第八章 未来人VSトレジャーハンター その2
8.4 未来人VSトレジャーハンター 観戦模様その一 アラトの部屋
現地で戦闘中の二人を追う虫型の超小型ドローンカメラは、バイクの迫力ある疾走を間近で捉えていた。
アラトはその臨場感あふれる映像に魂を吸い込まれ、瞳をウルウルさせ感動で胸がいっぱいになっている。頭の中はまさしく映画のワンシーン、エキサイティングするBGMが幻聴のごとく流れていた。
「先輩、先輩、先輩、義理子先輩! やばいッス、カッコイイッス! なんなんスかこの試合、まるで映画? ロマンあふれすぎです! もう死むぅ~、死むぅ~」
アラトは興奮のあまり、無意識に会社の上司、義理子女史の両肩を掴んで揺さ振っていることに気づいていない。
「あら、あら、あら、あら、あら……」
§ § §
8.5 未来人VSトレジャーハンター 試合模様その二 トレジャーハンター側 前編
トレジャーハンター、ジョーの後方は背の高い密林地帯。
「ヌフフフ、高いポジション維持できる絶好ポイントあったぜ」
スミスが再度、ジョーへと向かってきた。
ジョーはウエストポーチからおもむろにメタルシルバーの幾何学文様が入った卵型アイテム——シールドカプセル(封印カプセル)——を三つ取り出した
「まずはお前たちミノタウロス三兄弟、頼んだぜぇ!」
メタルシルバーの卵を三つ地面へと放って割れると、小さな爆発音と発光が起き、白煙が立ち上る。その煙の中から、ミノタウロスが1体ずつ、計3体出現した。
シールドカプセルはモンスターを封じ込めて再利用できるアイテム。ジョーはこれまで、世界各地で遭遇したモンスターどもを封印しストックしてきた。
再利用といっても従属させて使役するのと異なる。
知能の低いモンスターはジョーと他の人間の区別ができず、知能の高いモンスターであれば共闘交渉の余地がある。
つまり一度封印されたモンスターが封印を解かれ出現した際、目の前の人間を本能的に襲い出し、同時にジョーに襲いかかることもありうるのだ。よって、ジョー自身も襲撃されないように立ち回り、要領よく活用しなければ、まさしく諸刃の刃となってしまう。
モンスターが瀕死状態になれば自動的にシールドカプセルに再封印され、数日後には再び利用可能になる。
ミノタウロスは頭が牛、胴体が人間、柄の長い巨大な石槌を武器として使用するパワー型モンスター、体長およそ250cmの巨躯。
スミスの疾駆するバイク正面にミノタウロス3体が立ちはだかった。
これには無表情のスミスも驚愕したはずだが、サングラスのせいで表情が読み取れない。
咄嗟にハングオンで弧を描くオフロードバイク。
「げっ、なんという奴! ダートでハングオンできんのか! どんなテクニックだぁ!? それとも未来の秘密兵器か!?」
驚嘆したのはむしろジョーだった。
しかし、豪快な疾駆音と砂煙でモンスターを刺激し、後を追われるスミス。彼のバイクがジャックナイフで突如後輪を浮かせたと思いきや、そのまま高度なコントロールセンスで180度ターン、背中を見せていたはずが、モンスターと向かい合った。
「ニヒヒ、逐一魅せるねぇ、未来人! アクションスターかよ!」
ジョーは独りごちると、自身も曲芸よろしくモビルスケートとサーカスアンカーを駆使しながら後方の密林地帯へと向かう。
アッという間に林の中へと姿を消した。
一方のスミスは、急発進から石槌を振り上げる3体のミノタウロスに突撃敢行、バイクのラジエータと思しきパーツに内蔵された機銃2門と2発の小型ミサイルが顔を出した。機銃を乱射し牽制、同時にミサイルを発射。
真正面からミサイルを食らい倒れる2体のミノタウロス。中央にいたミノタウロスは、バイクの凄まじい体当たりを食らって吹っ飛ばされる。
瀕死となった3体のミノタウロスは、シールドカプセルに再封印された。
「ナハハ、バイクに機銃とミサイル装備。まぁ、それくらいのギミックはあって当然! しかし、まるで歯が立たねぇぜ」
大木に登り、枝の上から様子をうかがっていたジョーがぼやく。
スミスはまっすぐ密林へと向かってくる。続けてミサイル2発が発射された。
「チッ、こっちの動きは丸わかりってわけか、油断もなにもあったもんじゃない!」
ジョーが立っていた大木にミサイルがヒット、幹が粉砕され倒れた。
ジョーの曲芸も磨きがかかっている。
左右のサーカスアンカーを交互に射出、アンカー巻き戻しを繰り返し、ターザンのごとく宙を舞って森林を駆け抜ける。ジャングルや高層ビルが立ち並ぶ都会においては、サーカスアンカーの曲芸移動の方が地表を駆けるより遥かに速いのだ。
それでも、スミスの最強バイクは道なき道をかい潜って迫ってきた。
「次はお前さん方だ、よろしくな!」
新たなシールドカプセルを二つ取り出したジョー。
2個のカプセルを地上に向け放り投げると、色違いのゴーレム2体が現れた。灰色のストーンゴーレム、黄土色のサンドゴーレムだ。
体長15mと17mの巨漢は、密林から上半身がはみ出し、周囲の大木を屈強な腕力で薙ぎ倒す。文字通り我が道を行く。見た目も迫力も、まるで巨大化したゴリラだ。
密林地帯を脱出したスミス。2体のゴーレムは凄まじい破壊力を誇示するが、移動速度は人間の徒歩に近い。
2体の鈍さを活用し、ヒット&アウェイで機銃とミサイル攻撃を試みる。
「ヌフフ、未来人さんよ、残念だが、そんなミサイルごときじゃ倒せないぜ、その巨人たちは」
ストーンゴーレムの肉体は名前のとおり頑強な岩。サンドゴーレムは破壊されようとも何度でも再生可能な砂の肉体。
ジョーの思惑どおり、未来人の苦戦は必至だった。
「まずは足を奪う!」
ジョーは木陰を移動し徐々にスミスのバイクに接近。バイクが十分に近づいたところでタイヤを狙い撃ちした。
ジョーが発射したコルトパイソンの弾丸は、見事、後輪タイヤに命中。しかし、それとわかる特徴的な跳弾音と火花を発し弾かれた。
「チッ、防弾タイヤ! 当然か」
すると、スミスがジョーに目線を向ける。およそ50m程度の近距離、ワルサーPPKで反撃してきた。
「全てお見通しかよ! とんでもねぇ強敵だぜ!」
密林へと退避しながら、別のシールドカプセルを準備するジョー。
「ゴーレムがやられる前に……、ケルベロス、頼んだぜ!」
新たなシールドカプセルをスミスに向け投擲。大地で割れたカプセルからケルベロスが出現した。
ケルベロス——地獄の番犬と称される犬の怪物——は体長3mの巨躯、犬の胴体に獰猛な三つの頭。時速70kmで疾駆し、捉えられたら最後、骨まで食い尽くされる。
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