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第九章 義理子先輩の正体 その2

9.1 義理子先輩の正体 後編


「あなたは人間じゃない! そう、ロボットなんだぁ!」


 アラトは涙目になりながら、義理子先輩に訴えた。


「そうですか。ついにばれてしまったのですね」


「先輩を信じていたのに、いや、一生懸命信じようと努力した! でも、何もかも嘘なんだ! 一体全体、どこまでだましているんだ! この大会の殺し合いも全部嘘なんでしょ?」


「大会の試合は全部本物ですよ、新人さん」


「ウソだぁぁぁ! そんなの絶対ウソだぁぁぁ~」


 アラトは大声で叫びながら、覆い被さっていた義理子先輩から離れ立ち上がる。そのまま振り返りもせず、ホテルに向かって走りだした。


 アラトは濡れた海パンのまま自分の部屋に駆け込み、勢い余って床の上で転んでしまった。うつ伏せのまま、片手で床をドンと叩く。


「なんなんだよぉ、いったい!」


 そのまま黙り込んで、部屋が静まり返った。


 掛け時計の秒針が、チッ、チッ、チッと音を立て動いている。


 数分後、玄関ドアからノック音が聞こえ、義理子先輩がオズオズとアラトの部屋に入ってきた。


「すみません、新人さん。だましていたことは事実です。ですが、どうしても新人さんに協力してもらう必要があります。いえ、新人さんが必要なんです」


「そんなことより、あんたの正体はいったい何だよ! ちゃんと説明しろよぉ!」


 若干の間。


「はい。わたくしはアンドロイドです。人工汎用知能を搭載した、人類初の完全人型AGIロボットです」


「いろいろおかしいと思ってたんだ……。昨日の質問だって……」


「はい。説明させていただきます。

 今までは身体を持たないコンピュータが、ネットや書物などの二次元情報を中心に知識を得て、あるいは人類と対話することで、人間脳に近い人工知能を開発してきました。

 そして、昨今の作業特化型ロボットによる膨大な行動情報蓄積により、不得意としてきた三次元世界の空間把握能力、空間移動能力が飛躍的に進化、アンドロイド製造技術のベースとなる超高速三次元情報処理能力を獲得しました」


「ややこしいけど、ちょっとはわかる。ちょっとは」


「そして外見で人間と区別がつかない、人類初の完全人型AGIロボットが誕生したのです」


「にしちゃ、妙に会話が嚙み合わないことあるよね。あれって、AIによくあるハレーションじゃんか!」


「それを言うならハルシネーションです」


「あと、全然空気読まないとかさぁ!」


「空気は読めません。空気に何か記述があるのですか?」


「それだよ、それ! 空気は読むものなんですぅ!」


「勉強不足でたいへん申し訳ありません」


「ハハ、まぁ、とにもかくにも……」


 アラトは、ようやく寝そべっていた身体を起こし、義理子先輩に背中を見せるようにあぐらをかいた。背中を丸め、顔を隠す。


「だ、だから、そんな超絶リアル美人なんだよなぁ。もう、顔がAI生成画像だもん。こんな美人、そうそう現実に存在しないよ……」


「おめいただき、誠にありがとうございます」


「で・も、人型ロボット? ヒューマノイドであることに変わりはないよぉ!」


「補足します。

 頭部と両手足があって二足歩行で行動する人型ロボットの総称を、人間社会では『ヒューマノイド』と呼んでいます。街中で見かける作業用機械を含めまして。

 ですが、わたくしのように人間と区別できないほど精巧に造られたヒューマノイドを、『アンドロイド』と称してカテゴリーを区分しています」


「そんなん、どっちでもいいよ!」


「申し訳ございません。わたくしが本物の人間であれば、お詫びとして何か償う方法があるのかもしれませんが。単なる超絶リアル美人アンドロイドでは、いかんともしがたく。

 あぁ、いったいどうすれば、新人さんにご満足いただけるか……」


 アラトは急に赤面しながらワタワタと焦った。


「ほ、ほ、ほかにも疑問はたくさんある。最初の日にわざわざビーチに誘い出したのは、どうしてなんだよぉ」


「はい、ここが閉鎖空間で逃げ場がないことを、新人さんに認識してもらうためです」


「やっぱりそうか。変だと思ったんだ……」


 義理子先輩が間を置いて切り出す。


「それで、どうして今回はわかったのですか? わたくしの正体に確信を得る理由はなんだったのですか?」


「それは、説明しなくちゃいけないのか」


 急に、小声になるアラト。


「はい。お願いします」


「……」


「お願いします」


「……絶対に?」


「はい」


「マネキンおっぱい」


「へ? ……いえ、どういうことでしょうか?」


「マ・ネ・キ・ンおっぱいぃ!

