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第九章 義理子先輩の正体 その1

9.1 義理子先輩の正体 前編


 第四試合を観戦し終えて、アラトは上機嫌だった。


 第二試合、第三試合と凄惨な対戦内容が続き、心が折れていた。が、本日の人間同士のバトルは楽しめたし興奮もした。


 もちろん生死が関わる対決であることに変わりはないのだが、少なからず怪獣系統の試合よりは安心できる。


「先輩、ちょっとお願いがあります」


「なんでしょう、新人さん」


「あのですね、毎日、観戦は午前中で終わるじゃないですか」


「たしかにそうですわ。たまたまかもしれませんが」


「この先も仕事が毎日続くってことはですね、休日がいっさいないってことになります。

 で、今日の午後だけでいいので、先輩と一緒に遊びたいなぁ~、と思っているですが、いかがですか? もちろん、この先ずっと休日返上で頑張りますので」


「わかりました。遊びというのは具体的に何をするのですか」


「ここで遊ぶのって、ビーチぐらいしかないじゃないですか」


「はい」


「なので、ビーチで遊びたいかなぁ~って。もちろん、水着で水遊びですけど」


 アラトは腰を低く落とし、両手で合唱のポーズをしながら上目遣いで、お願い、という表情を作ってみせた。


「わかりました。わたくしがスッポンポンでビーチに行けば、新人さんに喜んでいただけそうですわ」


「はい、ぜひとも! じゃなくて、今回はそこまでしなくてもいいです。一応、エロ水着……もとい、普通の水着を着ていただければ」


「わかりました。では、『男性が喜ぶエロエロ水着大特集カタログ』をいったん部屋まで持参しますので、どれが好みか選んでいただいたうえで……」


「いや、もう前回の水着にしてください! あれがいいです!」


「わかりました。でも、残念ですわ。せっかく新人さんが喜びそうな水着を沢山準備しておいたのですが」


「えっ、ホントですか? じゃ、やっぱりそのカタログを見て……」


「それでは、1時間後にビーチで待ち合わせしましょう」


「じゃ、カタログ見るだけでも……」


「のちほど、また」


「…………」


 と、義理子先輩は軽く会釈して部屋を去っていった。


「ヨシッ、うまくいったぞ!」


 と言いつつ、パチッ、と指を鳴らす仕草をしたが、カスッ、としか音が出なかった。残念なアラト。



 ◆   ◆   ◆



 アラトは昼食を済ませた後、ビーチにて義理子先輩を待つ。


「新人さん、お待たせいたしました」


 アラトの希望どおり、義理子先輩は初日で見たピンクの水着を着てビーチに現れた。


「先輩、お似合いですよ」


 ニコニコと愛想笑いを見せるアラト。


「嬉しいですわ、新人さん」


「さ、さ、水遊びしましょう」


「何をすればいいのですか」


「決まってるじゃないですか、水を掛け合うんですよ!」


「わかりました」


 今日はいろいろと大胆に行動する決心をしていたアラトは、恥ずかしい気持ちを抑えて義理子先輩の手を引き、波打ち際まで駆け寄って浅瀬へと身を投じた。


 何を隠そう、アラト自身こんなバカップルシーンは人生で経験したことはない。交際歴が無いわけではないが、アラト的には結構恥ずかしい。


 超絶美人の手を引くという行為自体テンションアゲアゲになるが、決して彼女を口説こうとしているわけではないので羞恥心しゅうちしんも抑えやすい。つまり程よい興奮と程よい緊張がバランスよく混在し、ふだんはできない大胆な行動を可能としているのだ。


「それっ!」


 義理子先輩に海水をピシャッと軽く浴びせた。


 無反応の先輩。


「楽しみましょうよぉ~、先輩! それっ! エイッ!」


 ラブコメの『カップルビーチ編お約束水掛け合いシーン』を演じるが、いかんせん、海の奥行は砂浜から3mから4m程度しかないので狭くてしかたない。その向こう側は海を投影した壁なのだ。


 義理子先輩は無表情にジッとアラトを見つめながら棒立ちしている。おもしろくないのか、それとも躊躇ちゅうちょしているのか簡単に乗ってこない。そりゃそうだ。部下相手のムチャぶりを、会社の先輩にお願いしているのだから。


「ほら、先輩も反撃してください」


「いいのですか?」


「もちろんですよ」


「エイッ!」


 ジッとしていた義理子先輩が急にアラトのノリに合わせるようになった。先輩のぎこちない挙動からして、人生で初体験らしい。


 先輩がせっかく乗ってきたので、アラトは羞恥心をかなぐり捨て、むりやり笑い声を出して続ける。


「アハハハハハ、アハハハハハ」


 アラトが弾けるようにエンジョイした姿を見せると、先輩もノリノリでハシャギ始めた。それとも見よう見まねなのだろうか。


 今までに見せたことのない笑顔を浮かべ、アラトに水を掛けられては、キャ、とか騒ぎながら乙女チックに逃げ回るのだ。これにはアラトも意表を突かれる。


「なんか生温かい海水だけど、冷たい! それっ、反撃!」


「もう、新人さんばっかり、わたくしの攻撃も受けてください!」


「え~、嫌ですよ~」


 と言いながら義理子先輩に急接近するアラト。目の前で海水を掛けるフリをすると、義理子先輩が逃げようと勢い余って、後方へ倒れる。


「危ない、先輩!」


「きゃ!」


 二人は同時に砂浜に倒れ込み、背中から仰向けに倒れた先輩の上に、正面から抱き合うようにアラトが倒れ込んだ。


「大丈夫ですか、新人さん」


「……」


「新人さん?」


 明らかに二人が抱擁ほうようしている体勢となっているのだが、義理子先輩は嫌がることなくアラトの顔をのぞき込む。


 アラトは先輩をにらむように、怒った顔つきに豹変していく。


「先輩……」


「はい」


「やっぱり先輩は詐欺師だ。僕をどこまでだませばいいんですか。何がおもしろいんですか」


 アラトの声はいつもより低くゆっくりとしゃべり、むしろ怖いくらいに落ち着いている。怒りの沸点が、限界に達する直前だ。


「どうされました、新人さん」


「『新人さん』じゃない! 変だと思ったんだ! おととい、第二試合の後、僕をそっと抱き締めてくれましたよね。僕はあの時、とっても嬉しかった! 先輩が優しくしてくれて。でも、あの時わかったんだ! あなたは人間じゃない! そう、ロボットなんだぁ!」



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