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第三章 アラトは能天気 その1

3.1 アラトは能天気


 第一回戦第一試合が終了した。


 アラトは、できるだけ首を動かさずに、恐る恐る義理子先輩の方に視線を向ける。


(あちゃ~、あきまへん。先輩、絶対不機嫌だよなぁ~、推しが負けちゃって……)


「新人さん」


「はい!」


「わたくし、部屋に戻りますので。また明日の朝お会いしましょう」


「はい! かしこまりました!」


 アラトは背筋をピンと伸ばし敬礼する。義理子先輩をいっさい見ることなく、部屋を出ていくのを待った。ドアが閉められる音を確認し、ふぅぅぅ~、と長い溜め息をつく。


 しばらくして、ハッと気づいた。


「げっ、ヤバイ! これからのこと訊き忘れた!」



 ◆   ◆   ◆



 その日の午後。


 アラトはベッドの上で悶絶もんぜつしていた。


「うわぁー、マジかぁー、超おもれぇー」


 一人で歓声を上げつつ、歓びを全身で表すアラト。


「特に特に特に、超人とキャプテンの一騎打ち! あのシーン、超エキサイティング! もう、あれってハリウッドのムキムキ筋肉アクションスーパースターと香港の伝説的マーシャルアーティストの時代を超えた夢の共演実現てなもんだよなぁー! 超カッコえぇぇぇー!! 超超カッコえぇぇぇー!!」


 第一試合観戦中、義理子先輩と一緒だったあいだは、遠慮してグッと感情を抑えていた。が、義理子先輩が部屋を去ったあと、興奮しすぎで、2時間ほどのた打ち回っているのだ。


 つい先ほど決着した第一試合の模様が、アラトの嗜好しこうにドストライクだったのだから仕方ない。『かっけぇー』とつぶやいては、白熱する対決シーンを脳内で幾度もリピートしていた。


 アラトは根っからの格闘ゲームファンで、中学、高校時代から、友人を数十人集めては、独自の格闘ゲーム大会を開催していた。アラト本人はゲームが得意なわけでも強いわけでもない。


 格闘ゲームの中でも、異なるカテゴリー同士の対決が特に大好きで、ただただ『異種格闘技戦』という言葉に弱い。勝とうが負けようが、異なる種目の最強と最強がぶつかり合ったら、いったいどうなるのか興味津々なのだ。


 当然、ゲームの中には映画やアニメで活躍するヒーロー同士の対決というコンテンツも存在する。


 よって、第一試合の模様はアラトにとって最高のドリームマッチだった。それは、狂乱して2時間踊り続けたとしても不思議ではない……、というほどだ。


 興奮要素には、超絶美人先輩と同じ部屋で二人っきりで過ごすという、エロくて甘い成分がほんのちょっと含まれていたことは言うまでもない。


 なんかあったわけじゃないけど……。


 ひととおり踊り狂ったあと、ようやく落ち着いたアラトは一人で昼食を済ませ、いまだ余韻に浸っていた。


「え~と、次の対戦は?」


 アラトは上機嫌で鼻歌交じりに第一回戦対戦組合せ表を広げる。


「ほほう、ドラゴンVS恐竜。いいねぇ~、おもしろいねぇ~」


 第一回戦対戦組合せ表を手にしたまま思考。


「え~と……」


 第一回戦対戦組合せ表を手にしたまま硬直。


「ギャャャャャ~~~」


 アラトは何かに気づき、絶叫した。


「あぁぁぁ、またもやアンポンタンぶりを発揮したぁ! これって僕も参加してんだよねぇ、ねぇ! ってことは、こいつらが勝ち上がったら、僕も対戦する可能性あんじゃん! 絶対、絶対死ぬに決まってんじゃん!」


 アラトは独りで声を張り上げ、頭を抱えて座り込んだ。


「うわぁぁぁ~、マジかよ……」


 しばらく沈黙が続く。


「もういいや、諦めも肝心。ちなみに僕の試合っていつだ? 明日が2試合目なら、1日1試合ペースってことか?」


 再び対戦組合せ表を広げ、説明部分を見つける。


「なるほど……。試合の時間制限は100時間。100時間で決着がつかない場合、狭い闘技場に移ってサドンデス。サドンデスの時間制限は未記載。

 毎日1試合ずつ開始する。24時間以内で勝敗が決まる決まらないにかかわらず、毎日1試合ずつ朝9時にスタート。

 要するに、24時間で勝敗が決着すれば、自分が出場する時を除いて、全ての試合が観戦できちゃう。やっぱり、そうでないとね。

 そして試合が24時間超えたら、他の試合と被っちゃうわけか。観戦はどれか一つを選ぶってことだろうなぁ」


 アラトは、自分の試合が何番目なのか確認する。


「僕、最後じゃん。32枠で16試合目。メチャゆっくりできるじゃん、ワ~イ!

 で、勝敗は……、戦闘不能になるか、どちらかが『負け』宣言するか、ってことか。そりゃ、瞬殺されたら戦闘不能ですよねぇ~、ナハハッ」


 気楽に独りごちったあと、笑みを消し、はぁぁぁ~、と深く嘆息する。


「んっ? そうか!」


 ポン、と手を打ち、急に頭の上にランプが点灯したかのように、いいことを思いつくアラト。


「さっきキャプテンが、え~と、超人の、ナンタラスターに言ってたよなぁ~。『負け』と一言いえば、運営が試合終了にするって。

 なんだ、超余裕じゃん! なんだよ、もう! メチャメチャ簡単なお話じゃありませんか! ドラゴンだろうが怪獣だろうがなんでも来い! 試合開始と同時に負け宣言で終了じゃん!」


 立ち上がって踊り出すアラト。


「ワ~イ、ワ~イ、超ヨォ・ユゥ・ウゥ~」


 ふと、立ち止まるアラト。


「とはいえ……。どこでアンポンタン再発動するかわかんないから、一応、色んな謎を解いとかないとマズいよなぁ~、このままじゃ。

 まぁ~た、違約金10億円とか言い出しかねないし……、10億円って、子どもか! と叫びたい……」


 ふてくされているだろう義理子先輩に会いに行くのはさすがに気が引けた。

 そして、アラトには別の疑問があった。


「一体全体、他の出場者はどこにいるのだろう?」


 トーナメント表には、女子高生とかプロゲーマーとか人間と思しき出場者が記載されている。なら、どこかで会えるのではないか。


 アラトは、まず、このホテルらしき建物を調べることにした。暇だし。


 アラトの部屋は232号室、義理子先輩は201号室。同じ2階。2階をうろつくが誰にも出くわさない。ホテルの従業員すらどこにもいない。階段がそもそも2階止まりで、エレベータも3階以上を指定するボタンが無い。建物は10階建て以上に見えるのに。


 1階を探検すると、大きなホールもしくは講堂のような場所があるが、『敗退者専用観戦ルーム』とだけ表示があって中には入れない。


 外の庭園も相当広いのだが、どれだけ歩き回っても人っ子一人見つからなかったので、諦めて部屋に戻った。


「なんか、暇……」


 疲れたのか緊張感がほぐれてきたのか、夕食後、アラトは早々に寝てしまった。


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