第四章 ドラゴンVS恐竜 その3
4.7 ドラゴン VS 恐竜 試合模様その二
金龍はゆっくり降下し、翼をバタつかせ恐竜に近づく。地上に降り立ち、警戒心を解いて観察。足先で恐竜の体躯に触れた瞬間、恐竜のまぶたが開き、ギロッと真紅の眼球が金龍を捉えた。
素早く起き上がった恐竜は、上昇しつつある金龍の両足を両手で掴む。そのまま、凄まじい怪力で地面へ叩きつけた。続けて金龍の体躯にまたがり、マウントポジションをきめる。
重量勝負では恐竜に軍配が上がり、ジタバタ暴れるも脱出できない金龍。
首の長い金龍が、恐竜の鼻先まで顔を近づけ威嚇するように甲高い雄叫びを上げた。
恐竜は怯みもせず、いったん深く息を吸い込み、金龍の顔めがけ凄まじい重低音の咆哮を返した。
すると、咆哮を発している恐竜の口から出る空気が、光の屈折で波打つように伝播しているのが目視できる。それは超音波となって、金龍の頭に襲いかかっているのだ。
金龍が頭を左右に振り、嫌がっているのが見てとれる。
やがて、金龍の苦しむ反応が和らいできた。もしかすると、聴覚は使い物にならなくなったのかもしれない。
密着した状態で、口から炎のブレスを吐き出す金龍。恐竜の顔面に近距離で炎が直撃し、さすがにその場を離れマウント状態が解かれた。
脱出した金龍は、お返しとばかりに肉弾戦に挑む。
低空飛行から勢いをつけ全体重を乗せたドロップキック。40トンの巨躯が繰り出す両足蹴りは、遠方から見る映像としてはあまりにも緩慢で迫力に欠けるが、飛行能力を活用して勢いを増した重量級の突進は相当の衝撃であろう。
が、50トンの恐竜パワーも当然負けてはいない。両足キックを正面から受けるも、2、3歩後退り踏ん張る。
体勢を取り戻した恐竜は前屈みになりながら、鼻先の巨大な角を前方に向け闘牛のごとき勢いで突撃。金龍の体躯を真正面から捉え、がっぷり四つの様相で掴み合う。
文字通り、異種巨大生物の横綱同士がぶつかり合う肉弾戦だ。
ちょうど、虫型の超小型ドローンカメラが2頭の巨大モンスターの足元に寄り、大地に立つ人間の目線で撮影をしている。双方の巨躯を足元から見上げるアングルで撮影され、観戦者に激しい肉弾戦をダイナミックに伝えていることだろう。
巨大モンスターが組み合ったまま一歩移動するごとに地響きが鳴り、大地を抉るように巨大な足跡を描く。パワーとパワーのぶつかり合い、大地を踏み締めて姿勢を制御できなければ、横倒しにされ、いっきに不利な立場へと追い込まれる。
土砂に足跡が刻まれると、粉塵が舞い砂煙が荒れ狂う足元の気流に巻き込まれる。
2頭の凶暴なモンスターは時折雄叫びを上げ、まるで悪ガキ同士の取っ組み合いのように、ただただ相手をねじ伏せようと躍起だ。
パワーでは恐竜側に軍配が上がる。
しかし、刃のごとく鋭い爪で金龍の胸を引っかくが、金龍の強靭で硬質な鱗に傷一つ付けられない。
次に、ティラノサウルスのごときアゴで金龍の左肩に咬みついた。万力のように凄まじい破壊力で鱗を引きちぎろうと、いっそう残虐な表情に変わった。
金龍は咬みついて離れない恐竜を振り払おうと、翼を広げ暴れ始めた。低空飛行も交え激しく前後左右に体躯を振動させるが、恐竜は離れない。恐竜の両足が大地を離れ、50トンの巨躯が宙に浮いた状態であっても離さなかった。
それはあたかも、警察犬が追い詰めた犯人の腕に咬みつき離さないというシーンによく似ていた。
金龍は長い首を器用に使って、口元が恐竜の後頭部側にくるように位置取りをする。真後ろから恐竜の首元を狙って炎のブレスを放射した。
これには、頑固に左肩の破壊を試みた恐竜もたじろぎ、大口の牙を離した。
