣それぞれの中央に、ミサイルのようなエネルギーの塊が顔を出す。
「さて、わたしの破壊魔法弾と勝負といきましょう」
「ふん、黙れ! 百裂闘気光弾!」
帝王が気合とともに、両腕で空を殴るようにしてストレートパンチを連打。上空に向け両拳から闘気の塊——闘気光弾——を、気勢を上げて交互に連射した。
「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃ」
悪魔も闘気光弾に応戦するように、円形魔法陣からエネルギー弾——破壊魔法弾——を地表に向け次々と発射。
双方の破壊エネルギーが光の銃弾のごとくぶつかり合い、相殺されていく。無駄に終わった攻撃であるにもかかわらず、余裕の笑みを浮かべる悪魔と、冷徹な表情をまったく変えない帝王。
帝王が続けて右手だけ前にかざしガッツポーズ、そこに闘気を収斂し始める。腰を捻り右手をグッと後ろに引いた。
「死ねぇ! 煌破闘気光線! どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」
帝王がパンチを振り抜いた姿勢で止めると、拳から極太の闘気光線が照射され、悪魔めがけて直進する。
悪魔も円形魔法陣から破壊魔法弾を斉射するが、ことごとく闘気光線に呑み込まれ消滅。
闘気光線が浮遊する悪魔を確実に捉えたかに見えたその刹那だった。
「バカなっ!」
驚愕する帝王。
悪魔の姿は瞬間的に数メートル離れた位置へと移動していた。真横にスライドしたかのように。
帝王は悪魔の姿を視界からいっさい外していなかったにもかかわらず、真横に移動する挙動を目撃していない。パッと消えた瞬間、パッと現れる感覚。つまり、時間的にゼロ秒で存在する座標を変えたのだ。
「貴様ぁ、いったい何をした!? 瞬間移動か!」
「惜しいですね。ですが違います。それよりも……。
やはり、あなたの攻撃は魔術ではない、そうですね帝王ガリュウザ」
悪魔のこだわりに応えるように、冷酷な笑みを浮かべる帝王。
「では、我の魔術で死ぬがよい!」
上半身裸にベストを着ている帝王、晒している分厚い胸板から丸いガラス玉が出現する。文字通り、隠され埋もれていた肉体から沸くように浮き上がってきた。
「「「「「「「マリオネット・バインド!」」」」」」」
七つの異なる声が同じ呪文を同時に唱え、パァンとクラップ——柏手を打つ要領で一回だけ両手を合わせて叩く——した。
帝王の口と六つの鬼の口が発した呪文。つまり、兜の額部分、両腕のガントレット、ベルト、両膝の計6箇所にある鬼のお面だ。
『マリオネット・バインド』——傀儡の束縛魔法——が発動し、悪魔は全身を見えない力で束縛された。浮遊したまま金縛り、表情一つ変えられない。
「減らず口もそこまでよ! 我がこれまでに倒した魔物を鬼面に封印し、呪文を詠唱させることができる。これが我の能力だ」
束縛魔法によって口元も硬直、会話もままならない悪魔。
「貴様も悪魔なら知っていよう、魔宝玉、別名『七つの大罪』を!」
帝王はここぞとばかりにニヤリ、胸板に出現している七色の丸いガラス玉のような物体を見ろとばかりに胸を張った。
その魔宝玉と呼ばれる物体は、テニスボールサイズのガラス玉のようなもの。その玉の中には大きさの異なる七色——白、青、緑、黄、橙、赤、紫——のビー玉らしきものが多数浮遊し、自在にうごめいている。
単なるガラス玉のようなデザインであるにもかかわらず、七色の玉は神秘的なオーラを放っているのだ。
「七色の玉は『七つの大罪』の悪魔パワー、すなわち傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰を象徴している。
はるか昔、七人の上級悪魔がおのおのの悪魔力をガラス玉に封じ込め、一つにしたものがこの魔宝玉なのだ!
しかし、魔宝玉を所持するだけでは何の役にも立たない。
価値ある物にするためには、同一人物が七つの呪文を同時に詠唱しなければならない。しかも七つの異なる口が発する同時詠唱だ。
さすれば、魔宝玉が悪魔界とのゲートを開き魔法エネルギーをこの世界に流入、悪魔術を行使できるようになる。
それを可能にしたのが、唯一、銀河系で我のみということなのだ。ゆえに、我は魔人となった!」
腕を組み、満足げに語る帝王。勝利を確信し余裕の表情。
「貴様が悪魔といえど、七人の上級悪魔と同等の魔力に抗うことはできまい!」
両手を開いて突き出し、浮遊する悪魔に向ける。
七つの異なる呪文を、七つの口で詠唱し始めた。
『マリオネット・バインド』は同じ呪文であったが、この呪文は異なる7種類の詠唱。しかも詠唱が長い。2分ばかりブツブツと七つの口が唱え続けた。
詠唱が終わると同時にパァンと1クラップ。
「死ね!」
浮遊していた悪魔が地上へと落下し、床に倒れ込んだ。
死の瞬間も認識することなく死んだのか、目を見開き無表情のまま倒れた肉塊から生気はいっさい感じられない。
帝王の予告どおり、悪魔は死を迎えた。
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