 あのね、義理子先輩のおっぱい、カチカチ山なんですよぉ! もう、他に誰もいないし、正直にお答えしますが、だいたい男って生き物はぁ、女の人に抱き締められたら、あぁ、おっぱいの感触味わえるって、ついつい期待しちゃうもんなんですぅ! 知りませんでしたかぁ?

 で、それはまるで鉄球のように硬かったんですぅ、痛いぐらいにぃ! そんなん、失望しちゃうじゃないですか! もう意気消沈ですよ、ホントにもう!」


「そうだったのですか。それは一昨日のことで、今日はいったい何を」


「はい、はい、そう思いますよねぇ~」


「はい、不思議です」


「ついでにお答えしますとぉ、男は、そのぉ、揺れを堪能しちゃう生き物なんですぅ! 初日の水着で、なんでこの人のは揺れんのよぉっ、って、そりゃもうモンモンと注目するんですぅ!

 そのビッグサイズで、揺れねぇのオカシィヤロォーって、男ならみんな大騒ぎですよぉ!」


「なるほど、お勉強になります」


「そんでよねぇ、今日はじっくり観察して、かつ、そのカチカチ山をしっかり再確認しようともくろんだわけなんですぅ!」


「それで、確信を得たわけですね。わたくしを抱擁して」


「そゆことなんですぅ!」


 アラトは超恥ずかしい話を、顔を真っ赤にしながらいっきにまくし立てて説明し終えると、酸素不足を補うように、ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁと呼吸が荒くなった。


「劣情を催して扇情的になった事情を理解いたしました。これ以上ない勇気爆発ドカドカドッカーン、ありがとうございます。

 それであれば、キャプチャーモーションでリアルな揺れのデータを大量に入手し、可能な限り早く、より実物に近い物に改善いたしますので、それまで待っていただきたいです。

 是非とも、ご期待くださいませ」


 と、超絶リアル美人アンドロイドの義理子先輩は、デパートで礼儀正しく案内をする綺麗なお姉さんのように、両手を前に揃えて丁寧にお辞儀をした。


「さて、モデルさんが100名ほど必要ですわ。グラビアアイドルの事務所に問い合わせしてみましょう。50件ほど連絡を」


「……」


「新人さん……」


「なんだよぉ、今、僕のこと、すんげぇ変態と思ってるでしょ! でも、仕方ないよね、直接モミモミするわけいかんしぃ、ほかに方法無かったしぃ」


「はい、仕方ないと思います。ですが、この話は、絶対にここだけにしたほうがよろしいかと思います。男性はともかく、女性にこの話を知られたら、一生、変態のレッテル貼られます」


「わかってるよ、それくらい。でも仕方ないもんは仕方ない。どうせ、ぼかぁ、IQ3しかないですからねぇ」


「それで、新人さん」


「あぁー、もぉー、うるさい! 僕はねぇ、怒ってるんですよぉ! 今日はここまで! まだまだ納得いかないことは沢山あるんですぅ!」


「わかりました」


 義理子先輩はあっさり引き下がった。


「本当にごめんなさい。どうか、機嫌を直してほしいです」


 深々と頭を下げ、部屋を出ていく。


 最後まで義理子先輩の顔を見ることなくしゃべっていたアラトだが、終わり間際の謝罪だけチラ見をした。


 バクバクと心臓の激しい鼓動が収まらない。とにもかくにも顔から火が出るくらい恥ずかしかった。



 §   §   §



9.2 大会五日目の朝 アラトの部屋


 大会五日目の朝、そろそろ9時だというのにアラトはベッドから一度も起き上がっていない。第五試合を観戦しようという気もない。


 義理子先輩はアラトの不機嫌を察していたかのように、9時5分前、つまり試合開始直前に部屋に入ってきた。


「おはようございます、新人さん」


「……」


「すみません。いつものように一緒に観戦させてください」


「……」


 アラトは掛け布団を頭まで被り、何も答えない。


 無言の二人。観戦モニターの音声だけが部屋の静寂を破る。



【ポイント評価のお願い】

 数ある作品群から選んでいただき、そして継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。

 誠に図々しいお願いとなりますが、お手間でなければ、ポイント評価をお願い申し上げます。

 どうも有難うございました。


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