再び勢いよく空へと舞う金龍。
しかし聴覚を失ったせいか、平衡感覚にも異常をきたしているようで、飛行がフラつき高度も徐々に下がっていく。
恐竜は、低空飛行になってしまった金龍めがけ、容赦なく先程の超音波咆哮を浴びせる。有効射程距離はそこそこあるようだ。
金龍は恐竜の超音波攻撃を嫌悪し、恐竜に向け突撃飛行。恐竜も対抗するように猪突猛進する。
激しくぶつかり合う両者。恐竜の鼻先にあるサイのような大きな角が、金龍の左肩に直撃した。
先ほどから攻め続けた甲斐があって、50トンの巨躯が繰り出した猛進が破壊不可能な金龍の鱗を初めて剥ぎ取った。そこは大きな創傷と化し、金龍が受けたダメージの象徴となった。
すると金龍は、恐竜の両肩に生えている角を両手で掴み、恐竜の顔面目掛けて口から火炎放射。恐竜は暴れて金龍を振り払おうとするが離れない。休まず炎のブレスを恐竜の顔面に食らわし続ける。金龍の目的は、恐竜の眼球を焼き切り、視覚を奪うことにあるようだ。自身の聴覚を奪われたように。
恐竜の体表がいかに分厚く、炎に焼かれないとしても、眼球だけは防げない。狙いどおり両目が焼け焦げ、眼球を失ったようだ。
視覚を奪われた恐竜は、尻尾を勢いよく振り回し、先端にあるトゲ付き鉄球のような骨の塊を、金龍の横っ腹にヒットさせた。
一瞬たじろぐ金龍だが、雄叫びを上げながら急上昇し、その場から離れる。
ドームの頂上付近で空中静止し、恐竜の様子をうかがう金龍。平衡感覚に異常をきたしているが、少しは慣れてきたようだ。
案の定、視覚を失った恐竜は、何もないところを両手で手探りし、何も見えていないのが明らかだ。
遠吠えのように雄叫びを上げる恐竜。悔しさが滲み出ている。
ゆっくり翼を動かし空中で静止している金龍が、天を見上げ、何かに集中している。
徐々に全身が帯電し始め、パリパリと電気が走る音がゆっくりと響き始めた。頭部の2本の角に向けて、ドームのバリアを形成する高圧電流が放電し始める。金龍の角が避雷針の役を担って、バリア全面を駆け巡っている電流を、その肉体にかき集めているのだ。
しだいに、ドーム内を駆け巡る電気の帯が所狭しと暴れ始め、ドーム全体が青白く発光し始めた。
金龍も全身が激しい雷光に包まれ、雷鳴が鳴り響く直前のように、電気と電気の摩擦音が膨れ上がっていく。
金龍の両目が青く輝き、それを合図に、轟音とともに強烈な雷撃が恐竜に向け放たれた。
一撃必殺の雷撃が恐竜の頭部に直撃する。
同時に、金龍は急降下。地面へと恐竜が倒れる前に、トリケラトプスの後頭部にある部位——エリマキトカゲのエリに似たような硬い形状——を両足で掴む。そのまま、上昇する金龍。
恐竜が空中に浮かんだ直後、自重を支えられない首が無残にも胴体からもぎ取られる。首無しとなった恐竜の肉体が、地表へと落下した。
金龍は勝利の雄叫びとともに、ちぎり取った恐竜の首をドームのバリア壁目掛けて投げ飛ばした。
§ § §
4.8 ドラゴンVS恐竜 観戦模様その二 アラトの部屋
うげぇ、と、急に口を押さえるアラト。スクっと立ち上がり、トイレへと駆け込む。ゲェゲェ、と嘔吐し始めた。
「あ~、キモい。首がもげて、うげぇぇぇ……」
この直後、さらに信じられない光景がモニターに映し出されることになるのだが。
【ブックマークのお願い】
継続して読んでいただいている読者の皆様、誠に有難うございます。
是非とも、ブックマークの便利な更新通知機能をご利用ください。
【作品関連コンテンツ】
作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。